【2025年最新】イギリスの法人設立ガイド|手続き・費用から税制までを徹底解説

英国(イギリス)で法人を設立することは、日本人投資家にとって魅力的な選択肢の一つです。2025年最新の法制度や実務情報を踏まえ、本記事ではイギリス法人設立のメリットから具体的な手続き、費用、税制、コンプライアンスまでを網羅的に解説します。「イギリスで法人設立を検討しているが、何から始めればよいのか?」という疑問を持つ読者に向けて、実務的かつ客観的な情報を提供します。

目次

法人設立の手続きフロー:必要書類から電子申請まで

英国での法人設立は、定められた情報を準備し所定の手続きを踏めばオンラインで完結できます。ここでは典型的な私的有限会社(Ltd)の設立フローを、必要書類とともにステップごとに説明します。

イギリス法人設立:簡易フローチャート

JETRO公表データを参考に要約)

会社形態の決定

(私的有限会社など基本形態を選択)

会社名の決定

(重複や規制語がないか要確認)

登記住所の用意

(国内の実在住所を確保)

取締役・株主の決定

(必要情報:氏名, 住所, 生年月日, 国籍, 出資比率 等)

定款類の準備

(モデル定款 / 独自定款 の選択)

資本金の設定

(1株=£1が目安、最低資本金不要)

電子申請(登記)

(Companies House
or 代理業者を通じて申請)

本人確認

(取締役・PSC対象:GOV.UK One Login
経由で2025年以降義務化)

登記完了

(会社番号が付与され、
Certificate of Incorporation を受領)

ポスト設立手続き

(HMRCへの法人税開始届、VAT登録、
口座開設、住所表示 等)

会社形態の決定

まずは前章で説明したどの形態にするかを決めます。一般的には Private Limited Company (Ltd) を選択します。特別な理由がない限り、最も標準的でメリットの多い形態です(法人税の課税主体にもなります)。

会社名の決定

希望する社名(商号)を決めます。英国では同一または紛らわしい会社名は登録できませんので、事前に会社登記局(Companies House)の検索ツールで使用可能か確認します。社名には必ず末尾に “Limited”または “Ltd” を付ける必要があります。また、公序良俗に反する語や王室・政府を連想させる単語、特定の業種で許可が必要な単語(例えば “Bank” 等)は使用が禁止・制限されています。

登記住所 (Registered Office) の用意

英国国内の実在する住所を法人の登記上の事務所所在地として指定する必要があります。この住所は会社の公式連絡先として公開され、税務当局や登記局からの郵便も届く場所です。自宅住所を使いたくない場合や日本在住で住所がない場合は、レンタルオフィスやバーチャルオフィスサービスを利用して住所を取得するのが一般的です。

住所は登記する地域(イングランド・ウェールズかスコットランドか北アイルランド)内に所在している必要があります。例えばロンドンに会社を登記するなら、登記住所もイングランドまたはウェールズ内で用意する必要があります。

取締役・株主の決定

最低1名の取締役 (Director) と1名の株主 (Shareholder) を選任します。取締役は16歳以上であれば国籍・居住地を問いません(日本在住のままでも可能)。株主も個人でも法人でもなれますが、小規模ビジネスでは通常設立者本人が100%株主となります。取締役と株主は同一人物でも問題ありません。必要に応じて秘書役(Company Secretary)を任命することもできますが、私的有限会社では秘書役の設置は任意です。決定した取締役・株主について以下の情報を準備します。

  • 氏名(法人株主の場合は法人名)
  • 住所(取締役の場合、公に掲載されるサービス住所と非公開の居住住所の双方)
  • 生年月日(取締役の場合)
  • 国籍(取締役の場合)
  • 株式引受数・構成比(株主の場合)

※英国では取締役の名前やサービス住所は登記情報として一般公開されます。プライバシー保護のため、自宅住所は非公開欄に記載し、公開用にはサービス住所(例えば登記住所と同じオフィス住所)を指定することが可能です。

定款類の準備

法人の基本規則を定める定款 (Articles of Association) を用意します。通常はCompanies Houseが提供するモデル定款(標準的な内容のひな型)をそのまま採用すれば問題ありません。モデル定款には会社の目的や取締役・株主の権限、議決方法などが定められています。特別な定めを設けたい場合のみ独自定款を作成しますが、その場合は英法に通じた専門家の助言が必要でしょう。

また、設立時定款 (Memorandum of Association) と呼ばれる設立同意書も自動生成されます。これは設立時の株主が会社設立に同意したことを示す書面で、オンライン申請ではフォーム入力に基づき作成されます。

株式資本の設定

発行する株式数と額面 (Statement of Capital) を決めます。一般的には 1株=£1の普通株(Ordinary Share)を1株発行とするケースが多く、これにより資本金は£1となります。複数人で出資する場合は出資比率に応じて複数株発行してください。Companies Houseへの申請時には資本金計算書 (statement of capital) として発行株式数・各株式の額面金額、各株主の氏名と持株数を報告する必要があります。

なお先述のとおり英国には最低資本金要件はありませんので、将来の増資も含め柔軟に設定できます。

申請方法の選択

以上の情報が揃ったら、いよいよ設立の申請です。申請は電子的に行う方法と書面(郵送)で行う方法があります。通常はオンラインでの電子申請が推奨されます。具体的な申請手段は次の2通りです。

Companies House の公式サービスを利用

英国政府のWebサイト(GOV.UK)上で直接申請します。近年リリースされた「オンライン法人設立サービス」に必要事項を入力しクレジットカードで手数料を支払うことで手続き完了です。日本からでもアクセス可能ですが、支払いに使用するカードが海外決済対応である点など注意してください。なおこの公式サービスを使う場合、同時にHMRC(英国税務当局)への法人税登録もワンストップで行われます。

代理業者(Company Formation Agent)を利用

専門の会社設立代行サービスに依頼する方法です。オンライン申請と基本的に手順は同じですが、エージェントが代行してくれるため入力ミス防止や追加サービス利用のメリットがあります。日本語対応している業者や、登記住所提供・銀行口座開設サポートをセットにしたパッケージも多いです。費用は業者により様々ですが、登記料込で£100〜£300程度の手数料が一般的です(サービス内容による)。英語での直接申請が不安な場合は代理利用も検討しましょう。

電子申請の実行

オンラインフォームにて以下の必要事項を入力・提出します。

  • 会社形態(例: Private limited by shares)
  • 希望会社名
  • 登記住所
  • 取締役情報(氏名・生年月日・国籍・住所など)
  • 秘書役情報(任命する場合)
  • 株主情報(氏名・住所・持株数)
  • PSC情報(後述する重要な支配者がいる場合、その氏名・住所など)
  • 定款(モデル定款を使用する場合はチェックするだけ)
  • 資本金計算書(発行株数・額面・株主一覧)
  • その他宣誓事項(法律に沿って設立する旨の宣誓ボックスにチェックします)

ここまで入力するとシステムが内容を確認画面に表示します。問題なければオンラインで決済(£50の登記料)を行い、申請を送信します。

本人確認手続(ID Verification)

2025年現在、英国では会社設立時の取締役やPSCに対する本人確認(Identity Verification)が強化されています。これは近年成立した「経済犯罪および企業透明性法」に基づき、企業設立時の透明性向上を図る施策です。2025年秋以降に会社を新規設立する際には、全ての取締役と支配株主(PSC)に対し本人確認が義務化される予定です。

これに伴い、2025年4月8日から政府の「GOV.UK One Login」プラットフォームを利用した任意の事前本人確認サービスが開始されています。実務的には、設立申請を行う前または並行して、取締役予定者がパスポート等を用いてオンラインで身元確認を完了する必要があります。代理業者を利用する場合は、その業者(認定企業サービス提供者: ACSP)が代理で本人確認を実施してくれる場合もあります。

このプロセスはオンラインで数分〜1日程度で完了しますが、未了の場合は登記承認が保留されるので注意が必要です。既存の取締役等についても2025年秋から1年間の移行期間内に本人確認を済ませることが義務付けられています。要するに、2025年以降は会社設立にあたって本人確認が当たり前の手続きになると覚えておきましょう。

登記完了・書類受領

Companies Houseによる審査が行われ、問題なければ非常に短期間で登記完了となります。オンライン申請の場合、通常は24時間以内に承認され、早ければ数時間で登録完了通知がメールで届きます。

繁忙期や追加審査が入る場合でも数営業日程度です。登記が完了すると会社登録番号(Company Number)が付与され、会社設立証明書 (Certificate of Incorporation) が発行されます。証明書はPDFでダウンロード可能で、会社名・番号・設立日が記載された公式書類です。これで晴れて法人が成立したことになります。

ポスト設立手続き

登記完了後、3ヶ月以内にHMRCへ法人税の事業開始届を提出する必要があります(オンライン登記時に同時登録済みの場合を除く)。また、年間売上が£90,000を超える見込みならVAT(付加価値税)の登録も行います。設定した事業年度の決算期に向けて会計帳簿を整備し、年次の決算書 (Financial Statements)と確認書 (Confirmation Statement)の提出準備も進めましょう。

銀行口座開設については、英国現地の銀行で法人口座を開くか、近年はWiseやRevolutなどオンライン金融サービスを利用する選択肢もあります。口座開設には前述の設立証明書や取締役の身分証明が必要です。最後に、登記住所に会社名の表示を行う(プレートを設置する等)法的義務もありますので、レンタルオフィス業者の指示に従い対応してください。

以上が一連の流れです。要約すると、必要な情報を準備してオンラインフォームに入力し、手数料を払えば設立できるという非常に簡明な手続きです。日本のような定款認証や出資金の銀行保管証明といったステップも無いため、スピーディーに進みます。ただし今後は本人確認手続きが標準化される点や、設立後にも各種届出・年次報告義務がある点を踏まえ、計画的に進めましょう。

設立にかかる費用と期間:日本人投資家が知っておくべき実務コスト

英国法人の設立に必要な費用と所要期間について、最新の情報をもとに解説します。日本人投資家にとって見落としがちな実務コストも含めて把握しておきましょう。

設立費用の内訳

項目費用(参考)補足
登記手数料(オンライン申請)£50最も一般的な方法。
2024年5月に値上げされたが依然比較的低コスト
登記手数料(紙面/郵送)£71書類の郵送手続きが必要。
時間・手間がかかりやや割高
登記手数料(即日サービス)£100当日中に登記完了が保証される特急サービス
住所サービス料£100〜バーチャルオフィスやレンタルオフィスなど。
ロンドン中心部ほど割高
代理業者の手数料目安£100〜£300サービス内容に応じ変動。
日本語サポートや銀行口座手配込も
JETRO ビジネス環境補足法人設立や人件費等の試算は下記リンク参照:
JETRO英国(イギリス)情報

設立に要する期間

登記完了までの時間

オンライン申請なら概ね24時間以内に登記が完了します。実務的には、夜間以外の時間に申請すれば翌営業日中に結果が出ることが多いです。例えば平日午前中に申請すれば当日夕方までに承認されるケースも珍しくありません。一方、書面申請の場合は書類の郵送・処理に時間がかかり、通常1〜2週間程度要します。即日サービスは現在再開されており、正午頃までに申請すればその日のうちに結果が得られます(ただし特別料金£100前後が必要)。

本人確認にかかる時間

2025年以降導入される本人確認手続きはオンラインで迅速に行える見込みですが、初めてGOV.UK One Loginを利用する場合、登録や認証に数日かかる可能性があります。事前にアカウント開設と身分証提出を済ませておくとスムーズでしょう。代理業者経由の場合、業者側のプロセスによりますが、必要書類(パスポートコピーや住所証明)を提出後、通常1〜3営業日で完了します。

銀行口座開設の時間

会社設立そのものの時間ではありませんが、実務上重要なのが銀行口座の準備期間です。英国で銀行口座を開設するには、取締役の現地渡航や対面審査が必要な場合があり、数週間〜数ヶ月かかることがあります。最近ではオンライン銀行を利用することで短縮できますが、まとまった資金を動かす予定がある場合は早めに着手しましょう。

ビザ・渡航に関わる時間

日本人投資家自身が英国に渡航してビジネスをする予定がある場合、ビザ申請等の時間も考慮します。法人設立自体は現地滞在していなくても可能ですが、不動産視察や銀行手続きで訪英する場合はそのスケジュールも組み込みましょう。なお、法人設立だけで自動的に就労ビザ等がおりるわけではない点に注意が必要です。

実務コストとコストパフォーマンス

英国法人設立にかかる初期費用は、以上を合計すると最低でも£50(約9千円)+住所料£100程度で設立自体は可能です。仮に代理サービスを使い包括的に依頼しても£500〜£800(10数万円)程度でほぼ全てのセットアップが完了します。日本で株式会社を設立する際の定款認証代や登録免許税(約20万円)に比べれば格安と言えるでしょう。所要時間もオンライン対応により大幅に短縮でき、「月曜に申請して火曜には会社ができている」ようなスピード感です。

ただし、設立後の維持コストも念頭に置く必要があります。毎年のConfirmation Statement(年次報告)提出時には£34の手数料がかかります(2024年よりオンライン提出料が£13→£34に値上げ)。また会計事務所に決算書作成を依頼すれば年£1,000前後の費用が発生する場合もあります。不動産SPVの場合は取引も少なく帳簿は簡易ですが、それでも年次の会計・税務申告コストは計算に入れておきましょう。

総じて、英国法人設立は低コスト・短期間で実現できますが、その後の運営費用や事務負担も含めて計画することが重要です。初期費用だけに注目せず、中長期的なランニングコストも試算しておくことで、投資全体のコストパフォーマンスを正しく評価できます。

イギリス法人に適用される主要税制:不動産投資と密接に関わる税の概要

英国で法人を設立し事業や投資を行う以上、税制についての理解は欠かせません。この章では、特に不動産投資とも関連が深い主要な税金の種類とポイントを概説します。日本人投資家に影響しやすい税目を中心に取り上げます。

法人税 (Corporation Tax)

英国法人の全ての所得に対して課される税金です。税率は課税利益の額に応じて二段階(19%と25%)が設定されており、小規模の利益には低率が適用されます。具体的には以下の通りです。

  • 年間の課税利益が£50,000以下の場合:19%(小規模利益レート, Small profits rate)。
  • 課税利益が£250,000以上の場合:25%(基本レート, Main rate)。
  • 利益が£50,001〜£249,999の場合:19%から25%へ段階的に引き上がるマージナルリリーフ(Marginal Relief)による調整が行われ、実効税率は利益額に応じて19%以上25%未満となります(例えば中間値の£150k利益の場合の実効税率は約23.5%程度)。

この法人税率は2023年4月に改定されたもので、少なくとも2025年度まで継続する見通しです。不動産投資の場合、賃貸収入や物件売却益は基本的にこの法人税の課税対象となります(後述の特別税制に該当する場合を除く)。例えば、英国法人が物件を賃貸して年間£40,000の利益を上げれば19%の法人税=£7,600を納税します。£300,000の利益が出れば25%=£75,000の法人税という具合です。

日本人投資家にとって嬉しい点は、英国には法人から非居住者株主への配当金に源泉徴収税がないことです。つまり、英国で納めた法人税後の利益を日本の親会社や個人株主に配当する際、英国側では追加課税されません。その配当は日本側で受取配当課税(所得税または法人税)となりますが、租税条約により外国税額控除が認められるため二重課税はある程度調整されます。

なお、日本の個人が英国法人から受け取る配当は日本で総合課税(配当控除対象)または申告分離課税(配当所得として申告)となり、英国で源泉税0%なのでまるまる日本課税対象になります。このあたりのクロスボーダー課税関係も踏まえて配当方針を決めるとよいでしょう。

最新のイギリス法人税率(19%~25%)の適用範囲は以下のグラフを参考にしてください。

2025年イギリス法人税率の推移グラフ

課税利益が£50,000以下なら19%で、小規模利益に対する優遇があります。また£250,000超では25%が適用され、中間の利益帯は段階的に引き上がる仕組みです。

付加価値税 (Value Added Tax, VAT)

日本の消費税に相当する間接税です。英国では標準税率20%で、物品・サービスの取引に広く課されます。不動産関連では商業用不動産の売買・賃貸、建築工事などがVAT課税対象となる場合があります。一方、住宅用不動産の家賃収入はVAT非課税(免税)であるため、個人向け住宅賃貸にはVATはかかりません。

英国法人がVATの事業者となるかどうかは年間取引高に依存します。年間課税売上が£90,000を超える場合、VAT登録が義務となります。この閾値は2024年4月に£85kから£90kに引き上げられました。不動産賃貸のみで収入を得る場合、住宅なら非課税売上としてカウントされませんが、商業テナントからの賃料は課税対象となり得ます(ただし選択税制の適用が必要なケースもあります)。

VAT登録すると、売上に対してVATを上乗せ請求する義務が生じる一方、経費に含まれるVAT(例えば物件購入時の建築費用にかかったVATなど)は仕入税額控除として還付請求できます。事業規模が大きくない場合や住宅賃貸のみの場合は無理に登録する必要はありませんが、高額な改装費用が発生する投資ではVAT登録して還付を受けるメリットが出るケースもあります。

VATの申告・納付は通常四半期ごとに行います。なお英国はEU離脱後、国境を跨ぐVATルールが変わっていますが、国内取引中心の不動産投資であればあまり影響はありません。ただし、日本から英国法人へ役務提供をする際などに消費税・VATの扱いが出てくる可能性がありますので、その際は専門家に確認してください。

印紙税・不動産取引税 (Stamp Duty Land Tax, SDLT)

英国で不動産を購入する際に課される税金です。土地建物の取得に対して段階累進税率が適用され、高額物件ほど税率が上がります。居住用不動産の場合、2025年4月1日以降のSDLT税率は以下のようになります(イングランドと北アイルランドの場合)。

価格帯(居住用)標準SDLT税率法人/2軒目購入
(+3%加算)
非英国居住者
(+2%加算)
£0 ~ £125,0000%3%2%
£125,001 ~ £250,0002%5%4%
£250,001 ~ £925,0005%8%7%
£925,001 ~ £1,500,00010%13%12%
£1,500,000 超12%15%14%

※居住用不動産に適用される印紙税(SDLT)の早見表です。法人名義やセカンドホーム購入の場合は3%が加算され、さらに非英国居住者の場合は追加2%が上乗せされます。
JETRO英国情報 などを参考に作成)

さらに追加課税として、セカンドホームや法人による購入には一律+3%が上乗せされます。また、非英国居住者(Non-UK Resident)による購入には+2%の追加課税も導入されています。法人が英国の居住用不動産を買う場合、法人自体が英国納税居住者とみなされるため通常この非居住者加算は適用されません。しかし法人の取締役や所有者が全員海外在住だと判定が微妙になるケースもあり得るので、実務上は+2%も念頭に置いて資金計画した方が安全です。

例えば、日本人投資家が英国法人を設立しロンドンの物件(価格£600,000)を購入する場合を考えます。この物件は2025年4月1日以降、SDLT基本税率だと約£22,500(125k超〜250k部分の125kに2%=2,500、さらに250k超部分350kに5%=17,500)になりますが、法人+非居住追加が適用されると+5%分(3%+2%)として追加£30,000がかかり、合計£52,500のSDLTとなり得ます。非常に高額なため、不動産購入時には必ず専門の弁護士や会計士にシミュレーションしてもらうことが重要です。

SDLTは物件購入完了(コンプリート)後14日以内に申告・納付する義務があります。法人であっても個人であってもルールは同じです。不動産投資では取得コストとして大きな割合を占めるため、購入前にこの税額を正確に把握しておきましょう。2025年3月31日までに購入を完了させれば、より有利な現行税率が適用される可能性があるため、タイミングも検討する価値があります。

年間資産税・住宅課税 (Annual Tax on Enveloped Dwellings, ATED)

これは一定以上の評価額の居住用不動産を法人等が保有している場合に課される年次税です。評価額£500,000超の住宅物件を、法人・LLP・信託など「個人以外」の名義で所有すると適用対象となります。2013年に導入された制度で、不動産価格上昇による投機抑制が目的です。

税額は不動産評価額に応じて段階的に設定されており、例えば評価額£0.5M超〜£1M以下の場合で年間約£4,150(2025年度基準)、£1M超〜£2M以下で約£8,450、と評価額が上がるにつれて最高で£269,050(評価額£20M超の場合)まであります。

ただし例外・軽減措置も多く、不動産を賃貸事業に供している場合など商業目的で保有している場合は、申告は必要ですが税額はゼロ(全額軽減)になるケースが一般的です。例えば投資目的で購入し第三者に貸している住宅物件は「賃貸業は商業目的」とみなされ、毎年ATED申告書を提出すれば課税は免除されます。一方、自分や関係者用に保有して空き家にしているようなケースだと課税対象となりやすいです。

日本人投資家がロンドン等で高額住宅を法人所有する際は、このATEDの存在を念頭に置いてください。£500k超の住宅物件を法人で買ったら、毎年4月にATED申告を行う義務があります。税額がゼロでも申告は必要です。怠るとペナルティが科されるので注意しましょう。

その他関連税制

キャピタルゲイン課税 (譲渡益課税)

法人が不動産を売却して利益(値上がり益)が出た場合、それも法人税の課税所得に含まれます。以前は非居住法人の不動産譲渡益に所得税(NRCGT)が課されていましたが、2020年以降は非居住法人も法人税の適用となりました。したがって英国法人が物件を売却して出た利益は通常の法人税率(19〜25%)で課税されます。

所得税 (Income Tax) / 非居住者向け源泉税

個人やパートナーシップ形態で不動産所得を得る場合は所得税率20%〜45%が適用されます。また海外の個人や法人が直接英国不動産から家賃収入を得る場合、賃借人や管理業者が基本20%の税金を源泉徴収する制度(NRLスキーム)があります。しかし英国法人を介せばこれらは関係なくなり、法人税という形で処理されるため、源泉徴収でキャッシュフローが圧迫される心配はありません。

相続税 (Inheritance Tax)

日本人投資家が英国に資産(不動産や法人株式)を残して亡くなった場合、その資産は英国相続税の課税対象になりえます。現在の英国相続税率は40%(基礎控除£325k)です。特に住宅不動産は英国内所在資産として課税されやすいため、法人名義にしていても最終的な実質所有者レベルで相続税リスクは残ります。対策として法人株式を信託に移す等のエステートプランニングもありますが、高額資産の場合は専門家に相談してください。

地方税 (Business Rates)

商業用不動産を保有・使用する場合、地方自治体にビジネスレートという不動産税を毎年支払います。住宅物件には通常かかりませんが、ホテルやサービスアパートメント等に転用する場合はこの負担も考慮が必要です。

以上、英国法人とその不動産投資に関わる主要な税制を概観しました。英国の税制は日本の税制と異なる点も多く、適用要件も頻繁に見直されます。2025年最新情報としては法人税率引上げ(19%→25%)やVAT登録基準の変更(£90kへの引上げ)、SDLT税率の変更(2025年3月31日から)などがありました。常に最新の税務情報を確認し、必要に応じて現地の税理士・会計士からアドバイスを得ることをおすすめします。

執筆者

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オクマン編集部 欧米担当チームです。イギリス(ロンドン)、アメリカ(ハワイ)を中心に、欧米の不動産市場の専門家が集結し、有益な情報をお届けします。

信頼できる現地物件・現地デベロッパーの紹介なども行ってますので、欧米への不動産投資を検討の際は、オクマンに気軽にご連絡ください。心よりお待ちしております。お客様窓口 https://okuman-go.jp/contact/

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