インドネシアの賃貸不動産市場を徹底分析:日本人投資家が押さえるべき最新動向

インドネシアの不動産市場は、2025年以降さらに注目度が高まると予測されています。理由としては、経済成長や人口ボーナスに加え、外資参入を促す法律改正や首都移転計画が大きく影響するからです。
本記事では、日本人投資家がインドネシアの賃貸不動産で成功を収めるために押さえておきたい最新動向を包括的に解説します。法律や投資スキームといった専門知識だけでなく、現地視察で得た一次情報も交えながら、実践的な投資ノウハウをご紹介します。
リスク対策やExit戦略まで網羅しているので、インドネシアで賃貸事業を検討している方はぜひご参考ください。
【2025年最新】インドネシア賃貸市場を徹底分析:急伸する理由
まずは、なぜインドネシア賃貸市場が急伸しているか、その背景を整理します。経済成長率の高さや若年層人口の拡大に加え、政府が進める投資促進策が相乗効果を生み、賃貸需要は上昇傾向にあります。
以下の小見出しでは、人口動態と法改正の観点から、急伸の要因をより深く探ります。
経済成長と人口ボーナスの注目ポイント

インドネシアは近年、年平均5%前後(*1)のGDP成長率を維持し、ASEAN諸国の中でも安定した経済発展を遂げています。
しかし、最新データでは2025年第1四半期のGDP成長率が4.87%(*2)と予想を下回っており、中央銀行は2025年の成長予測を4.7%〜5.5%(*3)に下方修正しました。それでも、デジタル産業の台頭や外国直接投資(FDI)の増加が後押しとなり、長期的には堅調な成長が期待されています。

こうした経済の拡大と並行して、インドネシアでは15~64歳の生産年齢人口が増え続ける“人口ボーナス”期を迎えており、若年労働者の都市部流入も顕著です。私が2024年にジャカルタ中心部で現地銀行関係者にヒアリングを行った際、若年層向けのコンドミニアムやアパートメントの賃貸需要が拡大しているとの声を多数聞きました。
住宅ローン金利や頭金の負担が大きいことから、まずは賃貸物件を利用してキャリアを安定させたいという志向が高まっているようです。
これらの要素が相まって、インドネシアの賃貸市場は中長期的にも堅調な伸びが見込まれます。
- *1 Statistics Indonesia (BPS):年平均GDP成長率(統計表「Growth of GDP」2021-2024)
- *2 Statistics Indonesia (BPS):2025年第1四半期実質GDP成長率4.87%(2025-05公表)
- *3 Bank Indonesia:2025年経済成長予測4.7-5.5%(Monetary Policy Outlook 2025)
Omnibus Law(包括的法改正)が外資参入を後押しする理由
2020年後半に成立したOmnibus Law(包括的法改正)(*4)は、複数の法律を一括で改正し、投資や雇用創出を促進する狙いがあります。
この法改正により、従来は複雑だったビジネス許認可手続きが簡略化され、外国企業や投資家にとって参入障壁が下がりました。不動産セクターでも、インフラ関連企業の外国株式保有比率が引き上げられるなど、間接的に賃貸市場の拡大要因となっています。
私自身、ジャカルタ市内で法律事務所の弁護士と2023年に意見交換を行った際、「Omnibus Lawをきっかけに海外資本の大型プロジェクトが増え、都市部の商業施設や高級レジデンスの開発が活発化している」という話を伺いました。
外資企業の進出が進むほど、駐在員やビジネスマン向けの賃貸需要が高まり、日本人投資家にとっても安定的な家賃収入を得られるチャンスが広がります。
- *4 Cabinet Secretariat of the Republic of Indonesia:Omnibus Law Job Creation成立(2020年10月)
賃貸不動産で活用する外資投資形態:HGB・Hak Pakai・PT PMAを解説
インドネシアでは外国人が不動産を取得・保有・賃貸する際、所有形態に制限があります。そのため、投資形態を誤ると収益化や転売に支障が出かねません。以下では主要な外資投資形態であるHGB、Hak Pakai、PT PMAを深掘りして解説し、それぞれが賃貸経営に与える影響や注意点に触れていきます。
HGBとHak Pakaiの違いが賃貸経営に与える影響
スキーム | 権利期間 (年) | 延長・更新 | 主な取得主体 | 主用途 | 主なメリット | 注意点 |
---|---|---|---|---|---|---|
HGB (Hak Guna Bangunan) | 30(*5) | 最長 20 年延長+再更新可 | インドネシア法人( PT PMA含む) | 建物建設・賃貸・ 大規模開発 | 担保設定が容易/ 自由度が高い | 延長忘れで権利失効/ 更新時に税負担あり |
Hak Pakai (利用権) | 25(*6) | 20 年延長+ 最大 30 年更新可 | インドネシア国民/ 外国人個人・駐在員事務所 | 居住用住宅・ 長期リース | 外国人個人でも取得可 | 最低価格規制/転売制限 |
PT PMA (外資系株式会社) | — | 会社存続期間に準ずる | 外国資本 100% まで可 (業種制限あり) | 投資事業/土地・ 建物保有 | 法人名義で長期保有可/ 事業拡張がしやすい | 最低資本金 1,000 億 IDR(*7) 四半期・年次報告義務 |
出典:JETRO インドネシア投資関連資料 ほか |
- *5 インドネシア基本農地法(UU No.5/1960):HGB最長30年規定
- *6 インドネシア基本農地法(UU No.5/1960):Hak Pakai25年規定
- *7 Indonesia Investment Coordinating Board (BKPM):PT PMA最低資本金1,000億IDR
PT PMA設立が外資参入を支える理由と注意点
PT PMA(Penanaman Modal Asing)は“外資系株式会社”に相当し、インドネシア政府の認可を得て設立する法人形態です。外国人投資家が直接不動産を保有する場合は制約が多いため、PT PMAを設立し、その法人名義で土地や建物の賃貸事業を行うケースが増えています。
私が2022年にバリ島で協力した投資家の事例では、PT PMAを設立することでリゾートヴィラを法人名義で取得し、観光客向けに運用することが可能になりました。ただし、設立手続きには投資調整庁(BKPM)への申請や資本金要件などがあり、法律事務所やコンサルタントを活用する必要があります。
さらに、PT PMAには定期的な報告義務が課せられ、書類不備や納税遅延があると罰則を受けるリスクもあります。適切な専門家のサポートを受けながら、長期的な運用計画を立てることが望ましいでしょう。
主要都市の賃貸収益性を徹底比較:ジャカルタ・バリ・スラバヤ・ヌサンタラ
賃料相場と利回りが示す投資チャンス

ジャカルタはビジネスや行政の中心地であり、全都市の中でも賃料相場が最も高い傾向にあります。私が2024年に調査したデータでは、ジャカルタ中心部の高級コンドミニアムは月額1,000万ルピア(約9万円)を超える物件も少なくありません。
最新データによると、ジャカルタの平均賃貸利回りは4.27%、南タンゲランは7.10%、スラバヤは7.21%となっています(*8)。インドネシア全体の平均総賃貸利回りは2024年第4四半期で6.12%です(*8)。
バリは観光需要が強く、リゾート物件や長期滞在者向けヴィラが人気です。高稼働率を維持できれば、年間利回り8~10%を狙えるケースも存在します。スラバヤはジャワ島東部の経済拠点として中間層が多く、比較的安定した賃貸需要があります。
加えて、近年の工業団地の拡大により、外国人技術者の受け皿としても需要が増加中です。一方、新首都候補地として整備が進むヌサンタラ(旧称:East Kalimantan首都移転地)エリアは、まだ賃貸相場が安く、潜在的な上昇余地を大きく見込めます。
- *8 GlobalPropertyGuide:主要都市総賃貸利回り(2024Q4)
首都移転で注目のヌサンタラ:先行投資のメリットとリスク
ヌサンタラはカリマンタン島へ首都機能を移転するプロジェクトにより、今後大規模なインフラ開発が期待されるエリアです。第2段階の建設は2025年から2029年にかけて行われ、インドネシア政府は国家予算から48.8兆ルピア(約4,320億円)(*9)を割り当てています。
また、民間投資も6.49兆ルピア(約575億円)(*10)が2025年2月から流入する見込みです。2028年までにインドネシアの政治首都として確立することを目標としており、政府機関の移転や関連企業の進出によって、官公庁関係者やビジネスパーソンの居住需要が増える見通しです。
実際に私が2023年初頭にヌサンタラ候補地を視察した際、建設ラッシュが進む一方で生活インフラがまだ整備途中であり、水道・電力などの公共サービスに課題を抱えている場面も見受けられました。
早期に投資を行うことで、将来的な地価上昇と賃料上昇によるリターンを期待できますが、公共交通や商業施設の整備が完了するまでの期間は空室リスクが高まる可能性があります。
長期的に投資する視点を持ち、インフラ開発の進捗に合わせた資金計画とリスク管理を徹底することが、ヌサンタラで成功を収めるポイントといえます。
- *9 JETROビジネス短信:ヌサンタラ累計投資額56兆2,000億ルピア(2024-08-16)
- *10 JETROビジネス短信:民間投資6兆4,900億ルピア(2025-03-13)
首都移転ヌサンタラ計画が変える賃貸市場の最新動向
ジャカルタから拡大する人口流動と賃貸需要への影響
首都移転が進むにつれ、ジャカルタの人口流出が懸念されるとの指摘もあります。
しかし実際には、行政機能の一部がヌサンタラに移転しても、ジャカルタが依然としてインドネシアの経済・金融ハブであることに変わりはありません。2024年に行った現地ヒアリングでも、「ジャカルタから完全に人がいなくなるわけではなく、むしろビジネスや商業の中心地としてさらに再開発が進む」との声が目立ちました。
その結果、オフィスワーカーやサービス業従事者の賃貸需要は引き続き堅調であり、高級住宅から中級層向けマンションまで幅広いニーズが見込まれます。
一方、一部の行政職員や関連企業がヌサンタラに移転することで、ジャカルタの賃貸市場が一時的に過剰供給になるリスクもゼロではありません。都市再開発の動向と人口動態を細かくフォローしながら投資判断を行う必要があります。
カリマンタンのインフラ整備と長期的な展望
カリマンタン島には豊富な天然資源が存在し、これまで工業や鉱業が主な経済活動を支えてきました。首都移転に合わせて道路や港湾、空港などのインフラ整備が急ピッチで進められており、これにより物流や観光など新たな産業分野の拡大も期待されています。
私が2023年中頃に現地の建設現場を訪れた際には、橋梁や高速道路の建設が同時多発的に進行しており、長期的に見れば周辺地域の地価上昇や賃貸需要の底上げにつながると感じました。
ただし、工事の遅延や政治的な不確実性からスケジュールが大幅に変動する可能性もあるため、事前に最新情報を入手しながら投資計画を柔軟に調整することがリスク回避の鍵となります。
賃貸市場に影響を与える現地トラブルと対策
賃借人トラブルの新たな傾向と回避策
従来、インドネシアの賃借人トラブルでは家賃滞納が大きな課題でしたが、近年は物件のサブリース(転貸)や違法改装といった新たな問題も増加傾向にあります。私が2022年にスラバヤで関わったコンドミニアム案件では、賃借人が無断で部屋を宿泊アプリに転貸し、近隣との騒音トラブルが深刻化したケースがありました。
こうした事態を防ぐためには、賃貸契約に「サブリース禁止条項」や「改装に関する明確な規定」を盛り込むことが必須です。
また、身元保証人の設定や定期的な物件巡回を行うなど、事前対策が効果的といえます。言語の壁もあるため、現地のプロパティマネジメント会社や弁護士を活用し、トラブル時に素早く対応できる体制を整えておくことが重要です。
自然災害・法改正が示すリスク動向と備え
インドネシアは環太平洋火山帯に位置し、地震や火山噴火、洪水などの自然災害が発生しやすい地域です。たとえばジャカルタ北部では高潮や洪水のリスクが年々増しており、私が現地の建設会社から聞いた話では、低層階の部屋が水害の影響を受けやすいケースが出てきています。
防災インフラが十分でないエリアでは、入居者の安全面から敬遠され、空室率が高くなる可能性もあります。
さらに、法改正によって建築規制や環境規制が変わり、既存物件の改修を余儀なくされるリスクも否めません。投資前に物件の耐震・耐久性をチェックし、保険や定期点検の体制を整備するほか、契約書に災害発生時の対応ルールを明示することで、被害を最小限に抑えられるでしょう。
現地視察でわかった賃料相場と空室率:稼げる物件条件
ジャカルタ郊外・地方都市の最新空室率と需要トレンド
ジャカルタ中心部の賃貸需要は非常に高いものの、競合物件が多く、空室率は5〜8%程度で推移するとされています。一方、郊外エリアは通勤圏としての利便性と比較的安価な賃料を強みに、若年層やファミリー層の需要が増加傾向です。
私が2024年に調査した際、ジャカルタ西部のタングラン周辺では、ファミリー向けの中級アパートが空室率わずか3%ほどで回っている物件もありました。地方都市では、工業団地や大学近辺に需要が集中し、これらのエリアを押さえれば空室リスクを軽減できます。投資目的に合わせて、どの層をターゲットにするかを明確にし、物件の立地や間取り、共用施設の質を吟味することが重要です。
業者ヒアリングから見えた有望物件の選定ポイント
現地業者へのヒアリングでは、コワーキングスペースや小売店が併設された複合開発型の物件が人気を集めているとの情報が得られました。ジャカルタやスラバヤでは、「居住+オフィス+商業」の一体化が進んでおり、入居者は移動時間を大幅に削減できるメリットを感じているようです。
また、複合開発エリアは治安や設備管理が比較的良好であることから、外国人駐在員にとっても安心感が高いといわれます。私が付き合いのあるデベロッパーによれば、建設時点で外資系企業との提携を前提に計画が進むケースも多く、賃貸募集に苦労しにくいとのことでした。
ただし、初期投資額は高めになる傾向があるため、キャッシュフローの試算や銀行融資条件を細かくチェックする必要があります。将来的には都市部の交通渋滞問題が続く見込みなため、このような複合開発型物件はますます需要が増すと考えられます。
【最終チェック】インドネシア賃貸投資で失敗しない10ステップ
投資前の優先タスクと手順
- 目的と期間を明確化:キャピタルゲイン重視かインカムゲイン重視か、投資期間は短期か長期かをはっきりさせる。
- 法制度の確認:HGBやHak Pakai、PT PMAなど、自分に適した所有形態を検討し、必要な許認可を理解しておく。
- 資金計画の策定:インドネシア現地銀行や日本国内銀行の融資条件を比較し、為替リスクも考慮したキャッシュフロー計画を作成する。
- エリアリサーチ:ジャカルタ、バリ、スラバヤ、ヌサンタラなど、投資目的に合った都市をピックアップし、賃料相場や空室率を調査。
- デベロッパー・管理会社の選定:信頼性の高い業者の評判を調べ、過去のプロジェクト実績やアフターサービス体制をチェックする。事前にこれらを徹底することで、無用なリスクを最小限に抑えることができます。
リスク管理とExit戦略を確認
- 物件視察・デューデリジェンス:現地へ足を運び、建物の品質や周辺環境、インフラ状況を確認する。可能であれば専門家による建物調査や評価を依頼する。
- 契約書の精査:サブリース禁止条項やメンテナンス義務、自然災害発生時の責任分担など、細部まで理解し、不明点は専門家へ確認する。
- 保険加入:火災保険・地震保険・洪水保険など、物件の立地とリスクに応じたカバーが可能な保険商品を選ぶ。
- 税務・法務サポート確保:インドネシアでの納税義務や申告書類の準備は煩雑になりやすいため、現地会計士や弁護士を活用する。
- Exit戦略の策定:数年後に売却益を得るのか、長期保有で家賃収入を最大化するのか、あらかじめ方針を決定し、マーケット変動に応じて柔軟に見直す。
これら10ステップを踏まえれば、大きなトラブルを回避しつつ、インドネシアの賃貸不動産市場で安定した収益を目指せるでしょう。