【完全版】インドネシアの不動産購入マニュアル:日本人必見の手順・注意点などを一挙公開

目次

インドネシアの不動産の購入対象と所有権形態:外資系投資家が知るべき基礎知識

まずは、インドネシアで外国人(日本人)投資家が購入できる不動産の種類と、その所有権形態について理解しましょう。日本の不動産制度とは大きく異なる点が多いため、基礎知識として押さえておくことが重要です。

外国人の土地所有制限と権利形態

インドネシアには、日本のような完全な土地の自由保有(フリーホールド)制度は存在しません。土地に関しては細かく分類された複数の権利形態があり、その中で外国人投資家(個人または外資系法人)が取得できる主な権利は Hak Guna Usaha(事業者権:HGU)、Hak Guna Bangunan(建設権:HGB)、Hak Pakai(利用権:HP)の3種類です。特に個人の外国人が住宅目的で不動産を購入する場合は、このうち「利用権(HP)」に基づいて取得するケースが一般的です。

インドネシアでは土地の所有権(Hak Milik)はインドネシア国籍の個人にしか認められておらず、外国人は個人名義で土地そのものを永久所有することはできません。このため、外国人購入者は政府または個人が所有する土地を一定期間使用できる「使用権(HP)」を取得し、その上に建物を所有・利用する形態を取ります。

一方、外資系の法人(現地の外資100%出資会社、通称PMA企業)を設立すれば建設権(HGB)等を用いて土地建物を保有することも可能ですが、これについては後述します。

▼所有形態比較表

権利名取得可能年数延長可能年数主な利用用途外国人取得可否
Hak Guna Usaha (HGU)25年+20年農地・プランテーション等
(大規模農業事業に適用)
要現地法人(外資PMA等)
(JETROによる外国人投資規制下)
Hak Guna Bangunan (HGB)30年+20年 +30年商業用・住宅用建物の建設
(工業団地やオフィスビル開発など)
可(外資PMA法人名義)
(投資法規制に基づく審査あり)
Hak Pakai (HP)30年+30年 +20年住宅用またはオフィス用
(外国人個人の居住・利用に適用)
個人外国人可
(高額物件・追加規定あり/JETRO情報参照)

権利期間と延長

外国人(または外資企業)が取得できる権利には有効期間が定められており、延長・更新が可能です。利用権(HP)は当初30年で、1回目延長30年+2回目延長20年が認められ、合計で80年間利用できます。永久所有ではなく期限付きの権利である点に注意が必要ですが、実質的に長期保有は可能です。

また権利期間満了時には延長手続きを怠らないようにし、延長不可の場合は原権利者(国家や土地所有者)に返還される可能性があることも理解しておきましょう。さらに、2020年の職創造法(Omnibus Law)に伴う施行規則整備により、外国人の不動産取得要件は随時更新されています。取得しようとする権利が最新の法改正に準拠しているかも必ず確認してください。

購入可能な物件の種類

外国人投資家が購入できる不動産は、法律上「居住用の住宅または区分所有マンション(コンドミニアム)」に限られます。これはインドネシア政府が定めたもので、外国人が保有できるのは居住目的の住宅(戸建て)か、建設権または利用権付きの区分所有ユニット(マンション等)です。商業用ビルやオフィス物件を直接個人で取得することは難しく、そうした物件に投資したい場合は現地法人を通じてHGBを取得する方法が検討されます。

一方、個人で購入できる住宅用途物件についても様々な規制があります。まず外国人が購入できる物件は「高級住宅」に限定され、各州・地域ごとに最低購入価格が設定されています。

例えばジャカルタ特別州では外国人購入物件の最低価格が戸建て住宅で100億ルピア以上、マンション(区分所有)で30億ルピア以上と定められています。日本円に換算するとジャカルタの条件は戸建て約9600万円以上、マンション約2880万円以上と高額であり、事実上富裕層向けの高級物件のみ購入可能となっています。

この最低価格規制により、資金が限られる外国人による土地の買い漁りを防止する狙いがあります。また外国人が購入できるのは新築物件または直接所有者からの購入に限るとされ(転売物件にも制限あり)、マーケット全体への影響は限定的との指摘もあります。いずれにせよ、外国人個人が買えるのは限られた高額物件のみである点を理解しておきましょう。

外資系法人を通じた取得

資金力のある投資家は、インドネシア現地に外資100%出資の法人(通称PMA会社)を設立し、その法人名義で不動産を取得する方法もあります。法人を設立すれば、法律上はインドネシアの企業として土地の建設権(HGB)等を取得でき、戸建て土地付き物件などのフリーホールドに近い形で保有・運用することも可能となります。

しかしながら、PMA会社の設立・維持にはハードルが高い点に注意が必要です。インドネシアの外資企業には1社あたり払込資本金100億ルピア以上の要件があり、日本円で約5000万円~1億円規模の出資金を用意する必要があります。

さらに不動産賃貸や開発事業の許可を取得しなければならず、会社運営上のコストやコンプライアンス負担も重くなります。現行では外資100%で認められる事業分野に制限があり、許可取得も難しいため、一般投資家が一物件のために法人設立するのは非現実的と言えるでしょう。代替として、現地パートナーと合弁会社を設立する例もありますが、いずれにせよ法人経由の取得は大規模投資家向けの手法です。

名義借り(Nominee)のリスク

最後に注意すべきは、インドネシア人個人の名義を借りて不動産を取得する、いわゆる名義人スキームです。これは法律上認められない迂回手法であり、名義を貸すインドネシア人との間で秘密契約(ノミニー契約)を結んで実質的所有権を主張しようとするものです。

しかし、どのような書類を作成しても公式の権利証書(名義)は名義人であるインドネシア人にしか発行されません。将来関係が悪化した場合やトラブル発生時に、真の所有者でない外国人が権利を守ることは極めて困難です。最悪の場合、名義人に財産を奪われても法的保護を受けられないリスクがあるため、この方法は避けるべきです。正攻法で購入可能な範囲の物件に限定し、違法な抜け道に頼らないのが賢明と言えます。

2020年以降の法改正による外国人権利の拡充

2015年以降の法改正に加え、2020年の職創造法(Omnibus Law)に伴う施行規則の整備により、外国人でも一定の条件下で不動産を所有・利用できる範囲が拡大されています。特に区分所有権「Hak Milik atas Satuan Rumah Susun(HM SRS)」が創設され、外国人が建物単位で所有する仕組みが制度化されつつあります。

さらに2022年には不動産譲渡所得税や付加価値税(VAT)に関する特例措置が導入され、一部の取引で税率が軽減されるなど、外国人投資家を歓迎する姿勢が制度面で強化されています。

以上がインドネシアの不動産購入に関する基本的な制度と枠組みです。まとめると、外国人個人が購入できるのは高額な住宅用途物件に限られ、その権利形態は「使用権(HP)」など期限付きのものになります。商業用途やそれ以外の物件への投資は現地法人設立など高度な手段を要し、法規制も厳格です。この前提を踏まえ、次章以降では実際に物件を選定し購入を進める際の具体的な手順と注意点を解説していきます。

物件選定の手順:情報収集と信頼できるエージェントの選び方

希望する物件の種類や予算の目途が立ったら、次は具体的な物件選定のプロセスに入ります。インドネシア国内には数多くの不動産があり、情報も玉石混交のため、効率よく信頼性の高い情報を収集することが重要です。ここでは物件情報の集め方と、購入をスムーズに進めるための優良なエージェント選びのポイントを解説します。

情報収集の方法

インドネシアの不動産情報は、日本国内からインターネットである程度収集できます。主要都市の不動産ポータルサイト(例:Rumah.com、99.co.id、Lamudi など)では、住宅から商業用物件まで多数の売買情報が掲載されています。ただし言語はインドネシア語または英語が中心であり、掲載情報の正確性もまちまちです。価格や概要を把握する初期調査には便利ですが、具体的な購入候補を絞る段階では現地事情に通じた専門家の協力が欠かせません。

またエリアによってはローカルの情報網(新聞広告、地域ブローカーなど)でないと出回らない物件もあります。バリ島やジョグジャカルタなど一部リゾート・地方エリアでは、現地コミュニティの紹介で物件情報が伝わるケースもあり、日本にいながら探すのは難しい場合もあります。

まずはエリアと物件タイプの希望条件を整理した上で、オンライン情報をチェックし、市場価格帯や物件数の相場観を掴むと良いでしょう。その上で、信頼できる現地の不動産会社や仲介者にコンタクトを取り、最新の販売状況を確認するのが得策です。

信頼できる不動産エージェントの選び方

インドネシアで不動産を購入する際、優秀な不動産エージェント(仲介業者)のサポートは非常に有用です。現地の取引慣行や法手続きに不慣れな外国人にとって、経験豊富なエージェントは頼れる存在となります。ただし、エージェント選びを誤るとトラブルに巻き込まれるリスクもあるため、以下のポイントを参考に慎重に選定しましょう。

正式な資格・登録

インドネシアには不動産仲介業者の協会(AREBI等)があり、一定の教育を受け登録したエージェントも存在します。可能であれば公認の不動産ブローカーや大手不動産仲介会社に依頼する方が安心です。知人の紹介や実績のある日系不動産仲介会社の現地支店なども信頼度が高いでしょう.

実績と専門分野

自分が購入を検討する物件種別・エリアの取り扱い実績が豊富なエージェントを選びましょう。例えば商業物件に強い、あるいはジャカルタ高級住宅に詳しいなど、専門分野にマッチしたエージェントだと的確な助言が期待できます。過去の顧客の評判や口コミも参考になります.

言語・コミュニケーション

日本人投資家の場合、日本語で対応できるスタッフがいるエージェントなら理想的ですが、そうでなくとも最低限英語で円滑にコミュニケーションできる相手を選びましょう。意思疎通に不安があると、後々の交渉や手続きで齟齬が生じかねません。重要な局面では専門用語も飛び交うため、必要に応じて通訳を介すことも検討してください.

手数料体系の明確さ

仲介手数料(コミッション)の取り決めについても事前に確認します。インドネシアでは中古物件取引の場合、仲介手数料は通常売主負担で2~5%程度(地域や業者により異なる)とされていますが、契約内容によっては買主から成功報酬を請求されることもあります。報酬体系や支払いタイミングを契約前にはっきりさせ、不明朗な費用請求をする業者は避けるようにしましょう.

実地調査のサポート

良いエージェントは、単に物件を紹介するだけでなく、現地視察や物件デューデリジェンスにも協力的です。購入候補が見つかったら、エージェントと共に現地視察を行いましょう。周辺環境や物件の状態を自分の目で確かめ、写真や図面だけでは分からない点を確認することが大切です。遠方で頻繁に現地訪問できない場合でも、代理で詳細な報告をしてくれる、あるいはオンライン内見をセッティングしてくれるようなエージェントだと安心です.

これらの観点でエージェントを複数比較検討し、自分に合ったパートナーを見つけましょう。契約前にエージェントとの間でNDA(秘密保持契約)やエージェント契約を交わしておくことも検討してください。情報管理の点でもプロフェッショナルな対応をしてくれる業者は信頼できます。信頼できるエージェントと二人三脚で進めることで、物件選定から交渉までスムーズに進み、リスクも格段に軽減されます.

物件選定フローチャート

(1) エリア調査

希望地域の経済状況や治安、投資需要などを調査し、
JETROが提供している各エリアの産業・人口動向レポートも活用する。

(2) オンライン情報収集

インドネシアの不動産ポータルサイトやSNSを活用して、
最新の売買物件リストや価格相場を把握する。

(3) 信頼できる不動産エージェント選定

資格・登録状況(AREBIなど)や実績を確認し、
日本語・英語対応が可能な担当者を選ぶと安心。

(4) 現地視察・交渉

エージェント同行で実際に物件や周辺環境をチェック。
値引き交渉や引渡し条件を確認する。

(5) デポジット支払

合意書に基づき手付金を支払い、
売主が他へ物件を売りに出さないよう確保する。

(6) 最終決定

契約準備を進め、デューデリジェンス完了後に正式契約。
インドネシア公証人(Notaris)を介して譲渡手続きを完了する。

新首都ヌサンタラへの投資機会

インドネシア政府は東カリマンタン州で新首都「ヌサンタラ」の建設を進めており、プラボウォ・スビアント大統領のもと、2028年までに政治の中心として本格稼働する計画が示されています。新首都の開発に伴い、不動産価格は急速に高騰しており、中心地域では16倍以上の価格上昇が見られる例もあるほどです。

新首都庁は民間投資支援サイト「investara」を開設しており、関連法令や投資インセンティブなどの情報提供や、関心意向表明書(LOI)の受付を行っています。新首都への投資を検討する場合、まず新首都庁にLOIを提出し、その後の協議を経て契約へと進むプロセスとなります。インフラ開発や大規模都市計画が進行中の今こそ、投資初期段階で参入するチャンスがあるといえます。官民連携の枠組みを活用し、高騰リスクや法的リスクをしっかり見極めながら進めることが重要です.

交渉と基本合意

希望の物件が見つかったら、エージェントを通じて売主との交渉に入ります。価格はもちろん、引き渡し条件や含まれる家具設備、支払いスケジュールなど主要条件を詰めていきます。インドネシアでは売主が外国人に売却する場合、最低価格規制に抵触しないことを確認する必要があります(エージェントや売主側が認識済みか要チェック)。

交渉がまとまり双方が売買の意思を確認した段階で、日本でいう買付証明書や基本合意書にあたる書面を取り交わすことがあります。これは法的拘束力は弱いものの、交渉内容を書面化し「○○物件を○○ルピアで購入することで合意した」旨を記録するものです。多くの場合、買主はこの時点でデポジット(手付金)を支払います。

手付金の相場は物件価格の数%(例:5~10%)程度が一般的です。支払い方法や返金条件についても合意書に明記してもらいましょう。手付金を支払うことで売主は当該物件を他に売り出さず取り置く義務が生じ、買主も購入の意思を示したことになります。手付金支払い以降にキャンセルすると原則返金されないケースが多いので、この時点までにデューデリジェンスに進む準備が整っていることが望ましいです.

以上が物件選定から基本的な合意形成までの流れです。確度の高い情報収集と信頼できるエージェントの活用が、このプロセスでは肝要となります。次章では、実際に購入を決断する前に行う調査・デューデリジェンスについて、詳しく見ていきましょう.

調査・デューデリジェンス:法的ステータスと書類確認の重要性

不動産購入においてデューデリジェンス(Due Diligence)は欠かせないステップです。インドネシアでは日本では考えられないような権利関係の問題や書類不備が潜んでいる場合もあり、契約前に徹底した調査を行うことが安全な投資に繋がります。ここでは、買主が確認すべき法的事項や書類のチェックポイントを整理します.

契約交渉でおおよその購入条件に双方合意した段階で、以下の事項について専門家(不動産エージェントや弁護士、公証人)と協力しながら調査を行いましょう.

デューデリジェンス チェックリスト

インドネシアの不動産を安全に購入するための調査ポイントをチェックリスト形式でまとめました。 必要に応じて JETROの投資関連情報も参照しながら、抜けや漏れがないよう慎重に確認しましょう。

  • 1. 権利者確認 🏷️
    売主と権利証書の名義人が一致しているか要チェック。
    代理人の場合は正式な委任状や共同所有者の同意書があるか確認。
  • 2. 権利証書・土地登記 📄
    物件の権利証書が正規のものか確認。
    登記簿謄本はBPN(Badan Pertanahan Nasional)で取得し、面積・名義に相違がないか検証する。
  • 3. 抵当権・担保の有無 ⚖️
    土地・建物に抵当権(Hak Tanggungan)が設定されていないか要確認。
    残債がある場合は売主が完済し、公証人立会いで抹消手続きを行う。
  • 4. 用途規制・都市計画 🏙️
    各地域のITR(Informasi Tata Ruang)を確認し、住宅・商業など用途制限に違反していないかを確認。
    将来的な立ち退き予定区域ではないか要チェック。
  • 5. インフラ・公共料金 💡
    上下水道・電気・通信などのライフラインが整備されているか。
    マンションの場合、管理費・修繕積立金の滞納がないかも重要。
  • 6. 外国人投資家が留意すべき点 🌐
    JETROの外国人投資規制情報に基づき、Hak Pakaiの使用期限や最低購入価格などの制限を確認。
    未登記土地やNomineeスキームはリスクが高いため避ける。

補足: 未登記土地(アダット)などを購入する場合、固定資産税(PBB)の納付書や
慣習法上の承認書を確認する必要があります。違法性リスクが高いため、公証人や弁護士と慎重に相談してください。

調査結果に問題がなければ、いよいよ正式な契約手続きに移ります。仮に調査で重大な問題が見つかった場合は、条件交渉の見直しや最悪取引中止も選択肢に入れ、適切に対処してください。次章では、売買契約の準備と契約書に盛り込むべき要点について説明します。

契約準備と売買契約書の要点:不備を防ぐためのチェックリスト

デューデリジェンスを経て「この物件を購入する」と最終決断したら、売買契約の締結準備に入ります。インドネシアで不動産を正式に取引するには、日本でいう「契約書」に相当する文書と、公的な譲渡証書(AJB:Akta Jual Beli)の作成が必要です。ここでは契約段階で留意すべきポイントと、契約書のチェックリストを解説します.

契約締結の流れと公証人の役割

インドネシアでは土地・建物の権利移転には政府認定の公証人(Notaris)兼土地証書作成官(PPAT)が関与し、公証人立会いのもと譲渡証書(AJB)を作成することが法律で義務付けられています。売買当事者間でどんな合意があっても、公証人による正式なAJBが作成・登記されなければ法的な所有権移転は完了しません。したがって、基本合意後はエージェントの助けを借りて信頼できる公証人事務所を手配し、契約調整の日程を組みます.

一般的な流れとしては、以下のようなステップになります.

売買契約書(Private Agreement)の作成

必要に応じて、売買条件を定めた契約書を事前に作成します。これは当事者間で署名する私契約で、価格や支払い条件、引渡日、違約時の取決めなどを明記します。公証人によっては、この契約書を作成せず直接AJB(譲渡証書)のドラフトに署名して進める場合もあります。どちらの方式でも構いませんが、当事者双方が合意事項を明文化し署名することが重要です。契約書に署名した場合は各自が原本を保管します.

公証人役場での譲渡証書(AJB)調印

次に、公証人立会いの下でAJBに署名します。AJBはインドネシア語で作成され、売主・買主・公証人の三者が署名押印する公式文書です。公証人は契約内容が現地法に則っているか、必要書類が揃っているかを確認し、署名の前に内容を読み上げて当事者に説明します(買主がインドネシア語を解さない場合、通訳を手配してもらうか、二言語併記のAJBにすることも可能です)。

署名が完了すると、AJB原本は公証人が厳重に保管し、当事者には認証謄本が交付されます。また、この場で残代金の支払いと権利証書の引き渡しも同時に行われます。買主は事前に準備した支払い手段(後述)で残額を支払い、売主からは土地建物の権利証書原本や納税証明書等を引き渡してもらいます.

登記申請

公証人(PPAT)は署名済みAJBを受領後、所定の登録期間内に国立土地局(BPN)へ名義変更の登記申請を行います。この際、売主・買主双方が納付すべき税金(譲渡税・取得税)が支払済みであることの証明も提出します。土地局での名義人変更登録には通常数週間~数ヶ月を要し、完了すると新しい権利証書(または既存証書への名義書換え)が発行されます。公証人が代理でその受領まで行い、最終的に買主へ新名義の証書を引き渡して一連の手続きは完了です.

以上が契約締結から権利移転までの概略フローです。公証人は単なる立会人ではなく、取引の適法性を確保する重要な役割を担っています。「ノタリス(公証人)なくして安全な取引なし」と言われるほどで、税金計算・納付指導、権利確認、契約条項チェックなど包括的にサポートしてくれます。そのため、公証人費用はかかりますが安心料と考えて、必ず有資格者のもとで手続きを進めましょう.

売買契約書のチェックリスト

次に、契約段階で不備を防ぐために確認すべきポイントをリストアップします。公証人任せにせず、買主自身もしっかり内容を理解しチェックしましょう.

当事者の表示

売主・買主の氏名(法人名)、住所、身分証明書番号など基本情報が正確に記載されていること。特に外国人買主の場合、パスポート表記通りのローマ字氏名になっているか確認します。誤字があると後の権利証にも影響するため注意が必要です。法人名義購入なら会社登記簿上の正式名称、代表者の権限確認(議事録や委任状)が適切に反映されているかもチェックします.

物件の特定

契約対象の不動産を明確に特定する記載があるか。住所、土地証書番号、地番、公図面積、建物の構造・階数・面積などが特定され、他の物件と混同の余地がないよう記載されていることを確認します。マンションの場合はユニット番号や所在階、専有面積、共有持分割合なども正確に示されている必要があります.

権利の種類と状態

移転対象となる権利(例:Hak Pakai 30年など)が明示され、残存期間や更新条件について触れられているか確認します。例えば「本物件の土地権利は残存○年のHak Pakaiであり、買主は延長申請資格を有する」等の文言で現況を正しく反映させます。また売主が引渡までに抵当権等を抹消する旨、完全な所有権を引き渡す旨の表明保証条項も盛り込みます.

売買代金と支払い条件

購入価格が正しく記載されていること(数字の桁ミス等に注意)。そして手付金の額および受領済みである旨、残代金の支払い時期(通常AJB調印時)と方法について明記します。支払い通貨はインドネシア・ルピアが原則であり、額面もルピア表記にします。

国外送金で支払う場合の為替レート適用時点など細部も取り決めます。また税金負担の内訳(譲渡税は売主負担、取得税は買主負担など一般的取り決め)や公証人手数料等の負担者も記載します。通常、売主は自分の税(後述の2.5%)を負担し、買主は取得税や登記費用を負担する取り決めが多いです.

引渡し時期と条件

物件の所有権移転日・引渡日を明確にします。通常はAJB署名と同時に所有権移転とみなし、その場で鍵の引き渡し等物理的な引渡しが行われます。賃貸中物件の場合は賃借人との契約引継ぎ方法(買主がオーナー権利義務承継)を定めたり、空室引渡しなら何日までに退去完了させるかを明記します。物件内の備品や設備の扱いも取り決めます(例:エアコンや家具付きで売買の場合、その明細を添付リスト化)。

表明保証および違約

売主・買主それぞれが本契約に基づく権限と能力を有すること、売買物件に関して真実かつ完全な情報を提供したこと等の表明保証条項を設けます。特に売主は、物件が第三者権利主張や法的瑕疵のないことを保証し、もし虚偽があれば賠償責任を負う旨を記載します。

また一方が契約に違反した場合の取り扱い(違約金や手付金没収、契約解除権など)も規定します。例えば買主都合でキャンセルしたら手付金放棄、売主都合でキャンセルしたら手付金返還+同額の賠償金支払い等が一般的です.

紛争解決方法

契約に関連して紛争が生じた場合の準拠法(通常インドネシア法)と、管轄をどうするか定めます。ジャカルタなどインドネシアの裁判所管轄とするのが一般的ですが、高額取引では仲裁条項を入れる場合もあります。外国人投資家の場合、日本での執行が困難なので現地法務に従う前提でチェックします.

言語と翻訳

契約書やAJBの正式言語はインドネシア語です。必要に応じて英語翻訳や日本語翻訳が添付されることがありますが、インドネシア語版が優先することを理解しておきます。自分で内容を把握するためにも、プロの翻訳者による和訳を事前に用意しておくと安心です(ただし公式な契約文書はインドネシア語で署名する形になります)。

以上が契約書作成時の主なチェックポイントです。公証人は契約書(あるいはAJB)のドラフトを事前に用意してくれますが、自身でも内容を精査し、疑問点があれば納得いくまで質問しましょう。「聞いたつもり・分かったつもり」で進めて後から齟齬が判明すると、修正には手間がかかります。専門用語や現地独自の慣習については、公証人や弁護士から注釈を交えて説明してもらい理解を深めてください.

最後に、契約調印当日は当事者全員が有効な身分証(パスポート、KTP等)を持参すること、署名前に内容最終確認を怠らないことも肝要です。また外国人が買主の場合、婚姻の有無によっては配偶者の同意書提出が必要となる場合があります(インドネシア人と結婚しているケースなど特殊要件)。自分のケースに応じて公証人から事前に必要書類リストを受け取り、漏れなく準備しましょう.

ここまでで契約を結ぶ段階の留意点を見てきました。次に、実際の資金繰り計画や支払い実務、そして関連する税金について解説します.

資金計画と税務面の基礎:支払い方法・為替リスク・主要税金を押さえる

インドネシアの不動産への投資を成功させるには、資金計画と税務面の理解も欠かせません。日本とは異なる通貨・税制度の下で大きな金額を動かすため、事前に十分な準備と知識が必要です。この章では、支払い方法や為替リスクの管理、取引時に発生する主な税金について説明します.

支払い方法と為替リスク管理

通貨と支払い方法

インドネシアでは原則として国内の商取引は現地通貨(インドネシア・ルピア:IDR)で行うことが義務付けられています。したがって不動産の売買代金支払いも基本はルピア建てです。日本からの投資の場合、まず投資資金を円からルピアへ両替する必要があります。

実務的には、日本の銀行からインドネシアの自分の口座(もしくは公証人のエスクロー口座)へ電信送金(TT送金)を行い、その際に為替手続きが発生します。送金前に銀行と相談し、大口外貨両替のレート優遇や手数料の確認をしておきましょう。複数回に分けて送金する際は、各回の為替レート差による総額の変動にも注意が必要です.

決済のタイミング

不動産決済では一般に、前述の手付金を除く残代金を契約(AJB署名)当日に一括支払いします。高額な現金を持ち運ぶのは危険なため、通常は銀行振込または銀行小切手(シェア)による決済が用いられます。公証人のオフィス近くの銀行で買主が振込手続きを行い、売主に着金確認してもらってから契約署名をする、といった段取りです。または公証人が信託役となり、エスクロー口座に買主から事前に預け入れておいた資金を、契約完了と同時に売主へ振り込む方法もあります。

いずれにせよ、安全かつ確実に支払える方法を公証人やエージェントと相談して決めます。海外から直接公証人の口座に送金する場合は日数の余裕をもって行いましょう.

為替リスクへの備え

日本円からルピアへの為替変動は、投資額に大きく影響します。契約までに時間がある場合、その間に為替レートが変動して想定より多くの円が必要になる可能性があります。そこで、為替予約やデリバティブの活用までは難しくても、分割両替(数回に分けて両替して平均レートを狙う)やレートモニタリングを行うと良いでしょう。大きな経済イベントやインドネシア中央銀行の金融政策発表などはルピア相場に影響を与えるためチェックします。

また、米ドルで資金を一旦準備し現地でルピア転換するなど、円以外の基軸通貨を介する方法も検討されます。為替手数料も見落とさないようにし、計画より資金不足とならないよう余裕を持った予算を組んでおくことが大切です.

現地融資の可否

基本的に外国人個人がインドネシア国内で不動産ローン(住宅ローン)を組むことはできません。銀行は居住ビザや収入証明があるインドネシア在住外国人に対しても貸付に消極的であり、金利も年10~12%と高水準です。そのため日本人投資家の場合、全額自己資金(キャッシュ)調達が前提となります。

資金不足の場合は、日本国内で不動産担保ローンを活用する、共同出資者を募るといった工夫が必要でしょう。ただしローン返済計画まで見据えて投資採算を検討することが求められます.

取引時に発生する主な税金・費用

インドネシアで不動産を購入する際には、日本とは異なる種類の税金や公的費用が発生します。ここでは主要な費目を整理します.

土地・建物譲渡税(PPh Final)

売主が納める税金です。インドネシアでは不動産を譲渡する際、売却益課税の代わりに売買代金の一定割合を最終所得税として納付する制度があります。税率は近年の税制改正により売却額の2.5%に設定されています。この税は取引価額を基準に課され、売主側の費用負担となります。

実務上は、公証人が売主に代わって譲渡税2.5%相当額を国庫に納付し、その領収証をもって登記申請を行います。買主から見れば直接の負担ではありませんが、交渉上価格に織り込まれているケースもあるため、意識しておきましょう.

▼初期費用と想定保有コストの割合(参考イメージ)
インドネシア不動産 初期コスト内訳

グラフ解説:物件本体価格やBPHTB、不動産会社の仲介手数料、公証人費用などが初期費用の中心です。税金関連コストも含めると、物件価格の10~15%ほどを追加負担として見込んでおく必要があります。

その他主要税金・費用一覧

項目税率/数字概要・注意点
PPh Final(譲渡所得税)2.5%売却額に対して課税。
原則売主が納付するが、契約次第で買主が負担するケースも。
BPHTB(不動産取得税)5%売買価格または課税評価額(高い方)に課税される。
一定の非課税枠(地域による)を差し引いた後に5%を適用。
固定資産税(PBB)~0.3%年間課税。
評価額や立地により変動し、自治体によって税率・計算方式が異なる。
為替リスク対策複数回に分けて両替(平均レートを狙う) ヘッジ取引や為替予約を利用 米ドル口座経由で送金
消費税(VAT)11%2022年4月よりインドネシアの付加価値税(VAT)は10%から11%へ引き上げ。
不動産購入時に対象となるケースは限定的だが、特定条件下では留意が必要。

資金計画を立てる際は、このように初期購入費用(物件代金+諸税費)と保有中の費用(税金・維持管理費)を明確にし、自己資金に対する余裕をもたせておくことが大切です。特にインドネシアは通貨価値や経済状況の変動があり得る新興国であるため、想定外の出費や為替差損にも耐えられる余力を残しておきましょう.

執筆者

高橋 卓のアバター 高橋 卓 海外不動産のオクマン 代表

2014年:はぐくみカンパニー株式会社、代表取締役に就任
2017年:株式会社純な、代表取締役に就任
2018年:はぐくみカンパニーカンパニー株式会社を株式譲渡し退任
2023年以降:日本企業の進出コンサルティングと海外不動産メディアの運営に注力(バンコクのベイカリーショップ、小麦の王国立ち上げ等)

現在バンコク在住。海外不動産投資のことならお気軽にご相談ください。

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