日本人がカンボジアで不動産購入時に知るべき税金と節税ポイント

目次

日本人(外国人)による不動産取得に関する法制度

外国人がカンボジアで不動産を取得する場合、日本国内とは異なる法制度上の制約に注意が必要です。カンボジア現行法では外国人は土地そのものの所有が禁止されています。これはカンボジア憲法第44条および2001年土地法による規定で、個人だけでなく外国資本が過半を占める法人も土地の所有権を持つことはできません。そのため、戸建て住宅や土地付き物件を直接購入することは外国人には認められていません。

しかし、区分所有物件(コンドミニアム等)については例外が設けられています。2010年の外国人不動産所有法により、外国人でも建物の区分所有権(ストラタタイトル)を取得することが可能となりました。ただし外国人所有の占有率上限は建物全体の70%までと定められており、一棟のコンドミニアム全体の少なくとも30%はカンボジア国籍の所有者でなければなりません。また、土地と直接接する1階部分の区画は外国人の権利取得が禁止されています。つまり日本人を含む外国人投資家は、「土地を持たない上層階のマンションユニット」であれば所有できるという仕組みです。

このほか外国人が土地付き不動産を実質的に利用・支配する手段として、以下のような形態があります。

  • 長期リース(賃借権): 外国人は最長50年〜99年程度の土地賃借契約を結ぶことができ、契約更新も可能です。リース期間中は実質的に土地や建物を利用・収益化できます。例えば日本企業が工場用地を確保する際によく用いられる手法です。リース契約には公証手続きが必要で、転貸や譲渡の可否は契約条件によります。

  • 現地法人を通じた所有: 信頼できるカンボジア人パートナーと共同出資で現地法人(カンボジア人持株比率51%以上)を設立し、その法人名義で土地を購入する方法です。外国人は議決権株式の49%までしか保有できませんが、社内契約や担保設定によって実質的支配権を確保するケースもあります。ただし法的リスクが伴うため専門家の助言が不可欠です。

  • 名義人(ノミニー)制度の利用: 信頼できるカンボジア人個人を名義人として土地を取得し、裏契約で実質所有権を確保する手法です。歴史的に行われてきた慣行ですが、法的にはグレーゾーンであり推奨できません。名義人との信頼関係が崩れた場合、所有権トラブルに発展するリスクがあります。

日本人がカンボジアで不動産を取得する際は区分所有物件の購入が最も安全かつ一般的です。 土地取得を伴う案件では、長期リースや現地法人スキームを活用しつつ、契約内容を慎重に検討する必要があります。いずれの場合も、現地の不動産法規や権利証制度(ハードタイトルとソフトタイトルの違いなど)について専門家から十分な説明を受けることが重要です。

外国人がカンボジア不動産を保有するまでの簡易フローチャート

あなたは
外国人ですか?
外国人は土地を直接取得できません。
(カンボジア憲法第44条・土地法により禁止)
区分所有物件(コンドミニアム)
を購入できます。
・土地と直接接する1階区画は不可
・外国人所有70%上限
または
長期リース(賃借権)
50〜99年契約で土地を実質活用
または
現地法人を通じた所有
(カンボジア人51%以上)
・外国人は49%まで出資可能
・法的リスクあり、専門家の助言が必須
または
ノミニー(名義人)制度
カンボジア人個人を名義人にする
・法的にはグレーゾーン
・信頼関係が崩れると所有権トラブルの恐れ

購入時に発生する主な税金・諸費用一覧

カンボジアで不動産を購入する際には、日本と同様に各種税金や手数料が発生します。以下の表に代表的な費用項目をまとめました。

項目税率/費用相場支払者補足
印紙税(譲渡税)4%買主 物件評価額に対する課税。
評価額7万ドル以下は免税などの優遇策あり。
仲介手数料3%売主または買主
(取引態様による)
売買価格を基準に算出。
支払い元を事前に確認するのが重要。
登記登録料約1,000〜1,500ドル買主 物件評価額に応じ変動。
ハードタイトルの名義書換え費用が中心。
弁護士・契約書作成費用数百〜1,000ドル程度買主 契約書ドラフトやデューデリジェンスを含む。
仲介会社に含まれる場合もあり。
公証人手数料50〜200ドル程度買主/売主
(契約内容による)
契約書やリース契約の認証費用。
書類の長さや公証人によって変動。
物件評価料0.1〜0.2%買主 評価額に対する料率で算定。
銀行ローンや公的評価に必要な場合が多い。

新築の分譲コンドミニアムを開発会社から直接購入する場合、登記費用や印紙税をディベロッパー側が負担するプロモーションを行っているケースもあります。購入前に諸費用の内訳と負担者を確認し、想定利回りに与える影響も考慮して資金計画を立てましょう。

印紙税(譲渡税)の仕組みと免除条件

印紙税(Stamp Duty)は、カンボジアで不動産の所有権を移転登記する際に課される税金です。通常は物件評価額(市場価格ベース)の4%が課税され、買主が支払います。例えば評価額10万ドルの物件なら4,000ドルが印紙税となります。ただし、この印紙税については政府の政策的な優遇措置が設けられており、特定の条件下で税負担が大幅に軽減されます。

対象評価額印紙税率控除額実質的な税負担額
〜70,000ドル4%なし免税(印紙税0ドル)
70,001ドル以上4%70,000ドル「評価額 − 70,000ドル」に4%を適用

例えば評価額10万ドルの物件なら、7万ドルを差し引いた3万ドルに4%を課税するため、印紙税は1,200ドルに軽減されます。日本人投資家にとって、これら印紙税の免除・軽減制度を最大限活用することが節税の第一歩と言えるでしょう。

キャピタルゲイン課税(売却益課税)の導入状況とリスク対策

カンボジアではこれまで、不動産売却益に対する明確なキャピタルゲイン課税は存在していませんでした。しかし近年、税制近代化の一環として譲渡益への課税導入が検討・準備されています。2020年に成立した改正税法では、不動産を含む6種類の資産に対するキャピタルゲイン課税が規定され、税率20%が設定されました。当初は2021年にも実施予定とされましたが、その後度重なる延期が行われています。

現在の状況:個人が不動産を売却した際のキャピタルゲイン税は、2025年末まで導入が猶予されています。そのため2025年までに売却した場合、個人レベルでは課税対象にならない見込みです。一方、現地法人名義の不動産売却益は法人税の一部として課税されるケースがあるため注意が必要です。

将来の導入リスク:2026年以降は、不動産売却益に対して最大20%が課税される可能性があります。売却価格から取得費用や改良費用を差し引いた純利益が課税ベースとなるため、例えば5万ドルで購入した物件を10万ドルで売却する場合、差益5万ドルの20%となる1万ドルが課税される計算です。施行されれば利益確定時のコストが増えるため、売却時期の戦略が重要になります。

リスク対策:最新の法改正情報を収集し、導入前に売却するかどうかを含め検討しましょう。長期保有予定でも、非課税期間中に売却すれば課税を回避可能です。また導入後に売却する場合でも、取得費用等の領収証を保存しておくことで課税所得を圧縮できる場合があります。さらに、株式譲渡スキームの活用によりスタンプ譲渡税(0.1%)のみで不動産を間接的に移転する方法も検討されています。総じて、キャピタルゲイン課税は今後避けられないため、制度開始に合わせた売却計画や節税対策の準備が大切です。

未利用地税(2%税)の適用要件

カンボジアには、不動産を保有していながら活用していない場合に課される未利用地税(Tax on Unused Land)という制度があります。未利用地税の税率は年間2%と高く、土地の市場価値に対し毎年課税されます。これは投機的な土地保有を抑制し、都市開発を促進する目的で導入されています。

適用要件:基本的に市街地の宅地で建物が建っていない場合が課税対象となります。一方、農地として耕作中の土地や事業計画に基づいて利用している土地、SEZ(特別経済区)内の土地などは免税となる場合があります。節税の観点では、取得した土地を放置せず何らかの形で活用することが重要です。政府は2024年末まで未利用地税の徴収を停止し、2025年に新たなルールを導入する予定のため、法改正の動向を追うことも欠かせません。

外国人投資家に向けた税制優遇策

カンボジア政府は不動産投資を促進すべく、外国人にも適用される優遇措置を打ち出しています。代表的なものをいくつか紹介します。

  • 印紙税減免制度:一定価格以下の住宅取得時に印紙税4%を免除・軽減する制度で、新興住宅プロジェクトでよく導入されています。海外投資家でも利用可能です。

  • 特別経済区(SEZ)のメリット:法人税免除や輸入関税の免除など多くの優遇が受けられます。未利用地税の対象から外れるなどの利点もあるため、事業投資目的での土地取得を検討している場合はSEZ内への進出を考えると良いでしょう。

  • 不動産開発プロジェクト向けインセンティブ:大規模開発プロジェクトには追加の税優遇が認められることがあり、完成後の印紙税を購入者に代わって負担するケースもあります。

  • 外国人向けローン制度と税控除:一部の銀行では外国人向け住宅ローンを提供し、印紙税免除や利息控除などキャンペーンを行う例もあります。融資を活用することで自己資金を温存し、複数物件への投資効率を高めることが可能です。

これらの制度は外国人投資家にも積極的に開放されており、活用すれば税負担を減らしながら投資効果を高められます。ただし優遇内容や適用条件は変更される場合があるため、最新情報を常にチェックすることが欠かせません。

購入前から売却までの節税ポイント

ここでは、不動産を取得する段階・保有している間・売却時、それぞれでできる節税のヒントをまとめます。

取得時の節税対策

  • 政府の免税措置を活用:印紙税免除・軽減制度をフル活用しましょう。物件価格がわずかに7万ドルを超える場合でも、交渉で下げられれば即4%分が節約になります。
  • デベロッパーのプロモーション利用:新築物件の場合、開発業者が印紙税や登記費用を負担してくれるキャンペーンがあります。購入前に確認しておくと初期コスト削減に有利です。
  • 契約スキームの工夫:土地・建物を別契約に分ける方法や株式譲渡を利用する手法もありますが、法的リスクがあるため専門家のアドバイスが必須です。

保有時の節税ポイント

  • 未利用地にしない:土地は放置せず、農地利用や駐車場など何らかの形で活用し、未利用地税2%を回避します。
  • 年次の不動産税を忘れず納付:評価額2.5万ドル相当超の物件に0.1%の資産税が課されます。期限までに支払わないと罰則や利息が発生します。
  • 賃貸収入の税務計画:家賃収入はカンボジア居住者10%、非居住者14%の源泉課税です。法人所有にして経費計上と法人税(20%)を比較検討するのも一案です。

売却時の税務リスク軽減策

  • キャピタルゲイン税のタイミングを考慮:非課税期間中に売却するか、導入後に取得費用などを控除して売却益を圧縮するか、あらかじめ戦略を練りましょう。
  • 適正価格で申告:過小申告は追徴課税リスクが大きく、将来の税計算でも不利になります。正しい価格で登記するようにしてください。
  • 1031エクスチェンジ的な発想:米国のような繰延制度はありませんが、売却益を次の不動産投資に回し、ポートフォリオ全体の拡大を狙うことで実質的な節税効果を得られる場合があります。

取得から売却までの全ステージでコスト削減の余地があるため、あらかじめ出口まで見据えた投資計画を立てることが重要です。

知っておきたい諸手数料の内訳

カンボジアでの不動産取引では税金以外にも各種手数料がかかるため、事前に把握しておく必要があります。

  • 不動産仲介業者費用:売買価格の約3%が目安です。過度な値引きはサービス品質に影響する恐れがあるため注意しましょう。

  • 弁護士・法律顧問料:書類の精査や権利関係調査に対する報酬です。案件規模に応じて数百〜千ドル程度が相場ですが、仲介会社が一部サポートを含む場合もあります。

  • 公証人・翻訳費用:契約書の公証や日本語書類をクメール語に訳す際の費用です。1文書数十ドル、翻訳1ページ20ドル前後が目安です。

  • ローン関連手数料:融資手数料(1%前後)や保険料、抵当権登録料などがかかります。ローン利用による利回り向上と諸費用のバランスを検討しましょう。

  • 管理費・修繕積立金:コンドミニアムの場合、毎月もしくは毎年の維持管理費が必要になります。大規模修繕に備えた積立金も考慮に入れ、収支をシミュレーションしましょう。

手数料を含めた総合的なコストを把握することで、投資収益の精度を高められます。特に初回投資の場合は細かな費用も漏れなくチェックしてください。

トラブル回避のための専門家活用術

カンボジアでの不動産取引は、法制度や慣習が日本と大きく異なるため、専門家のサポートが不可欠です。代表的な専門家と活用法を以下に示します。

  • 現地弁護士の役割:ハードタイトルかソフトタイトルか、権利証の確認や契約書チェックなどを依頼できます。名義人スキームなどのリスク回避にも有用です。

  • 税理士・会計士の役割:カンボジアの税制と日本の国際課税を見据えたアドバイスを得られます。賃料収入の申告や売却益の税務シミュレーションなどを依頼しましょう。

  • 不動産コンサルタントの活用:市場調査や物件選定段階で客観的なアドバイスを得られます。売主側の仲介でなく買主の立場からサポートするバイヤーズエージェントも存在します。

  • 日本人コミュニティの情報:実際にカンボジアで投資経験のある日本人の体験談やSNS情報も参考になりますが、最終決定は必ず専門家の確認を経て行いましょう。

弁護士や会計士など各分野のプロ同士が連携し合うことで、リスクを最小化したスムーズな投資が可能になります。

税制改正への備え

カンボジアの税制は発展途上であり、今後も改正や新設が続くと予想されます。投資家としては変化に柔軟に対応する姿勢が求められます。


まずカンボジア政府は、不動産取引への課税強化と同時に、住宅取得支援策を並行して実施する方針を示しています。
キャピタルゲイン税や未利用地税の見直し、住宅ローン減税などが検討されており、改正内容次第では投資収益や保有コストに大きな影響を与えます。定期的に現地のニュースや政府発表をチェックし、場合によっては専門家のブリーフィングを受けながら投資戦略を軌道修正していくことが大切です。

まとめ:カンボジア不動産投資を成功させるための最終チェックリスト

最後に、本記事の内容を踏まえ、日本人がカンボジアで不動産投資を行う際に押さえておきたいポイントをチェックリスト形式でまとめます。

  • ☑ 外国人の所有制限を理解した(土地は直接所有不可、区分所有は70%まで。長期リースや現地法人活用も検討済み)
  • ☑ 現地不動産市場の最新動向を調査した(経済成長率、不動産価格動向、開発計画、日本人投資家の参入状況など)
  • ☑ 購入時の税金・費用を予算に織り込んだ(印紙税4%、仲介手数料3%、登記料や法律費用などを計算に入れた)
  • ☑ 印紙税の免税・減税措置を確認した(評価額7万ドル以下で免税、控除適用条件を満たすよう準備)
  • ☑ キャピタルゲイン税導入に備えて戦略を持っている(非課税期間中の売却、導入後の節税策の検討)
  • ☑ 保有期間中の税務も把握した(未利用地税2%の回避策、年間不動産税0.1%の納付、賃料収入の申告)
  • ☑ 各種手数料の内訳を理解した(仲介・弁護士・公証・管理費など見落としがないか)
  • ☑ 現地専門家のサポート体制を確保した(信頼できる不動産会社、弁護士、会計士とコンタクト済み)
  • ☑ 税制改正の情報源を押さえた(定期的に関連ニュースや専門家からの最新情報を入手)
  • ☑ 最終的にリスクとリターンのバランスを検証した(節税効果も織り込んだ収支計画をチェックし、無理のない投資判断を)

以上を確認しておけば、カンボジアでの不動産投資準備は万全と言えるでしょう。カンボジア不動産は適切な知識と戦略のもとで取り組めば、日本人投資家にとって魅力あるリターンをもたらす可能性を秘めています。ぜひ本記事を参考に、税制度を味方につけた賢い投資を実現してください。

執筆者

高橋 卓のアバター 高橋 卓 海外不動産のオクマン 代表

2014年:はぐくみカンパニー株式会社、代表取締役に就任
2017年:株式会社純な、代表取締役に就任
2018年:はぐくみカンパニーカンパニー株式会社を株式譲渡し退任
2023年以降:日本企業の進出コンサルティングと海外不動産メディアの運営に注力(バンコクのベイカリーショップ、小麦の王国立ち上げ等)

現在バンコク在住。海外不動産投資のことならお気軽にご相談ください。

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