アブダビのファルコン・エコノミー構想とは?今後の有望なビジネス環境を完全解説

アブダビ版ファルコン・エコノミーを図解で解説
ファルコン・エコノミー誕生の背景
ファルコン・エコノミーの概念は、2022年のアブダビ・ファイナンス・ウィーク(ADFW)で初めて発表された革新的な経済戦略です。この戦略は、UAEの国鳥である隼(ファルコン)の特性である「力強さ、勇気、野心、そして夢」を経済発展のシンボルとして採用し、アブダビを「資本の首都(Capital of Capital)」として位置づける構想の一環として誕生しました(*1)。
石油依存からの脱却と経済多様化を目指すこの戦略により、アブダビは中東地域随一のビジネスハブとしての地位を確立しています。アブダビ経済開発局のアハメド・ジャシム・アル・ザービ議長は、「我々の目覚ましい経済発展は、強靭で持続可能かつ多様化した経済の構築への決意によって推進されている」と述べており、ファルコン・エコノミーが長期的な経済戦略の核心であることを強調しています。2024年の統計では、アブダビの総GDP成長率は3.8%、特に非石油部門は6.2%の成長を記録し、非石油セクターが経済全体の54%を占めるまでに成長しています(*2)。
2030ビジョンが示す3大数値目標
注釈:
- 実質GDP: 直近値約1.1兆AED → 2030年目標3倍化(約3.3兆AED)
- 非石油貿易額: 直近値約1.6兆AED → 2030年目標4兆AED
- 年間スタートアップ資金調達: 直近値20億USD → 2030年目標25億USD
- グラフの縦軸は統一表示のため、スタートアップ資金調達は10億USD単位で表示
アブダビのファルコン・エコノミーは、2030年までに達成すべき明確な数値目標を設定しています。第一の目標は、GDPを3倍に拡大することで、これは13の専門経済クラスターの開発を通じて実現される予定です。国際通貨基金(IMF)の最新予測によると、アブダビ経済は2025年に4.2%、2026年には5.8%の成長が見込まれており(*5)、これは中東・北アフリカ地域で最も高い成長率の一つです。
第二の目標は、国際貿易パートナーシップの拡大により、2031年までに非石油貿易額を4兆AED(約109兆円)に到達させることです。第三の目標は、スタートアップエコシステムの強化です。2024年にはUAE全体のスタートアップ資金調達額が20億ドル(約3000億円)に達し、前年比3倍の増加を記録しました。2025年には25億ドル(約3750億円)までの成長が予測されており(*3)(*4)、これらの目標達成に向けた道筋が明確に示されています。
成長ロードマップ2025→2030を一目で把握
• 予算 660 億 AED
• 段階的運用開始
• システム完全統合
ファルコン・エコノミーの成長ロードマップは、段階的な発展計画として構築されています。2025年段階では、政府による144の新規プロジェクトが承認され、総予算660億AED(約1兆8000億円)が住宅、教育、観光、天然資源分野に投入される予定です(*6)。2026年から2028年にかけては、13の経済クラスターが本格的な稼働段階に入ります。
特に注目すべきは、2025年に正式に開始されたHELM(健康・持久力・長寿・医学)クラスターで、2045年までに420億AED(約1兆1400億円)以上の投資を呼び込み、3万人の新規雇用創出が見込まれています(*7)。2030年の最終段階では、各クラスターが完全統合され、アブダビを世界的な技術・イノベーション・持続可能性のハブとして確立することが目標となっています。デジタル戦略2025-2027により、130億AED(約3540億円)が政府のデジタル化に投資され(*8)、2027年までに全政府サービスに人工知能が100%統合される予定です。
2025年最新版|アブダビの有望ビジネス環境3つの強み
規制・税制ゼロ%帯の拡大と法人税開始時期
アブダビの税制環境は、2025年現在でも世界最高水準の競争力を維持しています。適格フリーゾーン企業(QFZP)については、引き続き法人税率0%が適用されており、これは適格収入に限定されます。適格収入には、他のフリーゾーン企業との取引、外国企業との取引、フリーゾーン内での特定活動から得られる収入が含まれます。
一方で、非適格収入については9%の標準法人税率が適用されます。2023年6月に導入された法人税制度により、年間利益が37万5千AED(約1020万円)を超える企業は課税対象となりましたが、フリーゾーン企業は適切な条件を満たせば免税措置を継続できます(*9)。
ADGMやDIFCなどの金融フリーゾーンでは、銀行業務は除外活動として9%の課税対象となりますが、その他の金融サービスは条件を満たせば0%税率の恩恵を受けることができます。KEZADフリーゾーンでは、最低資本金15万AED(約410万円)で会社設立が可能で、7-10日という迅速な登録プロセスが提供されています(*10)。
- 法人税率: フリーゾーン企業は適格条件を満たせば0%、そうでなければ9%が適用
- ADGM: 金融業特化で英米法準拠、最低資本金なしで設立可能
- KEZAD: 製造業・物流特化、ハリーファ港に隣接し最低資本金15万AED
- 設立期間: 各フリーゾーンの手続き効率により異なる
空港・港湾・デジタル網など世界級インフラ
📊 グラフの見方:
- 緑色の折れ線:年間インフラ投資額の推移(左軸:億 AED)
- カラフルな棒グラフ:各年の主要完成プロジェクト(右軸)
- 2025年がピーク:144プロジェクト開始により投資額が最大(660億AED)
- 2027年は専門化:デジタル・AI分野に特化した投資(130億AED)
🏗️ 主要完成プロジェクト詳細:
📈 投資トレンド分析:
- 物理インフラ投資は2025年にピークを迎え、その後デジタル化にシフト
- 2027年の投資額減少は、AI・デジタル技術への集中投資を示す
- 総投資額:2,590億AED(2022-2027年累計)
出典:政府発表資料、JETRO港湾インフラ投資データ、デジタル政府化計画書に基づく
アブダビのインフラストラクチャーは、世界有数の品質と接続性を誇っています。ハリファ港は、最新の自動化技術を導入した世界クラスの港湾施設として機能しており、アジア、アフリカ、ヨーロッパを結ぶ重要な物流ハブとしての役割を果たしています。空港インフラについては、2024年に新しいターミナルが完成し、国際接続性が大幅に向上しました。製造業はパンデミック前比で14%の成長を記録し、金融サービス部門も13%の増加を達成しています。
デジタルインフラの面では、2025年から2027年にかけて実施される130億AED(約3540億円)のデジタル戦略により、政府サービスの100%デジタル化と100%のAI統合が実現される予定です。これにより、アブダビは世界初のAI完全統合政府となる見込みです。ADGM金融センターは、透明性、効率性、誠実性を提供する進歩的な枠組みと未来志向のインフラを備えており、馴染みのある独立した法的管轄区域内で運営されています。これらのインフラは、企業の成功を支える完璧なプラットフォームとして機能しています。
政府系ファンドと民間VCが生む資金循環
アブダビの投資環境は、政府系ファンドと民間ベンチャーキャピタルの強固な連携により、独特の資金循環システムを構築しています。アブダビは1.7兆ドル(約255兆円)(*11)のソブリンウェルスファンド資産を保有しており、これは世界最大級の機関投資資本です。ADIO(アブダビ投資庁)は、2019年の設立以来、数十の投資家と企業を支援し、5億4500万AED(約148億円)の革新プログラム・インセンティブプールを運営しています。
ADIOの国際ネットワークは、テルアビブ、ロンドン、パリ、フランクフルト、北京、ソウル、ニューヨーク、サンフランシスコの8都市に拡がっており、グローバルな投資家との橋渡し役を果たしています。民間VC分野では、2024年のUAEスタートアップ資金調達額が20億ドル(約3000億円)に達し、前年の6億3800万ドル(約957億円)から3倍以上の成長を記録しました(*12)。
主要な資金調達事例として、eyewaが1億ドル(約150億円)、KeyperとFlapKapがそれぞれ3400万ドル(約51億円)の調達を実現しています。Nuwa Capitalのマネージングパートナーであるハレド・タルフーニ氏は、「2024年の資金調達額は20億ドル程度で安定し、2025年には25億ドル(約3750億円)まで成長する可能性がある」と予測しています。
成長が期待される有望セクター13選
クリーンエネルギー・水素:投資回収年数の目安
クリーンエネルギー・水素部門は、ファルコン・エコノミーの13大クラスターの中で最大の15%の貢献を占める重要セクターです。UAE国家水素戦略2050により、2031年までに年間140万トン(緑色水素100万トン、青色水素40万トン)、2040年までに750万トン、2050年までに1500万トンの水素生産を目標としています(*13)。投資回収の観点から見ると、グリーン水素プロジェクトには15.3GWの太陽光発電容量と8.7GWの電解装置容量が必要とされ、初期投資は相当な規模となります。
しかし、UAEの豊富な太陽エネルギー資源と戦略的立地を活用することで、ヨーロッパやアジア市場への供給拠点として機能し、長期的な収益性が期待されます。Masdarは、ノルウェー企業Equinorとの戦略的枠組み協定を締結し、既存プロジェクトでの協力強化と新しい機会の検討を進めています。
また、ICP Infrastructureとの合意により、北欧地域を含むヨーロッパの再生可能エネルギーインフラへの投資機会を探索しています。EMSTEELとの共同パイロットプロジェクトでは、中東・北アフリカ地域初のグリーン水素を使用した鉄鉱石からの鉄抽出によるグリーンスチール製造が実現されており、商業化への道筋が示されています。
宇宙・航空・防衛クラスターの拡大図
航空宇宙・防衛クラスターは、ファルコン・エコノミーの10%を占める戦略的重要セクターです。Calidusは2015年にアブダビに設立された技術開発・製造企業として、次世代航空宇宙・陸上防衛ソリューションの提供を行っています。SAVI(スマート・自動運転車両産業)クラスターの一環として、ADIOは米国の電動垂直離着陸(eVTOL)航空機開発企業との合意により、アブダビに製造センターを設立する計画を発表しています(*14)。
このプロジェクトは、Masdar Cityでの無人航空・陸上・海上車両の開発に焦点を当てています。Gitex Globalイベントでは、ADIOが3つのスマート車両企業と追加の合意書を締結しました。NWTNとの覚書により、Yas Islandのテスト施設の活用が決定され、Pony.aiやStar ChargeとのパートナーシップによりSAVIクラスター内でのスマート車両運用の拡大が図られます。
EPI(Emirates Precision Industries)は、アブダビに先進製造施設を持つ航空宇宙・防衛・石油ガス業界の主要貢献者として、地域および世界のOEMとの戦略的パートナーシップを構築しています。同社は、業界固有の基準に合わせた精密製造インフラの構築に重点を置いています。
文化・観光・クリエイティブ産業の新拠点
文化・観光・クリエイティブ産業セクターは、ファルコン・エコノミーの8%を占める成長分野です。UAE観光戦略2031により、観光部門のGDP貢献を4500億AED(約12兆2500億円)に増加させ、2031年までに年間4000万人のホテル宿泊客誘致を目標としています(*15)。アブダビは、ルーブル・アブダビ、ブルジュ・ハリファ、Expo City Dubaiなどの象徴的なアトラクションを通じて、世界クラスのインフラ、高級ホテル、文化施設への大規模投資を行っています。
これらの開発により、繁栄する観光産業が創出され、経済への大きな貢献を実現しています。UAEは、高級観光を超えて幅広い観客を引き付けるため、文化、アドベンチャー、エコツーリズムの取り組みで観光提供の多様化を図っています。この戦略により、より包括的で持続可能な観光セクターの構築が進められています。
クリエイティブ産業については、女性起業家支援にも力を入れており、TiE Women MENA 2025プログラムでは、MENA地域の女性起業家を支援する5つのトラック(アラブ首長国連邦エミラティ、UAE、サウジアラビア、エジプト、その他MENA)が設置されています。
注釈:
- コロナ影響: 2020年は投資額150億AED、宿泊客数700万人と大幅減少
- 回復傾向: 2021年以降、投資額・宿泊客数ともに順調に回復基調
- 2031年目標: 投資額450億AED、宿泊客数4000万人を目指す
- データ基準: UAE観光戦略2031とJETRO観光関連統計を基に作成
- グラフ構成: 棒グラフ(投資額・左軸)、折れ線グラフ(宿泊客数・右軸)の2軸表示
デジタルサービス・FinTech市場の伸び率
デジタルサービス・FinTech市場は、ファルコン・エコノミーの12%を占める急成長セクターです。2025年から2027年のデジタル戦略により、アブダビは240億AED(約6530億円)のGDP付加価値と5000人の新規雇用創出を目指しています。スタートアップエコシステムの観点では、2024年のUAE最大資金調達案件の多くがFinTech分野に集中しています。主要事例として、FlapKapが3400万ドル(約51億円)、Ziinaが2200万ドル(約33億円)、UnifyAppsが2000万ドル(約30億円)の資金調達を実現しています。
Hub71は、2023年にインセンティブプログラムを刷新し、スタートアップに最大75万AED(約2040万円)の現金・現物インセンティブを提供しています。Company Building Programの参加企業は、25万AED(約680万円)相当の現物支援サービスと、エクイティと引き換えの25万AED(約680万円)の現金を受け取ることができます。
ADGMは、2025年1月1日から非金融・小売ライセンスの手数料を50%以上削減し、Al Reem Islandのビジネスがフリーゾーンの税制優遇措置にアクセスできるよう移行を促進しています。適格フリーゾーン企業(QFZP)として、ADGMでは適格活動に対して0%の法人税率が適用されます。国家ブロックチェーン戦略2021や国家人工知能プログラムなどの取り組みにより、UAEは先進技術の世界的リーダーとなることを目指しています。
ファルコン・エコノミーを支える投資支援とビジネス環境
無税ゾーンと法人税ゼロ%政策の全体像
アブダビの無税ゾーン政策は、2025年現在でも世界最高水準の競争力を維持しています。適格フリーゾーン企業(QFZP)の認定を受けるためには、8つの重要な基準を満たす必要があり、これらの基準のうち一つでも欠けるとQFZPステータスを失い、0%税率の恩恵を受けられなくなります。適格収入として認められるのは、他のフリーゾーン企業との取引(相手方が実際に使用する場合)、UAE国外の企業との取引、フリーゾーン内で行われる特定の適格活動からの収入です。
一方、UAE本土との取引や除外活動(銀行、保険、不動産など)からの収入は、一般的に9%の標準税率が適用されます。ADGM(アブダビグローバルマーケット)では、2025年1月1日から非金融・小売ライセンスの手数料が50%以上削減され、Al Reem Island企業のフリーゾーンへの移行が促進されています。物理的存在要件として、企業は専任従業員、運営設備、事業活動を支援する十分な支出を伴う物理的オフィスを維持する必要があります。
KEZADフリーゾーンでは、100%外資所有が可能で、UAE居住者を企業構造に含める必要がありません。最低資本金は15万AED(約410万円)で、一般的には資本金を会社口座に預け入れる必要はありませんが、特定の事業活動については確認が必要です。
最大30%キャッシュリベートを受け取るための申請手順と期間
ADIOの投資インセンティブプログラムでは、最大30%(*16)のキャッシュリベートを含む包括的な支援パッケージが提供されています。申請プロセスは、まずADIOの国際ネットワーク8都市(テルアビブ、ロンドン、パリ、フランクフルト、北京、ソウル、ニューヨーク、サンフランシスコ)のいずれかで初期相談を受けることから始まります。具体的な申請手順として、第一段階では事業計画書と投資計画の提出が求められます。
ADIOは、グローバルビジネスと投資家が現地市場で金融・非金融インセンティブにアクセスし、目標に最も関連性の高いカスタマイズされた支援を受けることができます。金融インセンティブには、アブダビの成長優先セクターへの投資を支援するリベートと刺激策が含まれます。
非金融インセンティブには、免除・特別ライセンス、金融アドバイス、投資家エクスポージャーが含まれます。投資家ケアサービスを通じて、ADIOは新しい法人の設立、従業員の動員、アブダビでの企業活動の効率的な開始を含む、エンドツーエンドの投資家ジャーニーを管理しています。処理期間は通常、完全な書類提出から承認まで4-8週間程度(*16)とされています。
「スマートビジネスライセンス」とは?取得費用・条件を解説
スマートビジネスライセンスは、アブダビのデジタル化戦略の一環として導入された革新的なライセンシングシステムです。2025年から2027年のデジタル戦略により、政府サービスの100%デジタル化と自動化が実現され、すべての政府デジタルサービスに人工知能が完全統合される予定です。取得条件として、スマートビジネスライセンスは特定の経済セクターと事業活動に基づいて分類されています。
KEZADフリーゾーンでは、サービス、貿易、さらには現地活動を行うためのライセンスを含む、複数種類のライセンスが取得可能です。費用面では、KEZADフリーゾーンでのライセンス発行は1年間有効で、毎年事前(有効期限の1ヶ月前)に更新する必要があります。具体的な費用は事業活動の種類により異なりますが、一般的に従来の手続きと比較して大幅な時間短縮とコスト削減が実現されています。
ADRA(アブダビ登録・ライセンス庁)は、アブダビの本土および非金融経済フリーゾーンのすべてのビジネスの一元化された登録機関として設立されました。これにより、規制報告の単一窓口が提供され、UAEおよび国際規制への経済施設のコンプライアンスが確保されています。処理時間については、KEZADでの会社登録は7-10日(*10)と非常に迅速です。
この効率性は、アブダビの「Ease of Doing Business」ランキングで中東・北アフリカ地域1位を獲得する要因の一つとなっています。
ADIO・ADGM・KEZADが提供する補助金・税優遇を徹底比較
インセンティブ | ADIO | ADGM | KEZAD |
---|---|---|---|
キャッシュリベート | 最大 30 % | - | - |
法人税率 | 適用外 (投資庁) | 0 % (適格) | 0 % (適格) |
外資所有権 | N/A | 100 % | 100 % |
ライセンス費用割引 | - | 非金融・小売 50 %↓ | 年間固定 |
重点セクター | 技術・ヘルスケア | 金融・FinTech | 製造・物流 |
アブダビの主要投資促進機関であるADIO、ADGM、KEZADは、それぞれ異なる特徴と優遇措置を提供しています。ADIOは、5億4500万AED(約148億円)のイノベーションプログラム・インセンティブプールを運営しており、技術、ヘルスケア、持続可能性に重点を置いた事業を支援しています。ADIO(アブダビ投資庁)の優遇措置には、最大30%のキャッシュリベート、土地・オフィススペースへのアクセス支援、選択的トライアルライセンスを含む規制支援、政府手数料・要件の選択的免除、エクイティ投資およびその他のインセンティブ(エコシステムパートナー経由)が含まれます。
ADGM(アブダビグローバルマーケット)の優遇措置には、適格活動に対する0%法人税率、2025年1月1日から非金融・小売ライセンス手数料50%以上削減(*17)、100%外資所有権、独立した英国法準拠の法的管轄権、Al Reem IslandおよびAl Maryah Island全域でのフリーゾーン優遇措置があります。
KEZAD(ハリファ工業地帯アブダビ)の優遇措置には、100%外資所有権(UAE居住者不要)、最低資本金15万AED(約410万円、預け入れ不要な場合が多い)、会社登録期間7-10日、ハリファ港との近接性による物流優位性、ほぼ完全な税制免除、サービス・貿易・現地活動を含む複数ライセンス対応が含まれます。
投資分野別に見ると、ADIOはより大規模で戦略的な投資(自動運転車両、ブロックチェーン技術など)に特化しており、ADGMは金融サービスとフィンテック企業に最適化され、KEZADは製造業、工業、物流業務に最も適しています。
SDGsとESG視点|ファルコン・エコノミーの環境社会インパクト
ネットゼロ2050政策が生む投資機会
UAEは2021年にネットゼロ2050戦略イニシアチブを発表し、中東・北アフリカ地域で初めて2050年までのネットゼロ排出達成を宣言しました。この戦略は、ダイナミックな経済成長と積極的な環境インパクトの両立を目指しています。
アブダビの気候変動戦略は、2027年までに首長国の炭素排出量を22%削減することを目標としており、これは10年間で5億本の木による二酸化炭素吸収に相当します(*19)。この戦略は、排出削減(緩和)と主要経済セクターの気候レジリエンス強化(適応)という2つの柱で実施されます。
投資機会の具体例として、再生可能エネルギープロジェクトへの6000億AED(約16兆3000億円)投資(*18)、脱炭素化と革新技術による温室効果ガス削減、持続可能性促進のためのインセンティブ制度、大規模再生可能エネルギー生産プロジェクトの加速があります。エネルギー、健康、インフラ、環境を含む主要セクターのレジリエンス強化により、アブダビは地域で最も気候に強靭な場所の一つとなることを目指しています。
戦略目標達成のため、81のイニシアチブと12の主要戦略プロジェクトが実施されます。シェイク・モハメド・ビン・ラシード・アル・マクトゥーム副大統領兼首相は、「我々は地域内での気候変動に関するリーダーシップを確固たるものにし、経済と国家をネットゼロへと転換する中で、開発、成長、新たな雇用を推進する重要な経済機会を捉えることにコミットしている」と述べています。
循環経済モデルと資金調達の成功例
アブダビの循環経済モデルは、持続可能な経済成長と環境保護の両立を実現する革新的アプローチです。Masdarが主導するグリーン水素プロジェクトは、循環経済原則の実践的な成功例として注目されています。循環経済の主要成功事例として、MasdarとEMSTEELの共同パイロットプロジェクトによる中東・北アフリカ地域初のグリーン水素を使用したグリーンスチール製造、太陽エネルギーを活用した水素生産による化石燃料依存度削減、海水を利用した電解技術の研究開発(砂漠地域での水使用効率向上)があります。
資金調達面では、国家水素戦略により大規模な投資が実現しています。特にMasdarは、ノルウェーのEquinorとの戦略的枠組み協定により、既存プロジェクトでの協力強化と新規機会の検討を進めています。
また、Aker Horizons Asset Developmentとの提携により、困難な脱炭素化セクターを対象とした「パワー・トゥ・グリーン水素」バリューチェーンの共同開発・投資機会を探索しています。Yaraとの合意では、グリーン水素を中心とした「パワー・トゥ・グリーンアンモニア」バリューチェーンでの協力・投資機会が検討されています。これらの取り組みにより、循環経済モデルは理論から実践へと移行し、具体的な投資収益を生み出しています。
環境ビジョン2030では、環境、経済、社会ビジョンという持続可能性の3つの柱の統合が確保されており、効率的な資源利用とすべての人々のより良い生活の質への貢献を目指しています。
女性・若者起業支援プログラムの最新動向
アブダビは、女性と若者の起業支援において地域のリーダー的役割を果たしています。2025年現在、複数の政府機関と民間組織が連携し、包括的な支援体制を構築しています。
主要な女性起業家支援プログラムとして、TiE Women MENA 2025競争プログラムは、地域の女性起業家のエンパワーメントと促進を目的とした第6回目の取り組みです。プログラムは5つのトラック(TiE Women Emirati、TiE Women UAE、TiE Women Saudi Arabia、TiE Women Egypt、TiE Women Rest of MENA)で構成されています。
ハリファ基金企業開発は、UAEの中小企業支援の主要機関として、女性向けの低金利ローン、事業計画指導、メンタリング、ネットワーキング機会を提供しています。
特に注目すべきは、Sharjah Women Accelerators Network(SWAN)プロジェクトで、他の地域組織との協力により設立されています。Dubai SMEは、ドバイ経済開発局の一部として、インキュベーター、アクセラレーター、戦略的アドバイザリーサービスを通じて新規ビジネスの育成を行っています。
統計と成果指標として、2024年のUAE民間セクターにおける女性の存在感は23.1%増加(*20)し、MENA地域でUAEと同じペースでジェンダー平等が達成されれば、3年間で地域GDPに8120億ドル(約121兆8000億円)が追加される可能性があります。同地域において、男性のみのスタートアップは女性の対応企業より5倍多くの資金を調達している現状があります。
ファルコン・エコノミーを牽引するスタートアップ環境とHub71活用術
Hub71は、2023年にインセンティブプログラムを全面的に刷新し、スタートアップに最大75万AED(約2040万円)の現金・現物インセンティブパッケージを提供しています。新しいCompany Building Programでは、Hub71が初めてスタートアップの株式取得を行い、高成長企業の可能性を育成する包括的支援パッケージを提供しています。
主要インセンティブ内容として、現物支援サービス最大25万AED(約680万円)相当、エクイティ対価現金25万AED(約680万円)、追加現金インセンティブとして優秀スタートアップには最大追加25万AED(約680万円)、オフィス支援として家賃補助とコワーキングスペースアクセス、ITサービス割引としてHub71パートナー企業からの技術サービス優遇料金が提供されます。
現金インセンティブは、ADGM(アブダビグローバルマーケット)管轄向けにカスタマイズされた創業者フレンドリーな条件に基づくSAFE(Simple Agreement for Future Equity)を通じて提供されます。この仕組みにより、スタートアップは資金調達ラウンドを行うことなく、オンボーディング時に事業成長資金にアクセスできます。
Hub71副CEOのアハマド・アリ・アルワン氏は、「初期段階技術企業の成長支援における我々の評判に基づき、刷新されたCompany Building ProgramはHub71の自然な進化を表している」と述べ、Hub71プログラム参加の200社以上のスタートアップが累計約50億AED(約1360億円)の資金調達を実現していることを強調しています。
成長支援プログラム(アクセラレーター)の応募条件と選考ポイント
Hub71のCompany Building Programへの参加には、明確な応募条件と選考基準が設定されています。プログラムの期間は1年間で、完了後に優秀なスタートアップはGitex GlobalのExpand North StarでのMENA決勝戦に進出する機会が提供されます。応募条件として、初期段階の技術企業であること、高成長ポテンシャルを有すること、革新的な技術ソリューションの提供、アブダビからのグローバル展開意欲、創業者の事業運営能力とビジョンが求められます。
選考プロセスには、書類審査による事業計画と技術の革新性評価、面接ラウンドによる創業者の能力とコミットメント確認、技術評価による製品・サービスの市場競争力分析、市場ポテンシャル査定によるターゲット市場の成長性評価が含まれます。プログラム参加者は、3ヶ月間のコースを受講し、専門メンタリング、カスタマイズされたアドバイス、重要な支援を受けます。
Hub71は、パートナーとの紹介を促進し、商業取引の可能性と資金調達成功の見込みを高める専門知識と指導を提供します。正式な資金調達ラウンド実施時には、Hub71がSAFE契約に基づく権利を行使してスタートアップの株式を取得します。この新しいアプローチは創業者を念頭に置いて設計されており、アブダビからグローバル展開を目指すスタートアップにとって合理的で投資家フレンドリーな資本調達方法を提供しています。
スタートアップビザ取得の流れと家族同伴で得られるメリット
アブダビのスタートアップビザ制度は、革新的起業家とその家族に包括的な居住・事業運営権を提供しています。KEZADフリーゾーンでは、7-10日という迅速な会社登録プロセスが提供され、これにはビザ申請手続きも含まれています。スタートアップビザ取得プロセスは、第1段階として事業計画書と技術革新性証明書の提出、第2段階としてHub71またはフリーゾーン当局での初期評価、第3段階として法人設立および事業ライセンス取得、第4段階として投資家・起業家ビザ申請、第5段階として家族ビザ(配偶者・子供)の同時申請で構成されます。
家族同伴による主要メリットとして、配偶者の就労許可自動取得、子供の教育機関アクセス(国際学校含む)、家族全員のヘルスケアシステム利用権、長期居住権(最大10年間の更新可能ビザ)、UAE内での不動産購入権があります。ADGM管轄下では、スタートアップがAl Reem IslandとAl Maryah Island全域でフリーゾーン優遇措置にアクセスできるため、家族の居住選択肢が大幅に拡大しています。特に、教育面では世界トップクラスのインターナショナルスクールへのアクセスが可能で、多言語・多文化環境での子供の教育機会が提供されます。
ヘルスケア面では、UAEの世界クラスの医療システムへの完全アクセスが保証されており、特にアブダビは中東地域で最高水準の医療インフラを有しています。また、配偶者の起業・就労支援により、家族全体の経済活動参加が促進され、生活の質の向上が実現されます。
- *1 アブダビ経済開発局:ADFW 2022 基調発表資料(2022年)
- *2SCAD アブダビ統計センター:GDP速報値(2024年)
- *3 アブダビ政府公式 Vision 2030:数値目標概要(2023年)
- *4 UAE経済省:非石油貿易統計(2024年)
- *5 IMF World Economic Outlook:国別成長率予測(2025年版)
- *6 アブダビ行政メディアオフィス:144プロジェクト発表(2025年)
- *7 ADIO HELM クラスター概要:投資額・雇用創出見通し(2025年)
- *8 アブダビデジタル庁:デジタル戦略 2025–2027 (2024年)
- *9 UAE連邦税務庁:法人税法ファクトシート(2023年)
- *10 KEZAD 公式設立ガイド:資本金・登録日数(2025年)
- *11 IIF Sovereign Wealth Report:資産規模ランキング(2024年)
- *12 MAGNiTT UAE Venture Report:資金調達額(2024年)
- *13 UAEエネルギー・インフラ省:水素戦略 2050(2023年)
- *14 ADIO SAVI プレスリリース:eVTOL 製造センター計画(2024年)
- *15 UAE観光戦略 2031:目標値・宿泊客数(2023年)
- *16 ADIO Innovation Program:5.45 億 AED プール/30%リベート(2024年)
- *17 ADGM公式通知:ライセンス料50%削減(2024年)
- *18 UAE気候変動環境省:ネットゼロ2050ロードマップ(2021年)
- *19 アブダビ環境庁:排出22%削減計画(2023年)
- *20 UAEジェンダーバランス評議会:女性参画23.1%増(2024年)