ドバイ経済アジェンダ「D33」とは?政府の方針と将来のドバイ不動産マーケットの予測を解説

目次

ドバイ経済アジェンダ「D33」とは?基本概要を解説

D33とは?

ドバイ経済アジェンダ「D33」は、2023年1月4日にムハンマド首長が発表した10か年の経済戦略で、2033年までにGDPを倍増させ、ドバイを「世界トップ3の投資・居住・就労都市」に押し上げることを目標としています。

D33の基本情報

D33はドバイ政府が掲げる10か年の最上位経済計画で、100の変革プロジェクトから成ります。目的は2033年までにドバイを

  • GDP倍増
  • 世界トップ3の投資・居住・就労都市
  • 世界4大金融センターの一角

へと押し上げることです。主な柱は人材育成・先端技術投資・デジタル経済の拡大・経済多角化・持続可能性。政府はこれらを通じて、国内外の企業と専門人材を呼び込み、起業家精神を育み、将来世代のUAE国民を民間セクターに統合することを目指しています。要するにD33は、次の10年でドバイを「より大きく、より強く、より持続可能な都市経済」へ導くロードマップです。

D33で掲げた数値目標

D33では、具体的なKPI(重要目標指標)として以下の数値目標が定められています。

  • 海外貿易額:過去10年間(直近10年累計)の14.2兆AED(約553兆8,000億円)から、今後10年間で25.6兆AED(約998兆4,000億円)へ拡大する。約400都市を新たにドバイの貿易相手地図に加え、国際貿易ハブとしての地位を強化する計画です。

  • 外国直接投資(FDI)額:年間平均約320億AED(約1兆2,480億円)(過去10年)から年間平均600億AED(約2兆3,400億円)へ増加させ、2033年までに累計6,500億AED(約25兆3,500億円)のFDI誘致を目指します。これにより世界中の企業・投資家を呼び込み、ビジネス環境を活性化させます。

  • 政府支出:政府歳出を過去10年の累計5,120億AED(約19兆9,680億円)から今後10年で7,000億AED(約27兆3,000億円)に引き上げます。インフラや公共サービスへの投資拡大で経済成長を下支えする狙いです。

  • 民間セクター投資:民間の累計投資額を7,900億AED(約30兆8,100億円)(過去10年)から1兆AED(約39兆円)(今後10年)に増やします。官民連携で事業機会を創出し、企業活動を促進します。

  • 国内需要(財・サービス):国内総需要を過去10年の累計2.2兆AED(約85兆8,000億円)から今後10年で3兆AED(約117兆円)に拡大します。人口増加や観光振興により内需を強化し、経済の安定性を高めます。

  • デジタル変革による付加価値:デジタル化プロジェクトによる経済寄与を年間1,000億AED(約3兆9,000億円)にする。デジタル経済推進で、新産業やサービスの創出と効率化を図ります。
指標実績(直近10年累計/年平均)2033年ターゲット
海外貿易額14.2 兆25.6 兆
FDI (年平均)320 億600 億 (累計 6,500 億)
政府支出5,120 億7,000 億
民間セクター投資7,900 億1 兆
国内需要2.2 兆3 兆
デジタル付加価値(年)1,000 億

出典:Dubai D33 Agenda/JETRO 『アラブ首長国連邦の貿易投資年報 2024』

以上の数値目標から、D33は単にスローガンではなく具体的な指標を伴った行動計画であることが分かります。これらを達成することで、ドバイは2033年までに経済規模を倍増し、世界有数の経済都市へ飛躍することを目指しています。

「D33」が掲げる7つの戦略目標

経済成長とGDPの倍増

経済規模の倍増(GDP倍増)はD33の最上位目標です。急速な経済成長を継続させ、2033年までにドバイのGDPを現在の2倍に引き上げます。これには毎年平均して7%以上の成長が必要と見込まれ、政府は積極的な投資と政策改革で実現を目指しています。特に人材育成(教育・スキル向上)と先端テクノロジー導入が成長の鍵と位置付けられ、知識経済やイノベーションによる生産性向上でGDP拡大を図ります。

この目標は、単に数値上の達成だけでなく、ドバイ経済の質的向上も伴うものです。石油依存から脱却し多角化を進めてきたドバイは、現在GDP約4,290億AED(約16兆7,310億円)(2023年時点)まで成長しました。D33ではこれを約10年で倍増させることで、持続可能な高成長路線に乗せることを狙っています。「世界で最も高速で安全、そしてコネクティッドな都市」となるビジョンも掲げられ、経済成長を都市の生活向上と結びつけています。

ドバイ名目GDP推移とD33目標グラフ
図:ドバイ名目 GDP 推移(2019-2023)と D33 倍増目標(2033 ≈ 8.6 兆AED)

国際貿易と投資の促進

ドバイはもともと貿易都市として発展してきましたが、D33ではさらに国際貿易と対外投資の拡大を重視します。具体的には、海外との貿易総額を約1.8倍に増やす(次の10年で25.6兆AED(約998兆4,000億円))という大胆な目標が設定されています。これは新規に400都市を貿易対象に加える計画で、アフリカ、南米、東南アジアとの「未来経済回廊2033」の構築など、新興市場との連携強化が柱です。地理的優位性を生かし、グローバルな貿易ハブとしての地位を一層高める戦略です。

また、外国直接投資(FDI)の飛躍的増加も目標とされています。年間FDI流入を平均600億AED(約2兆3,400億円)に引き上げ、累計で6,500億AED(約25兆3,500億円)以上を誘致する計画で、これにより世界中の多国籍企業や投資家をドバイに呼び込みます。すでに政府はビザ制度の緩和や100%外資出資の容認(一部業種)など投資環境を大幅に改善しており、D33の下でより競争力のあるビジネス環境を整える方針です。例えば事業コストの削減やワンストップの行政サービス(統一営業許可証の導入など)によって、企業誘致を促進します。

海外貿易額とFDI年平均 実績vs目標グラフ
図:海外貿易額・FDI 年平均 ― 過去実績と D33 目標の比較

要するに、D33の下でドバイは「世界貿易と投資のクロスロード」としての役割を一段と強化し、中東・アジア・欧州を結ぶ結節点として経済的プレゼンスを高める戦略です。その成果指標が貿易額の拡大とFDIの倍増という数値目標に表れています。

グローバル企業の誘致と起業支援

ドバイをグローバル企業の拠点かつスタートアップのハブにすることもD33の重要な柱です。政府はドバイを「世界で最も魅力的なグローバルビジネス拠点」にすることを掲げており、これには多国籍企業(MNC)の誘致と地元発のユニコーン企業育成の両面があります。

具体策として、D33初期プロジェクトには「30社のユニコーン企業育成プログラム」が含まれています。新たな経済セクターでグローバルに通用する企業を30社育てる計画で、スタートアップへの成長支援や資金調達面のサポートが強化されます。 また、中小企業(SME)400社のスケールアップ支援プログラムも同時に打ち出されており、将来的な主力企業のすそ野を広げる狙いです。

一方で誘致策としては、「ドバイ統一ライセンス」の導入が挙げられます。これはドバイ全域で有効な共通商業ライセンスを発行する構想で、会社設立手続を簡素化しビジネスのしやすさを世界トップクラスに高めます。併せて「Dubai Traders」プロジェクトによる若手起業家の育成や、規制サンドボックス制度による新ビジネス試験運用の促進など、企業が成長しやすいエコシステム作りが進められています。

ドバイはすでに中東本社を置くグローバル企業も多く、近年はスタートアップシーンも活発化しています。D33はそれをさらに加速させ、「世界中の企業に選ばれるビジネス都市」「起業家精神が花開く都市」というブランドを確立しようとしています。

ハイテク・デジタル経済の発展

ハイテク産業やデジタル経済の飛躍的発展もD33の核となる目標です。政府高官は「2031年までにUAEのデジタル経済がGDPの20%以上を占めるようになる」と見込んでおり(2023年時点では約9.7%)、ドバイもその先頭に立つ構えです。D33では毎年1,000億AED(約3兆9,000億円)のデジタル経済価値創出を目標に掲げ、あらゆる産業のデジタル化とテクノロジー新産業の育成を推進します。

具体施策としては、「Sandbox Dubai」と呼ばれる規制緩和策があります。これは新技術やビジネスモデルを試験導入・商用化できる環境を整備するもので、フィンテックやAI、ブロックチェーンなどの分野でイノベーションを加速させます。既にドバイは暗号資産やAI活用で先進的な取り組みを行っており、D33ではそれを包括的戦略として位置付けました。

また、世界最高水準の通信インフラ整備やスマートシティ化も並行して進められます。5G/6G通信網、IoT、ビッグデータ基盤の強化によって、デジタルトランスフォーメーションが都市全域で進行中です。例えばドバイ政府は行政サービスのデジタル完結やブロックチェーンによる書類削減などを既に実現しており、民間部門でも電子商取引、スマート物流、自動運転など次々と新技術が実装されています。

このような動きを通じ、D33はドバイを「未来志向のテクノロジーハブ」へと変貌させることを目指します。デジタル経済の拡大は若い世代の雇用創出にも繋がり、実際D33では6.5万人の若年エミラティを民間就業へという目標も設定されています。ハイテク・デジタル分野での成長は、ドバイ経済全体の持続可能な発展エンジンとして期待されています。

観光とライフスタイル産業の強化

観光産業の強化もD33で特に注力される分野です。ドバイは2010年代にかけて「世界の観光都市」へ飛躍し、2019年には年間約1,670万人の海外旅行者を迎えました。パンデミックの打撃を受けたものの、その後力強く回復し2023年には過去最高の1,715万人の訪問者数を記録しています。この勢いを受け、D33では「世界トップ3の観光・ビジネス目的地」となることを掲げました。

具体的な戦略目標として、観光客数のさらなる増加や観光収入の拡大が挙げられます。政府系のドバイ経済・観光庁(DET)の統計によれば、2024年には訪問者数1,872万人に達し前年比+9%となる見込みです。ホテルの平均稼働率も2023年に77.4%とコロナ前を上回る水準に達しており、観光インフラの高い収容力が示されています。D33の下では、エンターテイメント施設や文化イベントの拡充、高級リゾート開発、クルーズ船誘致など多面的に観光魅力を強化する計画です。

国際訪問者数の回復2019-2024グラフ
図:国際訪問者数の推移(2019-2024E)―― パンデミック後の着実な回復

観光と並んで、「ライフスタイル産業」すなわち居住環境や都市サービスの充実も重視されています。教育や医療、ショッピング、エンタメといった分野で世界最高水準の質を提供し、富裕層や専門人材が「住みたい」と思う都市を目指します。例えばD33プロジェクトの一つに「世界有数の大学を誘致し高等教育ハブにする」計画があり、教育環境の充実を通じた都市魅力度向上が図られています。

総じて、D33はドバイを訪れる人・住む人の双方にとって魅力的な都市ライフスタイルを提供することに焦点を当てています。観光業の強化は短期賃貸マーケットや小売・飲食業の活性化にも寄与し、都市経済に広く波及効果をもたらすでしょう。

インフラと都市開発の推進

インフラストラクチャーの拡充と計画的な都市開発の推進も、D33の重要な柱です。ドバイ政府は2025年予算で歳出の46%にあたる約396億AED(約1兆5,444億円)をインフラ関連に充当するなど、大規模な投資を継続しています。この予算には道路・トンネル・橋梁、公共交通システム、空港拡張などが含まれ、D33や2040年アーバンマスタープランの目標達成を下支えする計画です。

具体的な取り組み例として、ドバイメトロの延伸(ブルーライン計画)があります。ブルーラインは全長30km・14駅からなる新路線で、ドバイ内の主要エリアを結ぶプロジェクトです。総投資額約180~205億AED(約7,020億〜約7,995億円)規模で2025年に着工し、2029年9月の開業を目指します。この新路線はドバイクリークハーバー、フェスティバルシティ、ミルディフ、シリコンオアシスなど新興の居住・商業地を結び、既存のレッドライン・グリーンラインとも接続される計画です。

🚌🚇 ドバイメトロ新「ブルーライン」30 km(計画)と既存レッド/グリーンラインの位置関係
①JAFZA ②マリーナM ③ブルーバイ ④フェスティバル ⑤ラ・メル ⑥ラス・アルホル ⑦クリークHR ⑧Mirdif ⑨Academic ⑩Silicon ⑪インタシティ ⑫アルワルカ ⑬国際空港連絡 ⑭ドバイサウス 凡例 ブルーライン(計画) レッドライン グリーンライン

※概念図(縮尺・駅位置はイメージ)。ブルーライン沿いの再開発エリアを把握するための参考イラストです。

※概念図(縮尺・駅位置はイメージ)。ブルーライン沿いの再開発エリアを把握するための参考イラストです。

さらに、アル・マクトゥーム国際空港(DWC)の拡張もD33期における最大級のインフラ事業です。ドバイ南部のDWCは将来的に世界最大のハブ空港となる計画で、約1,280億AED(約4兆9,920億円)を投じて2040~2050年頃まで段階的に拡張されます。第1期として2030年までに年間1億3,000万人の旅客処理能力を整備し、最終的には5本の滑走路・400ゲートで年間2億6,000万人を受け入れる規模へ拡大します。空港拡張は空港都市(エアロトロポリス)であるドバイ・サウスの発展と連動しており、物流・航空関連産業の集積が進むことで地域価値を押し上げます。

道路網の強化についても、ドバイ全域で複数のプロジェクトが進行中です。市内幹線道路の拡幅や新規ハイウェイ建設に加え、主要交差点の立体交差化、街区ごとのスマート信号導入などが行われています。これにより都市交通のスムーズ化と20分シティの実現が図られます。

持続可能な開発とグリーンエネルギー政策

D33の最後の柱は、持続可能な開発(サステナビリティ)とグリーンエネルギー政策です。ドバイは気候変動対策や環境保全にも力を入れており、UAE全体では2050年までにネットゼロ(カーボンニュートラル)を目指す宣言をしています。D33でも経済成長と両立する形でグリーン戦略が組み込まれました。

産業面ではグリーンで持続可能な製造業計画が盛り込まれています。エネルギー効率の高いスマート工場の促進やクリーン技術の導入によって、製造業の付加価値を高めつつ環境負荷を低減する取り組みです。また再生可能エネルギーの導入拡大やグリーン水素の実証も進められています。

インフラや都市開発においても環境配慮型プロジェクトが推進されています。DWC空港は太陽光電力で稼働する世界初の巨大ハブ空港を目指しており、ドバイメトロのブルーラインでもグリーンビルディング規格最高水準の環境設計を採用予定です。都市計画でも緑地の拡大や公共交通シフトによるCO2削減、建築物の省エネ基準強化など、多方面からサステナブルシティへの転換を図っています。

D33はこれらの環境・エネルギー分野の取り組みを経済アジェンダに統合し、「経済成長=持続可能な発展」という図式を実現しようとしています。経済を拡大しつつ環境負荷を低減する道筋を示すことで、ドバイの国際的な評価(ESG評価など)を高め、長期的な繁栄の基盤を築く狙いがあります。

D33を掲げる背景

次の成長曲線を描く理由

D33が策定された背景には、ドバイが次の成長曲線を描く必要性に直面していたことがあります。2000年代以降、ドバイは急速な発展を遂げてきましたが、その過程では景気循環の波も経験しました。特に2008年の金融危機では不動産市場のバブル崩壊に伴い経済が大きく落ち込み、政府は隣国アブダビから金融支援を受ける事態となりました。こうした教訓から、ドバイはその後経済モデルの「リブート」を図り、より持続的な成長路線への転換を模索してきました。

2010年代には観光・物流・サービス業の拡大や政府主導のインフラ投資で経済は回復・成長し、2020年の万博(エキスポ2020ドバイ)誘致にも成功します。しかしながら、新型コロナウイルス禍で観光客が激減し、一時は経済に再び逆風が吹きました。ドバイ政府はこの危機を逆手にとり、構造改革と規制緩和を断行します。例えばゴールデンビザ(長期居住ビザ)の創設、外国人の企業所有規制撤廃、所得税ゼロの維持、リモートワークビザ新設など、大胆な「オープンドア」政策で世界中から人材・資本を呼び込む戦略を強化しました。その結果、2021年以降ドバイには富裕層やデジタルノマドを含む多数の外国人が流入し、経済は急回復を遂げます。

こうした中打ち出されたD33は、「今ある成長モメンタムを10年間持続させ、真の実力として定着させる」というドバイの意図を体現しています。背景には近隣諸国との競争もあります。サウジアラビアは「ビジョン2030」の下、巨額の国家投資で経済多角化とリヤド等の都市開発を進めています。カタールやアブダビもそれぞれ金融・観光で存在感を増しています。こうした中、ドバイが中東のリーディングシティとして優位を維持するには、現状に安住せず次なる成長戦略が不可欠でした。

長期成長には人口戦略やエネルギー戦略が鍵

競争だけでなく人口動態と需要の変化も考慮されています。ドバイの人口は過去20年で急増し約350万人(2023年)に達しましたが、今後も国際的な人材流入で成長が見込まれます。より多くの人々が移り住みビジネスを興せるように、インフラ容量や住宅ストックを前広に用意する必要があります。例えば国際空港DXBの旅客数は既に年間8,700万人を超え、2030年代には容量の限界に達する見通しです。そこで新空港DWCの拡張が急務となりました。同様に交通渋滞の増大に対処するためメトロ延伸が計画され、新興住宅地への道路網整備も前倒しで進められています。

加えて、気候変動やエネルギー転換への対応も長期成長の条件となっています。高温乾燥の環境下で持続可能な都市を目指すには、環境技術やグリーンエネルギーへの投資が不可欠です。世界的にもESG重視の投資が潮流となっており、ドバイが国際ビジネスセンターとして選ばれ続けるにはサステナビリティ分野での先進性が求められます。D33が掲げるグリーン施策は、そうした世界の価値観シフトに対応し「持続可能な繁栄」を実現する狙いがあります。

総じて、D33アジェンダの背景には内外の情勢変化に対する先手の戦略があります。過去の繁栄を維持・発展させつつ、新たな課題(競争激化、人口増、環境制約)に対応するため、ドバイは包括的な10年計画を必要としていたのです。だからこそD33は、ドバイが次の成長曲線に滑らかに乗るための鍵となるのです。

D33による主なインフラ投資

ドバイメトロ延伸(ブルーライン計画)

ドバイメトロ・ブルーラインは、D33期間中に着工・開業が予定されているメトロ新路線です。全長約30km・14駅からなるこの路線は、既存のレッドライン・グリーンラインに続く第3の路線となります。経由地には、ドバイ・クリークハーバー、ドバイ・フェスティバルシティ、ミルディフ、ドバイ・シリコンオアシスなどが含まれ、これまで鉄道がなかったエリアをカバーします。計画では地下区間(15.5km)と高架区間(14.5km)を組み合わせ、既存路線との乗換駅も3箇所設置される予定です。

ブルーラインの総事業費は約180〜205億AED(約7,020億〜約7,995億円)。2025年に着工、2029年9月の開業を目指しています。このプロジェクトは、D33のインフラ戦略目標に合致するのみならず、ドバイの2040年都市マスタープランの「20分都市」ビジョンにも資するものです。メトロ網が延伸することで、自家用車に頼らず都市内の移動が完結できる地域が拡大し、公共交通利用者数は日当たり32万人増加すると見込まれています。開業後は沿線の交通渋滞が20%緩和し、駅周辺の不動産価値が最大25%上昇する効果が期待されています。

アル・マクトゥーム国際空港(DWC)の拡張

アル・マクトゥーム国際空港(DWC)の大規模拡張も、D33時代に本格化するインフラ投資です。DWCはドバイ南部に位置する新空港で、最終的に世界最大(年間2.6億人規模)の空港に発展させる計画が進められています。ドバイ政府はこのプロジェクトに総額1,280億AED(約4兆9,920億円)を投じ、2030年代半ばまでにドバイの主要ハブ空港を現在のDXBからDWCへ移行させる方針です。

拡張計画の第1フェーズは2030年までに完了予定で、この段階で年間1億3,000万人の旅客をさばける施設規模が整います。具体的には、新たに滑走路を2本建設して合計3本体制に拡張し、巨大ターミナル「コンコース1」と西ターミナルビルを完成させます。さらに、小都市のような巨大ターミナルを利用者が快適に移動できるよう最新技術を導入し、世界最大級ながらも「徒歩で移動可能な空港」という設計コンセプトが採用されます。

DWC拡張の意義は、ドバイが今後も世界の航空ハブとして成長を続けるための基盤整備にあります。現在のDXB空港は2019年に世界旅客数1位になるなど成功を収めましたが, 物理的制約から将来的な拡張余地が限られています。そこで郊外に広大な土地を確保して建設中のDWCにハブ機能を移すことで、今後数十年にわたり増え続ける航空需要に対応しようというわけです。

経済効果も絶大です。DWCの周辺にはドバイ・サウスと呼ばれる大規模都市開発区が広がっており、空港拡張はそのまま周辺地域開発の原動力になります。物流では年間1,500万トンの貨物処理能力を目指しており、世界最大のマルチモーダル物流ハブとなるポテンシャルがあります。

新道路網と公共交通の整備

D33の下で進むインフラ投資の中には、道路網の拡充と公共交通機関の整備も含まれます。ドバイ政府は年間予算の大きな割合を道路交通インフラに充てており、この分野に数百億AED規模の投資を継続しています。この予算には道路拡幅、新規高速道路、トンネル・橋梁、公共交通システムなど幅広いプロジェクトが含まれ、D33や関連する長期戦略の目標達成に寄与するとされています。

公共交通の整備では、前述のメトロ延伸のほかに路線バス網の拡大や水上交通の拠点整備が進んでいます。ドバイは自動運転モビリティ戦略2030を掲げ、交通の25%を自動運転化する目標を持っています。これに伴い自動運転タクシーやシャトルの実証が行われており、将来はスマートモビリティの先進都市として世界から注目される見込みです。

D33 の影響で成長が期待される注目エリア

🗺️ ドバイ市内 D33 重点成長ゾーン 位置イメージ
🏙️ Downtown Dubai Dubai Marina 🌊 Creek Harbour ✈️ Dubai South 🎡 Expo City

※概念図(縮尺・形状はイメージ)。D33 下で成長が期待される5 つの主要ゾーン
相対位置・距離感をつかむための参考マップです。

※概念図(縮尺・形状はイメージ)。D33 下で成長が期待される5 つの主要ゾーン
相対位置・距離感をつかむための参考マップです。

ダウンタウン・ドバイ(Downtown Dubai)

ダウンタウン・ドバイは、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」や巨大ショッピングモール「ドバイモール」を擁するドバイの中心市街地です。既に確立された高級エリアですが、D33による経済拡大はダウンタウンの不動産需要をさらに底上げすると期待されています。観光客・駐在員ともに必訪のランドマークが集中するため、経済成長=人の増加が直結して地価や賃料を押し上げる傾向があります。

実際、2023年のドバイ不動産市場ではダウンタウンは取引額で市内4位(約50億AED(約1,950億円))と上位を占めており、引き続き国内外の投資家から人気です。同年は賃貸マーケットにおいて一時的に供給超過から家賃下落も見られましたが、これは2022年の急騰の反動であり、中長期的には堅調推移が予想されています。

ドバイ・マリーナ(Dubai Marina)

ドバイ・マリーナは、ダウンタウンと並ぶ人気の高級住宅エリアであり、ウォーターフロントの高層マンション群が立ち並ぶエリアです。美しい人工マリーナとビーチが魅力で、外国人富裕層や駐在員に特に人気があります。D33によるドバイ経済の発展は、ドバイ・マリーナにも引き続き好影響を与えると期待されます。

現在でもドバイ・マリーナの不動産市場は非常に活況です。2023年、プライム物件(高級住宅)の価格上昇率は前年比+24%と市内で突出しており、在庫不足もあって価格上昇トレンドが続いています。取引額でも2023年Q4には単独で82億AED(約3,198億円)に達し全エリア中2位となるなど、マーケットをけん引する存在です。

ドバイ・クリークハーバー(Dubai Creek Harbour)

ドバイ・クリークハーバーは、旧市街に近いクリーク沿いに開発中の大規模ウォーターフロント地区です。デベロッパーのエマール社とドバイ政府系企業の提携で進められており、「ダウンタウン2.0」と称されるほどの野心的プロジェクトとなっています。完成すれば総人口20万人以上を収容する巨大コミュニティになる見込みで、住宅・商業・オフィス・レジャー施設が複合的に整備されます。

D33のインフラ戦略は、このドバイ・クリークハーバーの発展を大きく後押しします。一つは前述のメトロ・ブルーラインです。ブルーラインの路線は同地区を経由し、ランドマーク駅が設置されます。これにより市内各所からのアクセスが飛躍的に向上し, 将来的には1日16万人もの利用者が訪れるハブとなる計画です。

ドバイ・サウス(Dubai South)

ドバイ・サウスは、ドバイ南部に位置する面積145平方kmの巨大マスタープラン都市です。アル・マクトゥーム国際空港を中心に、物流フリーゾーンや航空産業区、住宅・商業ゾーンなどが整備される空港都市(エアロトロポリス)として開発が進められています。

D33における最大のインフラ投資であるDWC空港拡張は、このドバイ・サウス全体の発展と不可分です。空港拡張によって周辺地域に莫大なビジネス機会が生まれ、関連施設・サービスへの投資が流れ込むでしょう。エキスポ2020跡地のエキスポ・シティ・ドバイや新規住宅プロジェクトも続々進行中で、同エリアはD33の効果で最も飛躍が期待できるエリアといえます。

D33がドバイ不動産マーケットに及ぼすインパクト

高級不動産市場の活況

2024年、高級住宅価格は前年比+16.2%と主要都市で最高水準を記録し、1,000万米ドル超の取引が435件、1,000万AED(約3億9,000万円)超の取引は4,600件(+23%)に達しました。富裕層流入とゴールデンビザ緩和が需要を一段と押し上げています。

短期賃貸・観光需要の回復

短期賃貸は収益性が高く、2024年の平均リスティングは年間約156,000AED(約608万円)を稼ぎ、稼働率はおおむね70%前後(統計により40%台の報告も存在)とされています。ピーク期(11〜1月)には月間収益が5,293AED(約20万6,000円)に達する例もあります。

スマートシティの拡大

D33は、AI・IoT・ブロックチェーンといった先端技術を都市開発へ全面的に取り込み、スマートシティ化を加速させています。エネルギー管理やセキュリティを自動制御するスマートホームが普及すれば、エネルギー効率が向上し、利便性と安全性も高まるため、物件価値の押し上げ要因になります。実際、スマートインフラが整備された地域では、そうでないエリアに比べて不動産価格に15〜25%のプレミアムが付くとの分析があります。さらに、ブロックチェーンを活用した取引基盤「REST」は、不動産売買に要する時間を約60%短縮し、手続きの効率化に貢献しています。こうしたスマートシティ化の進展は、ドバイ不動産の魅力を高め、長期的な価値向上に寄与すると期待されています。

ドバイ不動産市場のリスクとチャンス

投資チャンス:成長市場としての魅力

力強い市場成長

2024年には不動産取引総額が7,610億AED(約29兆6,790億円)(前年比20%増)、取引件数が226,000件(前年比36%増)に達するなど、記録的な成長を続けています。2025年も5〜10%程度の価格上昇が見込まれています。

税制上の優位性

所得税、キャピタルゲイン税、固定資産税がゼロであることは、投資家にとって大きな魅力です。

ゴールデンビザ制度

200万AED(約7,800万円)以上の不動産投資で長期居住ビザが取得可能となり、海外からの投資家や移住者を惹きつけています。2024年の制度改正でモーゲージ利用やオフプラン物件も対象となり、利用しやすくなりました。

D33による経済成長期待

GDP倍増、FDI誘致(2024年は過去最高の1,826件のFDIプロジェクト誘致)、インフラ投資(DWC空港拡張、メトロ延伸など)といったD33の目標達成に向けた動きが、不動産市場への期待感を高めています。

グローバルハブとしての地位

地政学的な安定性、世界クラスのインフラ、多文化共生社会といった要素が、ドバイを安全な投資先として際立たせています。

考慮すべきリスク:変動性と政策変更の可能性

市場の変動性

ドバイ不動産市場は過去に急激な価格変動(2008年の金融危機後の下落など)を経験しており、将来的な価格調整の可能性は常に存在します。ただし、現在の市場は以前よりもファンダメンタルズが強く、投機的な動きは限定的(20%未満)との見方もあります。

供給過剰リスク

2024年には記録的な数のプロジェクトがローンチされ(15時間に1件のペース)、2025年には42,000戸以上の住宅供給が見込まれています。一方で、実際の完成率は予測を下回る傾向にあり(2024年は予測の44.3%)、供給不足が続いているセグメント(特にヴィラ)もあります。需給バランスの変動には注意が必要です。

政策変更リスク

政府は市場の安定化のために規制を導入・変更する可能性があります。最近では、モーゲージ購入者に対する追加頭金要件(2025年2月導入)や、AML(マネーロンダリング防止)規制の強化などが見られます。法人税の導入(2023年)やその後の改正も、特定の投資ストラクチャーに影響を与える可能性があります。ゴールデンビザの要件変更なども将来的にあり得ます。

金利変動リスク

世界的な金利上昇は、建設コストやモーゲージコストを増加させ、市場に影響を与える可能性があります。

グローバル経済の影響

ドバイ経済は世界経済との連動性が高く、国際的な景気後退や地政学的リスクは、観光客数や海外からの投資フローに影響を与え、不動産市場にも波及する可能性があります。

まとめ──D33を踏まえた投資家への提言

ドバイ経済アジェンダ「D33」は、ドバイの未来に向けた野心的な成長戦略であり、不動産市場に前例のない機会をもたらしています。政府の強力なコミットメント、大規模なインフラ投資、積極的な海外からの人材・資本誘致策は、市場の成長を力強く下支えしています。記録的な取引高、堅調な価格上昇、高い賃貸利回りは、そのポテンシャルを明確に示しています。

特に、D33によって開発が加速する新興エリアや、スマートシティ化が進む地域、そして依然として需要が高い高級不動産セグメントには、大きな投資チャンスが存在します。

しかしながら、過去の市場変動、供給過剰への懸念、政策変更リスクといった側面も無視できません。投資家は、これらのリスクを十分に理解し、長期的な視点に立ち、徹底的なリサーチに基づいた慎重な判断を下す必要があります。

D33によるインフラ投資と市場開放策は、不動産価格の上昇余地と高い賃貸利回りを示しています。一方で、供給動向や政策変更に対する備えは不可欠です。長期視点・分散投資・最新情報の把握を三本柱に、戦略的に参入することが成功の鍵となります。

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