【完全版】マレーシアの不動産購入マニュアル:押さえておきたい手順と注意点を徹底解説

マレーシアの不動産市場は堅調な成長を続けており、マレーシア不動産・住宅開発協会(REHDA)によると、2025年の不動産取引額は1,800億リンギ(約5兆400億円)と引き続き高水準を維持する見通しです。さらに市場規模は2025年に392億米ドルと推定され、2030年までに年率6.64%で成長し540億6,000万米ドルに達すると予測されています。

ぜひ参考にして、マレーシア不動産購入を成功させる一助としてください。

目次

購入前に知っておきたい基本情報と事前準備

マレーシアでは外国人による不動産購入が法律上可能であり、個人名義で100%所有できます。しかし、購入にあたってはいくつかの規制や条件があるため、事前に把握しておきましょう。

最低購入価格の制限

州ごとに外国人が購入できる物件の最低価格(最低取得額)が定められており、原則としてRM100万(約2,800万円程度、RM1=約28円換算)が必要です。例えばクアラルンプール(連邦直轄地)ではRM100万以上、セランゴール州ではRM200万以上(地域により条件あり)など州によって異なります。

一部の州ではRM50万からの物件取得が許可される例もあります。低価格帯住宅(廉価住宅)やマレー人保留地(Malay Reserved Land)等、州政府が定める特定カテゴリーの物件は外国人購入不可です。

以下に、州・地域ごと、物件種別ごとの最低購入価格をまとめました:

州・地域名コンドミニアム土地付き一戸建て
クアラルンプールRM100万RM100万
ジョホール(メディニ地区除く)RM100万RM100万
メディニ地区価格規制なし価格規制なし
ペナン島RM100万RM300万
ペナン本土RM50万RM100万
マラッカRM50万RM100万
セランゴール Zone1RM200万購入不可
セランゴール Zone2RM200万購入不可
セランゴール Zone3RM100万購入不可
サラワクRM50万RM50万
サバRM50万RM50万

物件の種類と権利形態

マレーシアの不動産には大きく分けて戸建て(土地付き)と区分所有(コンドミニアム等)があり、権利形態はフリーホールド(所有権)とリースホールド(借地権:一般に99年など)に分類されます。外国人はフリーホールド・リースホールドいずれの物件も購入可能ですが、州によっては外国人の土地付き物件購入に制限があります(例:セランゴール州では外国人はストラタタイトル付きのゲーテッド物件のみ可など)。

物件選定時には権利期間(リースホールド残存年数など)も確認し、投資期間との兼ね合いを検討しましょう。

購入目的と物件タイプの明確化

購入前に、投資目的(賃貸収入狙いか、将来的な値上がり益狙いか、自身や家族の居住用か)を明確にし、目的に合った物件タイプ・エリアを絞り込みます。例えば、首都圏クアラルンプールの高級コンドミニアムなのか、ジョホールバルの有望エリアなのか、目的によって適切な市場・物件が異なります。

また新築(未完成物件を含む)か中古(転売物件)かでも手続きや注意点が異なるため、希望を固めておきましょう。

信頼できる現地業者の選定

外国での不動産購入では、現地の信頼できる不動産エージェントや仲介業者を活用することが成功の鍵です。マレーシアでは不動産エージェント・交渉人に「REN(Real Estate Negotiator)番号」という公認資格IDがあります。日本語が通じるからという理由だけで担当者を選ぶのではなく、必ずREN資格を持つ正規エージェントに依頼しましょう。

正規業者であれば最新の物件情報や州ごとの規制、売買プロセスにも精通しており、日本人投資家が陥りがちなトラブルを避けられます。また、オンラインの物件ポータルサイト(iPropertyやPropertyGuruなど)も情報収集に有用ですが、掲載情報の更新遅れや問い合わせへの反応が遅いケースもあるため、最終的には現地業者のサポートを受けることをおすすめします。

以上の準備事項を踏まえた上で、次章より実際のマレーシア不動産購入の手順をステップごとに解説します。

マレーシア不動産購入の手順

それでは、具体的な購入手順を順を追って見ていきましょう。ここでは、新築・中古に共通する一般的なフローを示し、要所で注意点を補足します。

マレーシア不動産購入フローチャート

1
エージェントへの問い合わせ
マレーシア不動産に精通した正規エージェントを選定し、希望エリア・予算・購入目的などを伝えます。
(JETRO資料によると、地域によって物件価格や条件が大きく異なるため、信頼できる仲介を選ぶのが鍵。)
2
購入の申し込み & 予約申込金
購入申込書を作成し、物件の予約申込金を支払います。(通常2~3%)
ローンを利用する場合は銀行審査承認後、本契約へ進みます。
3
売買契約締結(SPA)
銀行ローン承認後または現金購入決定後、売買契約書(SPA)を締結します。
手付金(通常10%)を支払った後、州当局への外国人購入承認を申請。
4
残代金の支払い & 物件引き渡し
契約後、指定期間内に残代金を決済。完了後、物件の鍵や引き渡し証明書を受領します。
新築物件の場合は初期費用(管理費・保険料など)の支払いも必要です。
5
登記完了
州当局の承認が下りた後、登記が完了して名義変更が確定します。
(JETRO情報:2014年以降EPUへの申請は不要となった一方、州政府承認は引き続き必須。)

1. 現地不動産エージェントへの問い合わせと物件選定

まずは現地の不動産エージェントに問い合わせ、希望条件に合う物件の紹介を受けます。事前に以下の点をエージェントに伝えるとスムーズです。

  • 購入の目的:投資(賃貸運用)なのか、自用(移住・別荘)なのか
  • 希望する物件タイプ:新築コンドミニアム or 中古物件、戸建て etc.
  • 希望エリア:都市部(KL中心、ペナン島など)か郊外か、具体的な地区名があれば伝える
  • 予算:購入可能な価格帯(最低でもRM100万以上)
  • 間取り・広さやその他の条件:例えば高層階希望、プール付き物件希望など

こうした希望を明確に伝えることで、エージェントは膨大な物件情報から適切な候補物件を絞り込んで提案してくれます。

現地視察の重要性

紹介された物件の中から有望候補が見つかったら、可能であれば実際に現地訪問して視察しましょう。マレーシア現地に足を運び、物件の内覧だけでなく周辺環境も確認することを強く推奨します。特に投資の場合でも、将来的な転売時の価値や賃貸需要は立地環境に大きく左右されます。

日常の買い物環境、治安、学校や公共施設へのアクセスなどを自身の目で確かめることで、その物件が目的に適しているか判断しやすくなります。現地エージェントは各エリアの不動産市場動向や賃貸状況、売却時の出口戦略についてもアドバイスできるため、視察時に積極的に情報収集すると良いでしょう。

豆知識:オーバーハング物件

マレーシアでは完成後売れ残っている「オーバーハング(過剰在庫)物件」に関して、外国人購入の最低価格要件を緩和する措置があります。「オーバーハングユニット」とは、新築後9ヶ月以上所有権が移転されていない不動産を指し、マレーシア不動産情報センターがデータを公開しています。

例えばペナン州では売れ残りの高層住宅なら島部RM80万(本来はRM100万以上)から購入可能といった特例があります。マレーシアの住宅市場は過去2年間、大量の供給過剰により冷え込んでいる状況があります。

昨年、マレーシアの主要都市で売れ残ったマンションは184億8,000万リンギ(約5,174億円)相当だったとの報告もあります。ただし、オーバーハング物件は需給バランス上何らかの課題がある場合も多いため、安さだけで飛びつかず慎重に検討しましょう。

2. 購入の申し込みと予約申込金の支払い

希望に合う物件が見つかったら、購入の意思表示(オファー)を行います。具体的にはエージェントを通じて購入申込書(Offer/Booking Form)を記入し、物件の予約申込金(ブッキングフィー)を支払います。この時点では正式契約ではありませんが、売主(デベロッパーや個人オーナー)に対し「この条件で購入したい」という意思表示となり、一定期間その買付権を確保する形です。

予約申込金の金額

相場的には物件価格の約2~3%程度、もしくは定額RM30,000前後で設定されるケースが一般的です。たとえばRM1,000,000の物件であれば2%ならRM20,000、3%ならRM30,000となります。この申込金は後の手付金(頭金)の一部に充当される前提です。

申込金支払いと条件

申込金支払い後、売主側は購入申込者に対し一定期間その物件をホールドします。ただしローン利用予定の場合、この時点では購入は未確定です。申込後に銀行ローン審査を行い、ローン承認がおりて初めて次の正式契約手続きへ進む形になります。

ローン前提の申込であれば、「もしローン審査が否決された場合に申込金は返金されるか」を事前に確認しておきましょう。一般にはローン不承認時は申込金返還に応じてもらえますが、トラブル防止のため書面で条件を明示してもらうことが望ましいです。

購入申込書の署名

購入申込書に署名し申込金を支払うと、売主側から予約受付書面(レターオブオファーなど)が発行されます。この書面をもって買主はローン申請手続きに進みます。通常、申込から2週間程度以内に売買契約(SPA)を締結するスケジュールが提示されます。したがって、その猶予期間中にローン申請・承認を急ぐ必要があります。

3. 銀行ローンの申請(必要な場合)

マレーシアでは外国人でも住宅ローン(ホームローン)を利用することが可能です。資金効率を高めるためにローン活用を検討する投資家も多いでしょう。ただし近年は銀行の審査基準が厳格化しており、ローン利用にはいくつか留意点があります。

ローン審査と期間

マレーシア住宅ローン金利と借入上限

ローン申請にはパスポートコピーや収入証明など書類提出が必要で、審査には通常3~4週間程度かかります。日本の住宅ローン審査と比べ長いため、気長に待つ心構えが必要です。特に非居住外国人の場合、現地就労ビザがないと審査に時間がかかる傾向があります(MM2Hビザ保持者は優遇され比較的通りやすいとの報告あり)。

借入可能額(頭金割合)

一般的な銀行の融資割合は物件価格の最大70~80%ですが、これは主にMM2Hなど長期ビザ保持者に適用される上限です。ビザなしの非居住者外国人の場合、実務的には50%前後のローン承認が多いとされています。つまり頭金として50%以上を自己資金で用意する必要があるケースが多い点に注意しましょう。

例えばMM2Hビザを持つ方なら80%ローン=頭金20%で済むところ、ビザなしだと頭金50%程度求められる、といった違いがあります。

ローン金利と期間

マレーシアの住宅ローン金利は変動金利が中心で、2025年時点で年利4~5%台が一般的です(金融情勢により変動)。返済期間は最長30年 or 借入時年齢70歳までが上限となります。日本に比べると金利は高めですが、借入制限が緩やかな国であることから資金レバレッジをかけたい投資家にはメリットがあります。

ローンを利用する場合、申込~承認に時間がかかるため、売主と契約締結までの調整がポイントになります。通常、ローン審査待ちの期間延長については売主も理解があるため、エージェントと協議しつつ契約締結日を融通してもらうなど対応可能です。ローンが無事承認されたら、次のステップである売買契約(SPA)の正式締結へと進みます。

4. 売買契約書(SPA)の締結と手付金支払い

銀行ローンの承認がおりたら(または現金購入を決断したら)、いよいよ売買契約書(Sales and Purchase Agreement:通称S&PまたはSPA)の締結です。これは物件売買の正式な契約で、日本の不動産取引で言う「売買契約書」に相当します。契約手続きにおける重要事項を整理します。

契約書の署名方法

買主はマレーシア現地で署名する方法と、日本国内のマレーシア大使館で署名認証する方法の二通りがあります。可能であればマレーシア現地渡航時に直接署名する方が簡便です。日本で署名する場合、東京のマレーシア大使館で署名の上、公証を受ける必要があり、少なくとも2度の大使館訪問が必要となります。

地方在住の場合は大きな手間となるため、投資家の多くは渡航して直接契約署名する道を選んでいます。なお代理人による署名も可能ですが、その場合も事前に公証手続き等が必要となるため注意が必要です。

手付金(頭金)の支払い

売買契約締結時に、購入価格の10%を手付金(デポジット)として支払います。前述の予約申込金を支払っている場合は、その分を差し引いた残額を追加で支払う形になります。

例:物件価格RM1,000,000、申込金RM30,000を既払なら、契約時にさらにRM70,000を支払い10%(RM100,000)を満額にする。支払い方法は銀行振込(海外送金)で行われ、リンギ建てで売主指定の口座に送金します。

弁護士(ソリシター)の関与

マレーシアでは不動産売買に際し弁護士が契約手続き全般を担当します。買主側・売主側それぞれに弁護士が付き、契約書のドラフト作成・修正、条件交渉、決済・登記手続きまで進めます。日本人投資家の場合、エージェントが信頼できる法律事務所を紹介してくれることが多いです。

契約書は英語で作成されますが、重要な契約条件(物件明細、価格、支払い条件など)はエージェントから日本語で説明を受けましょう。専門用語について不明点があれば、日本語での注釈や解説を求めることを躊躇しないでください(例:「Vacant Possession=物件引き渡し」の意味など)。

州当局の承認申請

契約書締結後、弁護士は州政府の外国人購入承認(State Authority Consent)を申請します。これはナショナルランドコード第433B条の規定に基づき、外国人名義への不動産権利移転について州の許可を得る手続きです。

RM100万以上など規制を満たす物件であれば基本的に却下されることはなく形式的な許可ですが、承認取得までに数ヶ月~半年以上要することもあります。買主は弁護士にパスポート写し等必要書類を提供し、承認がおりるまで待つ形となります(通常この待ち期間中に残代金支払いプロセスが進行します)。

補足: 契約締結をもって売買は法的に成立しますが、外国人への名義移転完了には州当局許可が必要であり、承認待ち期間が長引くケースもあるため焦らず見守りましょう。承認が下りたら物件の登記移転手続きへと進みます(詳細は後述)。

5. 残代金の支払いと決済プロセス

売買契約(SPA)締結後は、契約書で定められたスケジュールに従い物件代金の残額支払い(決済)を行います。支払いプロセスは物件の種類(完成物件か建設中物件か)や支払い方法(現金一括かローン併用か)によって異なります。それぞれの一般的な流れを押さえましょう。

完成済物件(中古・完成新築)の場合

売買契約締結後、通常3ヶ月以内に残代金を一括支払いし決済します(契約により延長可、延長時は日割利息支払いあり)。買主が現金で支払う場合は、契約後指定期日までに残金を売主に振り込みます。ローンを利用する場合は、買主が頭金部分を用意し、銀行が残額を売主へ支払います。

例として、物件価格の10%を手付済み・ローン50%承認の場合、残り40%を買主が追加で用意し、銀行ローン50%と合わせて決済するイメージです。銀行ローン分は銀行から直接売主の口座へ振り込まれます。全額の入金確認ができれば物件引き渡し(鍵の受け渡し)へ移行します。

建設中の新築物件(プレビルド物件)の場合

デベロッパーとの契約では、建築進捗に応じた分割支払い(ステージ払い)が定められています(Housing Development Actに基づく標準スケジュール)。契約書に「着工時○%、上棟時○%、完成時○%…」と支払い割合とタイミングが明記されており、それに従って都度支払いを行います。

支払い請求はデベロッパーから随時発行され、買主(およびローン利用時は銀行)が規定割合を支払います。建築が予定より遅れた場合は、契約書に定められた遅延補償金利率でデベロッパーが買主に賠償する仕組みです。

このように法制度により買主の支払いに見合った建築義務と補償が定められているため、不安な場合は契約条項を再確認して権利を理解しておきましょう。一般に大規模プロジェクトでも契約から2~3年程度で完成引き渡しとなるケースが多いです。

決済に際しては、売主側弁護士から精算明細(Statement of Account)が提示され、残代金額や日割精算金(固定資産税や管理費の按分)、印紙税や登記費用の支払先など詳細が案内されます。買主はそれに従い入金するだけですが、海外送金手数料や為替レートにも留意してください。

高額送金になるため、日本の銀行手数料より安価な国際送金サービス(例:Wiseなど)の活用も選択肢です。送金スケジュールに遅れが出ないよう計画的に進めましょう。

6. 物件の引き渡し(鍵の受領)と初期費用の支払い

全ての代金支払いが完了すると、晴れて物件の引き渡しとなります。中古物件であれば売主から鍵を受け取り即入居・利用可能、新築物件の場合はデベロッパーから鍵(鍵引き渡し証明書付き)を受領する流れです。

新築引き渡し時には、デベロッパー指定の各種初期費用の支払いが必要となる点に注意してください。具体的には以下のような費用項目があります。

  • インテリアデポジット:購入者が内装工事を行う際、共用部や構造に損傷を与えないよう担保として預ける保証金。工事完了後に問題なければ返金されます。
  • 郵便ポストデポジット:郵便受け鍵の保証金(鍵返却時に返金)。
  • 電力会社デポジット:電気開通のため電力会社(TNB)に預ける保証金。
  • 管理費(一定期間分):管理組合に対し、引き渡し後数ヶ月~1年分の管理費を前払い。
  • 固定資産税(一定期間分):地方税(クイットレンやアセスメント)を年度末まで按分で支払い。
  • 火災保険料(初年度分など):建物に対する基本的な火災保険料。

以上はデベロッパーから事前に案内があり、鍵受領時にまとめて決済します。金額は物件規模によりますが、例えばコンドミニアムの場合トータルで数千リンギ(数万円程度)になることが多いです。これらを支払い終えると、晴れて鍵が手渡されます。

鍵を受け取った後は、電気・水道の名義変更と開通手続きを行います。新築物件の場合、引き渡し直後は電気が未通電の場合があり、デベロッパー指定の電力会社代理店に依頼して開通させます。通常、現地エージェントやデベロッパーのカスタマーサービスがサポートしてくれるので指示に従えば問題ありません。

7. デベロッパー保証期間内の不具合チェック(新築の場合)

新築物件を購入した場合、引き渡し後まず行うべきは物件の不具合チェックです。マレーシアのデベロッパーは通常引き渡し後24ヶ月間の瑕疵担保責任(Defect Liability Period)を負います。この期間内に見つかった施工不良や不具合は無償で補修してもらえるため、早めに物件内を点検し、気になる点をデベロッパーに書面で報告しましょう。

典型的な不具合には、壁のひび割れ、塗装ムラ、ドアや窓の建付け不良、給排水の漏れ等があります。小さな傷でも報告しておくに越したことはありません。報告を受けたデベロッパーは順次補修工事を行い、良好な状態で住めるよう対応します。

注意:内装工事(リフォームや造作)をオーナーが行うと、その部分に関する瑕疵担保は無効になる場合があります。例えばフローリングを自分で張り替えた後に床の不具合が出ても保証対象外となり得ます。保証条件は契約書や保証書に記載されていますので、内装着手前に保証範囲を確認しておきましょう。

一方、中古物件の場合は引き渡し後すぐに自分のものとして利用可能ですが、設備等に不具合があれば自己責任で修繕することになります。中古購入時には事前にインスペクションできないことも多いため、最低限エアコンや給湯設備など主要設備の動作確認は内覧時に行っておくと安心です。

8. 名義移転登記の完了

物件の引き渡しが終わっても、法的手続きとして登記名義の変更が完了するまで油断は禁物です。マレーシアでは物件の登記(Title)が買主名義に変更されて初めて完全に所有権が移転したとみなされます。登記完了までは引き渡し後も数ヶ月~1年程度の時間を要するケースがありますので、進捗を把握しておきましょう。

新築物件の登記

区分所有の新築コンドミニアムなどでは、建物完成後に各ユニットの個別権利書(ストラタタイトル)が発行されます。引き渡しから約1~2年後に登記手続きが始まることが一般的で、そのタイミングでデベロッパーまたは弁護士から連絡があります。

指定された手続き(印紙税納付済みの譲渡書類への署名提出など)を行い、自分名義の権利書取得を完了させましょう。万一この手続きを怠ると、後に売却しようとした際に名義が旧所有者(デベロッパーなど)のままで問題になります。通知を見逃さないよう注意が必要です。

中古物件の登記

完成物件を購入した場合は、売買手続きと並行して名義変更登記が進められます。通常、決済完了から数ヶ月以内に新所有者の名前で権利書が発行され、弁護士経由で買主に引き渡されます。

買主がローンを利用している場合、原本の権利書(タイトル)は融資銀行が保管します。ローン完済時に銀行からオーナーに返却される仕組みです。権利書は不動産の最重要書類なので、受領後は厳重に保管しましょう(紛失しても再発行可能ですが、他人に悪用されるリスクもゼロではありません)。

なお、外国人または外資系企業によるRM100万以上の不動産取得は2014年以降、マレーシア経済計画庁(EPU)への取得申請が不要となりましたが、州当局の認可は引き続き必要とされています。前述の州当局承認が下りて初めて登記移転可能となるため、裏を返せば登記完了=州の認可取得済みということになります。稀に州の処理が遅延することがありますが、その際は弁護士がフォローしてくれますので長期戦で構えましょう。

9. 購入後の物件活用と留意点

以上で物件取得のプロセス自体は完了となり、晴れてマレーシアに不動産を所有することになります。この段階では、ご自身の目的に応じて物件を有効活用してください。

例えば投資目的であれば賃貸に出して家賃収入を得る、将来の転売益を見据えて市場動向を注視する、あるいは自身や家族の移住先・別荘として実際に住んでみるなど、多様な活用法があります。

ただし、購入後も引き続き注意すべきポイントがあります。

各種税金・費用の支払い

不動産保有に伴う税金やランニングコストを忘れずに納付しましょう。具体的には年1~2回の固定資産税(クイットレン/土地税やアセスメント/評価税)、マンションの場合は毎月または年払いの管理費・修繕積立金などがあります。マレーシアの不動産税は日本に比べると低額ですが(例えばコンドミニアムの年間固定資産税は数万円程度)、滞納すると延滞金や法的措置のリスクがあるため注意が必要です。

また賃貸運用する場合、家賃収入にはマレーシアの所得税が課税されます。外国人非居住者が得る賃料収入の税率は一律25%(申告により経費控除可)です。税務申告と納税も忘れず行いましょう。

将来の売却時の税金(RPGT)

マレーシアには不動産売却益に対し不動産譲渡益税(Real Property Gains Tax, RPGT)が課されます。外国人が物件を売却して利益が出た場合、所有期間に応じて最大税率30%の課税となります。

具体的には取得から5年以内の売却では利益額の30%に課税、6年目以降の売却でも10%課税されます。また、2024年3月1日以降、マレーシア国内の法人が行う未上場株式の譲渡から生じる利益に対しても、新たに課税対象とする規定が導入される予定です。これは投資利回りに大きく影響するため、中長期のプランニングに入れておきましょう。

為替リスク

リンギット建て資産を保有する以上、円との為替変動リスクは常に伴います。取得時だけでなく、賃料の円換算額や将来売却時の為替レートによって実質利回りは変動します。

直近ではリンギット安傾向の場合、日本人にとっては割安に感じられる反面、将来円高に振れた場合に売却益が目減りするリスクもあります。これは海外投資全般に共通する注意点ですが、為替ヘッジの手段も検討しておくと安心です。

長期滞在ビザとの関係

物件購入それ自体は長期滞在ビザ(居住ビザ)取得要件には直結しません。例えばMM2H(Malaysia My Second Home)などの長期ビザを持たずに物件を購入し賃貸運用する外国人も多く存在します。逆に「ビザがないと不動産を買えない」ということもありません。ただし、将来的に購入物件に自分で住むために移住する場合は別途ビザ取得が必要となります。

マレーシアでは2022年10月からプレミアムビザプログラム(PVIP)の申請受付が開始されています。PVIPは最長20年間のマレーシアでの滞在許可が与えられ、就労や事業活動も許可される富裕層向けの長期滞在ビザです。MM2Hビザと異なり、年齢制限がなく、マレーシアでの最低滞在日数の要件もありません。

申請資格としては、月収RM40,000(約132万円)以上またはRM480,000(約1,584万円)以上の年収、およびマレーシア国内の銀行でRM1,000,000(約3,300万円)以上の定期預金を要件としています。

信頼できるパートナーの継続

購入後の物件管理や賃貸運用については、現地のプロパティマネージャーやエージェントと継続的に連携すると安心です。入居者募集、家賃回収、メンテナンス手配等を代行するサービスも充実しています。特に日本から遠隔で運用する場合、頼れる現地パートナーを確保しておくことでトラブル時にも迅速に対処できます。

まとめ

マレーシア不動産購入は、適切な知識と準備があれば日本人投資家にとって魅力的な選択肢となります。本記事で解説した通り、最低購入価格の確認、信頼できる現地パートナーの選定、契約手続きの理解、税金や管理費などのランニングコストの把握が成功の鍵となります。

また、2025年の市場予測が堅調であることや、マレーシアプレミアムビザプログラム(PVIP)などの新しい長期滞在ビザの選択肢も投資判断の材料となるでしょう。じっくりと調査し、実際に現地を訪れて確認することで、マレーシア不動産投資を成功させることができます。

執筆者

高橋 卓のアバター 高橋 卓 海外不動産のオクマン 代表

2014年:はぐくみカンパニー株式会社、代表取締役に就任
2017年:株式会社純な、代表取締役に就任
2018年:はぐくみカンパニーカンパニー株式会社を株式譲渡し退任
2023年以降:日本企業の進出コンサルティングと海外不動産メディアの運営に注力(バンコクのベイカリーショップ、小麦の王国立ち上げ等)

現在バンコク在住。海外不動産投資のことならお気軽にご相談ください。

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