ベトナム不動産は本当に高利回り?メリット・デメリットから学ぶ失敗しない投資術

ベトナムの不動産投資は「高利回り」が期待できるとされ、日本の投資家から注目を集めています。実際、日本の不動産利回り(平均約2.5%)に比べればベトナムは平均3~5%程度と高く、都市や物件によってはさらに高い収益も可能です。
しかし、高利回りの背景にはどんな要因があるのか、そして投資にはどんなメリット・デメリットが潜んでいるのでしょうか。本記事では最新データと信頼できる情報源をもとに、ベトナム不動産投資の実態と、失敗しないための戦略を解説します。
高利回りが期待される背景と市場データ
堅調な経済成長と人口動態


ベトナムは近年ASEAN諸国でもトップクラスの経済成長を遂げてきました。コロナ禍明けの2022年には実質GDP成長率が8.02%を記録し、2022年初に公表した政府目標6.0~6.5%を大きく上回りました。これは1997年以来となる8%超えで、近年最も高い成長率でした。
2023年のベトナムの平均人口は1億30万人で、2022年と比較して83万4800人(0.84%)増加しています。2024年には101.3百万人に達し、世界で15位、東南アジアではインドネシア、フィリピンに続く3位に位置しています。また、2023年の国民の平均寿命は73.7歳(男性は71.1歳、女性は76.5歳)となっています。
この若く成長する人口と都市部への急速な都市化が、住宅需要の拡大につながっています。2025年1月のベトナム経済は回復基調を示し、消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.63%とインフレは管理された水準にあり、輸出入は月間630億ドル超、約30億ドルの貿易黒字を記録しています。
都市別・物件別の利回りデータ
エリアによって利回りには差があります。一般的に不動産価格が高い都心部ほど利回りは低く、郊外や地方都市ほど高利回りになる傾向です。
例えば、2024年時点のデータではホーチミン市中心部のコンドミニアム賃貸利回りは約3.0%ですが、郊外では4~5%近い利回りが得られます。ハノイでも中心部は3%台前半、郊外で約4%近くと報告されています。
さらに中部のダナンでは、中心部で約4.6%、中心外では5~6%超という高い利回り水準です。郊外エリアは物件価格が抑えられる分だけ賃料との比率(利回り)が高くなることが背景にあります。
都市名 | 中心部の利回り(%) | 郊外の利回り(%) | 参考となる物件価格帯 |
---|---|---|---|
ホーチミン | 3.0~3.5 | 4.0~5.0 | 約2,000~3,500 USD/㎡ |
ハノイ | 2.8~3.3 | 3.8~4.0 | 約1,800~3,000 USD/㎡ |
ダナン | 4.6 | 5.0~6.0 | 約1,200~2,500 USD/㎡ |
ベトナム不動産仲介業者協会(VARS)は、2025年には不動産供給が10%増加する見込みで、ハノイでは約37,000戸、ホーチミン市では約18,000戸が供給される予定と発表しています。この供給増加は市場の回復を示す重要な指標です。
外国人駐在員需要と賃貸市場
ベトナムには約30万人もの外国人居住者がおり、その多くはビジネスの中心地ホーチミンや首都ハノイに集中しています。海外企業の進出が増える中で駐在員向けの高品質な賃貸住宅需要が旺盛であり、企業から住宅手当を受け取る駐在員は家賃支払いも安定しています。このため空室リスクや滞納リスクが低減され、堅実な家賃収入が見込める点も高利回り期待の一因です。
ベトナム不動産投資のメリット
法整備の進展と外国人購入規制の緩和
ベトナムでは2015年の住宅法改正により、外国人による不動産購入が解禁されました。一定の条件(コンドミニアム1棟の30%まで、戸建ては一つの街区で250戸までなど)付きながら、これにより日本人を含む外国人投資家がベトナムの新築コンドミニアム等を取得できるようになったのは大きなメリットです。
所有期間も基本50年(更新1回可能で最長100年)と認められています。法律整備が進んだことで参入ハードルが下がり、海外資本も呼び込みやすくなっています。
さらに、2024年に改正された不動産関連法(不動産3法)により、今後の供給量増加と市場の透明性向上が期待されています。これらの法改正は取引の円滑化や市場の透明性向上を目的とした一連の改革であり、これまで投資の障壁となっていた土地利用権や所有権に関する問題の解決に貢献しています。
経済成長と不動産価格上昇のポテンシャル
高い経済成長率と人口増に支えられ、不動産価格の上昇期待が持続している点も魅力です。実際ホーチミン市のコンドミニアム価格は年々上昇しており、ある調査では2023年のホーチミン新築住宅価格が前年比+10%以上上昇したとの報告もあります。
都市部の不動産価格は近隣のバンコクやジャカルタよりもなお安価で伸びしろがあり、将来的なキャピタルゲイン(値上がり益)も期待できます。人口ボーナスによる住宅需要増大や、都市化の進展も価格押上げ要因です。
都市インフラ開発と都市の成長
ベトナム各地でインフラ整備が加速していることも見逃せません。例えば、ホーチミン市では日本の支援で建設された初の地下鉄(都市鉄道)1号線が2024年末にようやく開業し、14駅・約20kmの路線が市内を結びました。ハノイでも既に2路線が開通済みです。
さらに、南北を結ぶ高速鉄道計画や新国際空港「ロンタイン空港」の建設(第1期は2025年末完成目標)など、国家規模の大型プロジェクトが進行中です。これらインフラの充実は不動産価値の底上げにつながり、特に沿線や周辺地域の資産価値や賃貸需要を高める効果が期待できます。
低い取得・保有コストと税制メリット
周辺アジアに比べ物件価格そのものが割安な上、税金面でも投資家に有利です。ベトナムでは不動産賃料収入に対する所得税が一律5%と低率で、日本のような累進課税に比べて大幅に軽減されています。例えば日本では不動産収入が一定額を超えると所得税率10%以上になりますが、ベトナムでは定率5%なので手残りが多く、表面利回りと実質利回りの差が小さいのです。
また固定資産税にあたるものも現状は実質的に存在せず(不動産保有税はごく僅少)、購入時の登記税なども低水準に抑えられています。こうしたコスト面の優位性は、日本人投資家にとって収益率を高めるメリットになります。
賃貸需要の底堅さと空室リスクの低さ
前述のとおり都市部では外国人駐在員を中心に安定した住宅需要があります。さらに若年人口も多く、都市への人口流入が続くため、賃貸市場の裾野は広がっています。特にホーチミンやハノイでは住宅不足感も指摘されており、入居者を見つけやすい環境です。
加えて、ベトナムは地震や台風などの大規模災害リスクが比較的低い国である点も長期運用にはプラスです(南部は台風被害が少なく、火山もありません)。災害による建物損壊や空室発生リスクが小さいため、日本より安定運用しやすい側面もあります。
ベトナム不動産投資のデメリット・リスク
外国人の所有権に関する制限
法改正で緩和されたとはいえ、依然として外国人投資家には所有制限があります。先述のようにコンドミニアムは一棟の30%までしか外国人名義で所有できず、土地そのものの所有権は認められていません(土地は国有で利用権を与えられる形)。所有期間も基本50年で、延長申請が必要になります。
またベトナムでは外国人が中古物件を直接購入することは原則不可であり、基本的に新築物件(初回販売)か、前オーナーも外国人だった物件に限られます。そのため売却時も、相手が外国人の場合はプロジェクトの外国人枠内でないと売れないなど、出口戦略に制約がある点に注意が必要です.
法制度の未整備と不透明さ
ベトナムは社会主義国家であり、官僚の裁量が大きい面があります。不動産関連の法制度が発展途上であるため、規制変更のリスクや行政手続きの煩雑さがデメリットです。
たとえば、購入物件を日本へ売却代金送金する際には税務当局の納税証明書類が必要ですが、その取得や銀行での手続きに手間取るケースがあります。銀行によって対応が異なったり、書類不備で送金が遅れることもあり、海外送金のハードルは決して低くありません。
加えて、政府高官への汚職(賄賂)の問題や、政令ひとつで開発許可が突然停止するといった不確実性も皆無ではありません。投資環境の透明性が日本ほど高くない点はリスクと言えます。
為替変動リスク
ベトナムドン(VND)は長期的には緩やかな自国通貨安傾向にあり、インフレ率も日本より高めです。円安・ドン高局面で物件を購入しても、その後円高に振れれば為替差損が生じ、円換算した資産価値や利回りが目減りするリスクがあります。
実際、過去にはアジア通貨危機等で一時的に大きく為替が変動した例もあります。為替相場はコントロール不能な要素だけに、想定利回り通りの収益を日本円ベースで持ち帰れない可能性は念頭に置くべきです。
デベロッパー(開発業者)リスクと物件引渡し
ベトナムの不動産開発では、開発業者が充分な自己資金を持たず銀行融資や先行販売金に頼るケースが多くあります。そのため、工事中に資金繰りが悪化したり販売不振に陥ると、建設中断や引渡し遅延が起こるリスクがあります。過去には政権交代に伴い前政権で許可されたプロジェクトがストップした例もありました。
購入代金を支払ったのに物件が完成しない最悪の事態も起こり得るため、オフプラン物件(建設中物件)に投資する際は十分注意が必要です。信頼できる大手デベロッパーや日系企業が関与するプロジェクトを選ぶことで、このリスクをある程度低減できます。
近年、ベトナム不動産分野におけるM&A活動は2025年に活発化すると予測されており、外国企業が財政的に困難なプロジェクトを「狙う」傾向が強まっています。このことからも、開発業者の財務健全性を見極めることが重要です。
建物品質とメンテナンス
新興国ゆえに建築品質やアフターサービスにばらつきがある点もデメリットです。日本のように厳格な建築基準が徹底されていない場合、完成後数年で雨漏りや設備不良が生じるケースも報告されています。実際、鉄筋コンクリート造でも壁材にレンガを用いるなど、日本の常識とは異なる施工がなされることもあります。
建物の耐久性に不安が残るプロジェクトもあるため、デベロッパーの過去実績や物件の施工品質を事前によく確認することが重要です。また、品質に差があるぶん維持管理コストが読みにくい点も留意しましょう。
税制・会計の複雑さ
ベトナムの税制は投資妙味こそあるものの、日本とは制度が異なるため戸惑う点も多いです。賃貸収入に課される税金は低いものの、物件購入時には付加価値税(VAT)や登録税が発生し、売却時にも譲渡所得税として売却額の2%相当(または利益の25%課税を選択可能)が徴収されます。
また毎年の確定申告や納税手続きはベトナム語の書類で行う必要があり、専門家のサポートなしには難しい面があります。適切に税務処理を行わないと、後々海外送金ができなくなる恐れもあります。
つまり現地専門家のサポート費用や手間を考慮すると、単純な利回り計算以上にコストや時間がかかる点は織り込んでおくべきです。
実際の利回り事例と推移:数字で見るベトナム不動産収益
平均利回りの推移
ベトナム不動産の賃貸利回りはここ数年で若干低下傾向にあります。ある調査では全国平均の表面利回りが2023年に約4.02%だったのが2024年には3.84%へとわずかに低下したと報告されています。
これは近年の不動産価格上昇に対し、賃料の伸びが追いつかないエリアが出てきたことを示唆します。実際、ホーチミン市では高級物件を中心に価格高騰で利回りが圧迫され、Global Property Guideによれば地区によっては利回り1~2%台という極端なケースもみられます。
一方で郊外や地方の手頃な物件では5~6%台の高利回り事例も依然存在します。例えば2022年時点のSavills Vietnamのレポートでは、ホーチミン中心部マンションの利回りが約3.2%に留まる一方、郊外郡区では5.7~6.5%に達したとのデータがあります。
このように立地や物件タイプによる利回り格差は大きく、投資家は平均値だけでなく細かな市場データを把握する必要があります。
過去との比較
ベトナムが外国人に門戸を開いた直後の2015~2018年頃は、今よりも利回り水準が高めでした。投資情報サイトInvestAsianによると、「ホーチミン市では大半の地域で5%以上の賃貸利回りが得られる」とされており、当時はまさにフロンティア市場らしい高収益が見込まれていました。
しかしその後、経済発展とともに不動産価格が急騰し(たとえばホーチミン高級コンドは2018年に前年比+17%の価格上昇)、利回りは徐々に圧縮されています。現在ではホーチミン平均4%、ハノイ平均3~4%程度に落ち着きつつあります。利回り低下は成熟化の裏返しでもあり、今後は日本同様にエリア選別がより重要になるでしょう。
他資産との比較
高利回りといっても、ベトナム国内の他の投資対象と比較する視点も大切です。例えば銀行預金金利と賃貸利回りの比較では、2022年時点で住宅賃貸利回りが銀行預金利率を下回る現象が起きていました。インフレ抑制のため預金金利(定期預金で年5~7%程度)が上昇していた一方、コロナ禍で住宅賃料が伸び悩み利回りが低下したためです。このように国内投資家にとって必ずしも不動産利回りが魅力的でない局面もありました。
しかし一方で、不動産は賃料収入に加えて資産価値の上昇益も狙える点が預金や債券にはない強みです。仮に賃料利回りが5%でも、毎年数%ずつ物件価格が上がればトータルリターンはそれ以上になります。実際、ベトナムの不動産市場は長期的に見ると需要超過で価格上昇トレンドが続いており、賃貸利回り+価格上昇分で二桁の総合利回りを得た事例も珍しくありません。
投資判断の際はキャッシュフローだけでなくキャピタルゲインまで含めた総合的な利回りを見据えることが重要です。
高利回りを実現するための投資戦略
最後に、ベトナム不動産で高利回りを狙い、失敗を避けるための実践的なポイントをまとめます。
エリア選定と物件タイプの見極め
前述の通り利回りはエリアによって大きく異なります。高利回りを狙うなら、ホーチミンやハノイの都心高額物件よりも、新興エリアや郊外の中価格帯物件に注目しましょう。
例えばホーチミン市でも都市鉄道の開通で注目されるトゥードゥック市(旧2区など)は、都心より割安で賃貸需要が高く狙い目です。ダナンやニャチャンなど観光地の物件も、購入価格に対する賃料比率が高めで利回り確保につながります。ただし地方都市は流動性やテナント属性が異なるため、市場調査を十分行った上で投資判断しましょう。
信頼できるデベロッパーの物件を選ぶ
高利回りに目を奪われ無名の開発案件に飛びつくのは危険です。途中で頓挫すれば元本すら回収不能になります。
過去に引渡し実績があり財務健全なデベロッパーか、日系企業と提携実績のあるプロジェクトを選定することで竣工リスクを低減できます。物件契約時には完成引渡し保証や違約金条項がしっかりしているか確認し、可能なら現地の専門家に契約書レビューを依頼すると安心です。
ターゲット賃貸層の設定と物件運用
購入後に高い賃料収入を得るには、どの層をターゲットに物件を運用するかが鍵です。駐在員など富裕層外国人を狙うなら、セキュリティや家具家電を充実させたサービスアパートメント的な運用が求められます。
一方、現地の中間層を狙うなら家賃相場に見合ったコストで内装を整え、長期入居してもらう工夫が必要です。物件購入時からターゲット層に合った間取り・立地かを考え、高稼働・高賃料を実現できるプランを立てましょう。
短期賃貸や付加価値サービスの活用
エリアによってはAirbnb等の短期賃貸で日割り高収入を狙う手もあります。観光客が多い都市では合法的に短期貸しできる物件を選び、民泊運用で利回り向上を図ることも検討しましょう。ただし法規制や管理規約に抵触しない範囲で行う必要があります。
また物件にジム・プールなど付加価値を付ける、家具付きで貸し出すなどして相場以上の家賃設定を実現する工夫も有効です。競合物件との差別化により、高い利回りを長期間維持できる可能性が高まります。
為替と出口戦略を念頭に入れる
投資時には円とドンの為替レートをできるだけ有利に活用しましょう。円高局面では将来の円転時に不利になりがちなため、そうした局面では思い切って現地通貨建て借入(現地銀行ローン等)が利用できればリスクヘッジになります。
また、購入時だけでなく売却出口も計画的に考えておくことが重要です。外国人枠の問題から基本的に売却先はベトナム人富裕層になるケースが多いため、現地人にも人気が高いロケーション・ブランドの物件を選ぶと売却しやすくなります。市場サイクルを見極め、需要が強いタイミングで売却できれば利回り以上のリターンを確定できるでしょう。
ベトナム不動産投資は、日本では得られないような高い利回りと成長性を秘めた魅力的な選択肢です。平均利回りは3~5%と日本を上回り、エリアによっては更に高収益も期待できます。一方で社会主義国ならではの制度上の制約や、為替・デベロッパーリスクなど注意点も少なくありません。不確実な要素があるからこそ、最新情報の収集と綿密な現地調査、そしてリスクヘッジ策が欠かせません。
2025年に向けて、ベトナム不動産市場は供給増加(10%増)が見込まれており、法制度の整備も進んでいます。特に2024年の不動産3法改正により市場の透明性向上と取引の円滑化が期待されています。また、外国直接投資(FDI)の急増(2025年1月の新規認可額は前年同期比+48.6%増)も市場をサポートする要因となっています。
メリット・デメリットを正しく理解し、机上の数字に踊らされず冷静に判断することが失敗しない投資術への第一歩です。高利回りの裏には相応の理由があり、それを享受するには然るべき戦略とリスク管理が求められます。ベトナムの力強い経済成長に乗りつつ、慎重かつ計画的な投資を行えば、ベトナム不動産は十分に魅力ある資産となり得るでしょう。