【2025年最新】エジプトの法人設立を徹底解説:日本人が把握するべき優遇策など

はじめに:2025年最新のエジプト法人設立が注目される理由
2025年の今、エジプトでの法人設立が日本人投資家から熱い視線を浴びています。 その背景には、エジプトがアフリカでトップクラスの投資先となっている現状があります。 国連貿易開発会議(UNCTAD)の最新報告によれば、2023年のエジプトはアフリカ全体の対内直接投資(FDI)の約18.6%を占め、投資額は526億ドルに達しました。 これは2年連続でアフリカ最大の投資受入国となったことを意味し、エジプト市場の潜在力と安定性を示すものです。
また、エジプト政府は投資環境の整備にも積極的で、2023年には投資プロジェクト向けの「ワンストップショップ」制度を導入し、許認可手続きを簡素化しました。 さらに同年、大統領主導で「投資最高評議会」が設立され、投資促進施策の推進力が一段と強化されています。 こうした最新の制度改革や投資誘致策により、エジプトでのビジネス環境は改善を続けています。
日本政府とエジプト政府も2021年以降、「日エジプトビジネス投資促進委員会」を設けて毎年協議を行い、ビジネス上の課題解決や環境整備に取り組んでいます。 人口1億人超の巨大市場であり、中東・アフリカへのハブでもあるエジプトは、2025年最新の投資トレンドとして日本人の不動産投資先としても脚光を浴びています。 現地法人を設立することで、エジプトの成長市場に直接参画し、魅力的な投資機会を捉えることが可能になるでしょう。
エジプトの年間FDI推移(2019~2024年推定)
日本人投資家向けエジプト法人設立の基本形態:選択すべきタイプとは
エジプトで事業を始める際には、まずどのような形態の法人(ビジネス形態)を設立するかを決める必要があります。 エジプトには外国企業向けにいくつかの事業形態が認められており、それぞれ特徴や要件が異なります。 日本人投資家にとって代表的な選択肢となる基本形態を以下に紹介し、どのタイプを選ぶべきか検討します。
駐在員事務所(Representative Office)
エジプト市場の調査や情報収集を目的とする事務所です。 営業活動や収益を伴う事業行為は認められておらず、あくまで現地駐在員による市場調査等に限定されます。 例えば不動産投資の事前調査を行う場合、一時的に駐在員事務所を設けるケースがあります。
ただし駐在員事務所は恒久的な事業拠点とはならないため、設置から3年以内に現地法人の設立、支店への移行、または事務所閉鎖のいずれかを選択するよう法律で定められています(2018年法742号による規定)。 エジプト進出の第一段階として情報収集に徹するには有用ですが、直接ビジネスを行えない点に注意が必要です。
支店事務所(Branch Office)
エジプト国外に本店を持つ企業が、エジプト国内で特定の契約に基づく事業を遂行するために開設する拠点です。 例えば、日本の建設会社がエジプトで受注したプロジェクトを実施する場合に支店を設立するといったケースです。
支店は現地企業や政府機関との契約が存在することが前提となり、その契約の範囲内で工事やサービス提供など商業活動が可能です。 最低資本金の規定はありませんが、開設時に5,000エジプトポンド以上を現地銀行口座にデポジットする必要があります。 支店の利益にはエジプトの法人税(所得税)が課税されます。
支店を登記する際は、投資・フリーゾーン庁(GAFI)での商業登記が必要で、その登録は5年ごとに更新しなければなりません。 したがって、特定プロジェクト向けの一時的な拠点として適していますが、長期的・多角的な事業展開には向かない場合があります。
株式会社(Joint Stock Company)
複数の株主によって構成される法人形態で、日本の株式会社に相当します。 エジプト会社法に基づき最低3名以上の株主が必要で、公開会社と非公開会社で資本金要件が異なります。 公開を前提とする場合は最低資本金100万エジプトポンド、非公開の場合は25万エジプトポンドが必要です。 日本円にして約1,200万円程度(1エジプトポンド=約4円換算)となり、比較的まとまった資本が求められます。
ただし一般的な商工業分野の事業であれば、この資本金以上であれば外資100%出資も可能です。 株式会社を設立すると経営意思決定は取締役会や株主総会で行う形になり、法人として独立した信用力を持てる利点があります。 また将来的に現地での株式公開や大規模事業展開を視野に入れる場合には、この形態が適しています。
なお、エジプトでは銀行・保険など特定の金融業は株式会社形態でしか営めず、しかも最低資本金500万ポンドが要求されます。 一方で商業代理業(代理店業務)はエジプト人資本100%の会社にしか認められないため、外国資本だけで商社業務を行うことはできない点に注意が必要です。
有限責任会社(Limited Liability Company)
いわゆるLLCで、出資者の責任が出資額に限られる法人形態です。 株主数は2名以上50名未満で設立でき、最低資本金の定めはありません。 2009年の投資省令により資本金要件は撤廃されており、出資者間の協議で自由に決定できます。 そのため、ごく少額の資本からでも設立可能で、中小規模の事業に適しています。
株式会社と比べて設立・運営手続きが簡易で、機関設計も取締役1名・監査役なしで運営できるなど柔軟性があります。 一方、株式の公開募集はできないため大規模資金調達には不向きです。 日本人投資家がエジプトで小規模に不動産関連事業(例えば不動産管理や賃貸事業)を始める場合、まずは有限責任会社で設立し、事業拡大に応じて株式会社へ移行する戦略も考えられます。
なお、有限責任会社でもエジプトでは従業員への利益配分義務があり、資本金25万ポンド以上の場合は純利益の一部を従業員にボーナスとして分配する法規定が適用されます(同額未満なら義務適用外)。 この点は日本の制度と異なるため、大規模化する際には留意が必要です。
単独株主会社(Single Shareholder Company)
2018年の会社法改正により新設された、一人だけの株主で設立できる会社形態です。 法人または個人いずれか一名が100%株主となり、従来の有限責任会社のように2名以上の出資者を揃える必要がありません。 最低資本金もわずか1,000エジプトポンド(約4万円)と非常に低く設定されています。
この形態では株主個人の資産と会社資産が明確に区分され、責任は会社資産の範囲内に限定されます。 日本人投資家がエジプトで単独で事業を開始したい場合や、小規模な不動産物件保有会社を設立する場合に適した形態と言えます。 法人格を持つため、個人で直接不動産を所有するよりも資産管理や相続の面でメリットがあります。
ただし一人会社でもエジプトの法律を遵守し、必要な会計帳簿の備付けや報告義務は生じます。 また、この形態が導入されたのは比較的新しいため実務上の運用に不明点がある場合は、現地の専門家に確認すると良いでしょう。
以上のように、エジプトには駐在員事務所・支店・株式会社・有限責任会社・単独株主会社という代表的な事業形態が存在します。 日本人投資家にとっては、進出目的や事業規模に応じて適切な形態を選択することが重要です。 例えば、市場調査段階では駐在員事務所、限定的なプロジェクトなら支店、本格的事業展開なら有限責任会社や株式会社、といった判断になります。
特に不動産投資で現地に物件を保有・運用するなら、有限責任会社か単独株主会社で現地法人を設立し、その名義で不動産を取得・管理するのが一般的です。 エジプト法では外国資本100%の会社でも事業用土地・建物の所有が認められており(管轄官庁の許可条件あり)、法人経由で不動産を取得することが可能です。
自身のニーズに合った器(ビークル)を選ぶことで、エジプトでのビジネスを円滑にスタートできるでしょう。
法人形態の要点比較表
法人形態 | 設立難易度 | 最低資本金 | 株主数要件 | 法人税課税形態 | 適用業種 |
---|---|---|---|---|---|
駐在員事務所 | 低 | なし | 不要 | 非課税(営業収益なし) | 市場調査のみ(実質的な事業不可) |
支店事務所 | 中 | 5,000 EGP | 親会社1社 | 22.5%(現地所得課税) | 特定契約(工事・サービスなど) |
株式会社 | 高 | 25万~100万 EGP | 3名以上 | 22.5% | 一般事業(銀行・保険などは別途要件) |
有限責任会社 (LLC) | 中 | なし | 2~50名 | 22.5% | 小中規模事業全般 |
単独株主会社 (SSC) | 中 | 1,000 EGP | 1名 | 22.5% | 小規模事業 |
2025年版:最新の法人設立手続きフローと必要書類
2025年時点の最新手続きに基づき、エジプトで法人を設立する際の具体的なフローと必要書類を解説します。 エジプト政府は投資法(2017年法律72号)に基づき外国投資家向けのワンストップサービスを整備しており、投資・フリーゾーン庁(GAFI)が法人設立の窓口となっています。 基本的な流れは以下のとおりです。
商号予約
定款作成
銀行払込
GAFI申請
商業登記完了
税務登録・社会保険登録
商号予約や定款作成の段階からワンストップで対応できるため、必要書類が揃えばスムーズに登記が進みます。
事前準備(商号予約と定款作成)
最初に会社の商号(名称)を決定し、重複や禁止語句がないか確認します。 必要に応じて商業登記局での商号予約手続きを行います。 次に会社の定款(Articles of Association)を作成します。 エジプトでは定款の標準ひな形が定められており、基本事項を盛り込んだうえで、公証人による認証を受けます。
定款には会社名、目的、本店所在地、出資者の氏名・出資比率、資本金額、役員構成、決算期などを記載します。 日本人投資家が出資者となる場合、日本側で作成された書類(例えば日本企業の登記簿や取締役会決議書)はエジプト大使館・領事館での認証(サイン証明)と現地での公証・アラビア語訳が必要になるため、早めに準備しましょう。 特に親会社が出資するケースでは、「エジプトに現地法人を設立する」旨の親会社取締役会決議書と、その法人の定款などが求められます。
銀行口座の開設と資本金払込
株式会社を設立する場合、要求される最低資本金をエジプト国内の銀行に払い込み、封鎖口座(blocked account)証明書を取得する必要があります。 これは銀行が定款に記載の資本金額を確かに預かったことを証明する書類で、設立登記の際に提出します。 払込資本は登記完了後に会社の運転資金として引き出すことが可能です。
有限責任会社では最低資本規定がないため形式的な払込は不要ですが、実務上は当面の運転資金を賄える額を用意し、必要なら払込証明を取得しておくとスムーズです。
設立登記申請(GAFIへの提出)
必要書類が揃ったら、GAFIの企業局に対して法人設立の申請を行います。 提出書類は会社形態により多少異なりますが、概ね以下のものが必要です。
- 定款および設立趣意書(公証・認証済)
- 設立申請書(所定フォーム)
- 資本金払込証明書(株式会社の場合)
- 出資者(株主)全員の身分証明書(パスポート)の写しと住所証明
- 出資者が法人の場合:登記事項証明書や定款(認証付)および出資承認の取締役会決議書
- 取締役予定者の一覧および就任承諾書
- 現地代理人に関する委任状(手続きを代理する弁護士やコンサルタントに対する委任状)
- 監査人(公認会計士)選任に関する書類(エジプトでは会社設立時に公認会計士を定めることが求められます)
- 登録手数料の支払い領収証
GAFIではこれら書類をワンストップで受理し、関係各所(商業登記局、商工会議所、投資省など)への連絡も代行します。 提出書類が受理されると「設立必要書類一式受領証明書」が発行されます。 この段階で商業登記局での登録手続きも並行して行われ、商業登記(Commercial Registration)が完了すると企業は法人格を取得します。
エジプト会社法では商業登記日から15日後に法人としての効力が生じると規定されており、通常は登記完了から2週間程度で正式に事業活動を開始できるようになります。
登記完了後の諸手続き
法人設立登記が完了したら、税務局から税務番号(Tax ID)を取得し、税務登録と社会保険登録を行います。 納税者番号の取得により税務申告が可能となり、事業を営むうえで必要な税務手続き(源泉徴収登録やVAT登録など)を進めます。
また会社名義の銀行口座を正式に開設し、封鎖口座から資本金を移し替えます。 商業活動を行うために必要な業種別の営業許可や業法上のライセンスがあれば取得します。 不動産関連事業であれば、不動産仲介業の登録や開発許可等が該当します。 さらに法人印の作成、社印の届出も済ませておきます。
エジプトでは電子署名制度も整いつつあり、一部手続きをオンラインで完結できるようになっています。 例えばGAFIはオンラインでの定款署名やバーチャル株主総会開催を2020年に認めており、遠隔からでも手続きが可能な環境が整備されてきました。
以上がエジプト法人設立の標準的なフローです。 近年の改革で手続き日数は短縮傾向にあり、ワンストップ制度により必要書類さえ整っていれば数日〜数週間で設立が完了するケースもあります。 世界銀行のビジネス環境報告(かつての「Doing Business」)によれば、エジプトでの新規事業開始に要する日数はOECD平均より多少長いものの、手続きの電子化により改善がみられるとの指摘があります。
特に2023年導入のワンストップショップにより、ライセンス・許認可取得のプロセスが簡素化された点は投資家にとって大きなメリットです。 実務上は、言語(アラビア語)や現地商習慣への対応が必要なため、信頼できる現地の法律事務所や行政書士サービスを利用し、日本から遠隔で設立手続きを進めることも一般的です。 2025年時点の情報をこまめにアップデートしながら手続きを進めることをお勧めします。
日本人投資家が利用できる優遇策:税制・投資誘致制度を徹底解説
エジプトで法人を設立・運営するにあたり、外国投資家が活用できる税制上・制度上の優遇策が多数用意されています。 ここでは2025年最新の情報に基づき、日本人投資家にも関係する主な優遇措置を整理します。 これらを十分に理解し活用することで、現地での税負担を軽減し、有利な条件で事業を展開することが可能です。
法人税率とフリーゾーン優遇
エジプトの法人税率は、通常の事業会社の場合一律22.5%に設定されています。 ただし石油・天然ガスの探鉱・生産事業会社には特別に40.55%の税率が適用されます。
一方、エジプトには「フリーゾーン(自由区)」と呼ばれる特別区域があり、そこに設立した企業には法人税が課されない大幅な優遇があります。 フリーゾーン企業は法人税の代わりに、売上高に対して1〜2%の低率課税(フリーゾーン課税)のみ負担すればよいとされています。 つまり実効税率を極めて低く抑えられるのです。
フリーゾーンは輸出型産業の誘致を目的とした区域で、製造業や物流拠点などが多く進出しています。 エジプト全国に9箇所(カイロ近郊ナスルシティ、スエズ、ポートサイド、アレクサンドリア他)の公設フリーゾーンがあり、さらに個別プロジェクト向けのプライベート・フリーゾーンも認められています。
不動産投資分野では、例えば工業団地の開発事業など輸出収入を伴うものであればフリーゾーン適用が検討できます。 ただしフリーゾーン企業は原則としてエジプト国内市場向けの営業は認められず(国内販売には関税課税などが発生)、主に輸出・再輸出に従事する必要がある点に留意が必要です。
新投資法に基づく税控除インセンティブ
エジプト政府は2017年施行の新投資法(Law No.72/2017)において、一定の条件を満たす新規投資プロジェクトに対し特別優遇措置(Special Incentives)を導入しています。 これは地域や業種に応じて、将来発生する利益に対する税額控除を認めるもので、いわば期間限定の税減免措置です。
具体的には、投資プロジェクト開始から7年間にわたり、課税対象となる純利益から以下の割合を税額控除できます。
- セクターA(指定された経済特区や開発地域)への投資プロジェクト: 投資コストの50%を控除
- セクターB(上記以外の地域で一定業種のプロジェクト)への投資: 投資コストの30%を控除
この税控除措置を受けるためには、新会社を設立して帳簿を整備することなど一定の要件がありますが、認可されれば7年間という長期にわたり大幅な減税メリットを享受できます。 例えば、日本の不動産デベロッパーがカイロ郊外の開発地区で住宅開発プロジェクト会社を新設し、建設機械や資材に100億円投資した場合、50億円(50%)または30億円(30%)相当をその後の利益から控除できるイメージです。 初期投資が大きいインフラ・不動産案件等にとって非常に魅力的で、投資回収を早める効果があります。
共通優遇措置(スタンプ税・関税の免除)
新投資法では特別優遇措置のほかに、すべての投資プロジェクトに適用される共通優遇措置(General Incentives)も定められています。 主な内容は以下のとおりです。
- 設立関連の手数料免除: 会社設立日から5年間、会社の定款や融資契約、担保設定契約、および会社設立に必要な土地売買契約に係る印紙税・公証人手数料・登記料が免除されます。通常これら契約書には契約額に応じた印紙税が課されますが、新規投資企業には負担させない措置です。
- 機械設備の輸入関税軽減: 会社設立に必要な資本財(機械設備・装置)の輸入関税率が一律2%に軽減されます(通常関税率より大幅に低い優遇税率)。例えば建設機械や工場設備を海外から輸入する際、本来なら関税や付加価値税が高額になりますが、対象プロジェクトなら2%の関税のみで済みます。
これらは全業種共通の恩恵であり、新事業立ち上げコストを削減できる措置です。 日本人投資家にとっても、初期費用の負担減は投資判断にプラスに働くでしょう。 特に不動産開発で大型機材を持ち込む場合など、この関税軽減は見逃せません。
追加優遇措置とゴールデンライセンス制度
さらに、新投資法には閣僚評議会の承認により個別に付与される追加優遇措置(Additional Incentives)も規定されています。 これは特別優遇措置を受けるプロジェクトを対象に、専用の税関レーンの設置や拡張投資・研修費用の政府補助など、プロジェクト固有のメリットを与えるものです。 大規模案件ではこうした追加措置が投資決定の後押しとなる場合もあります。
エジプト政府は近年、国家的に重要な投資プロジェクトに対して「ゴールデンライセンス」と呼ばれる包括許認可を付与する制度を打ち出しました。 これは内閣が認定する戦略プロジェクトに対し、各種許認可取得を一括処理し、政府が集中的に支援するものです。 通常、用地取得や環境許可、建設許可など多くの手続きを個別に経る必要がありますが、ゴールデンライセンスを取得すればワンストップで手続きが進むメリットがあります。
例えば大規模な工業団地開発やインフラ事業が該当し、日本企業では大塚製薬のエジプト子会社が2025年にこのライセンスを取得しています。 ゴールデンライセンスは投資誘致の目玉策であり、要件を満たす野心的なプロジェクトには大きなメリットとなります。 もっとも、中小の不動産案件など一般の事業には直接関係しない場合も多いでしょう。
外国人向け不動産販売国家戦略
2025年3月24日、エジプト政府は「外国人への不動産販売を通じて、年間100〜150億ドルの外貨を獲得する」方針を正式に発表しました。 この取り組みは、通貨不足とインフレに直面するエジプト経済を支える国家戦略の一環として位置づけられています。
この戦略の背景には、中東の成功例であるドバイの存在があります。 ドバイでは2024年、不動産販売額が180億ドル、外国人への販売額(不動産輸出)は450億ドルを超えました。 エジプト政府もこれにならい、今後数年で国際水準の制度改革と市場整備を進める意向です。
現在のエジプト不動産市場には、物件の完成率の低さ、契約の透明性不足、登記・所有権移転の複雑さ、市場データの不足などの課題があります。 これに対処するため、政府は中央規制機関の創設、契約の国際標準化、完成済み物件の供給強化、購入条件の明確化などの改革を検討しています。 特に外国人購入には最低価格30万ドル以上と外貨建て支払いを義務付けるなど、安全かつ健全な取引を重視する方針です。
この政策は、日本人投資家にとって新たなチャンスとなる可能性があります。 比較的安価な価格帯で広い物件を購入できる点や、政府が制度整備を進めている点がポジティブ要素として挙げられます。 一方で、現時点では法制度が十分に整っていないため、信頼できる仲介業者の存在が不可欠である点には注意が必要です。
二国間協定による保護・優遇
エジプトは外国投資家の保護や二重課税回避のため、多くの国と条約を締結しています。 日本とも日・エジプト租税条約(1977年発効、2010年改正議定書)を結んでおり、配当金や利子・使用料等に対する源泉税の軽減措置があります。 例えば、日本の親会社がエジプト子会社から受け取る配当には現地源泉税(通常10%)が課されますが、条約適用により税率軽減や外国税額控除が可能です。
また、日本とエジプトの間では投資保護協定も締結されており、投資財産の収用禁止や紛争解決手続き(ICSID仲裁への付託)が規定されています。 万一エジプト国内で政治リスクに直面した場合でも、こうした条約に基づく保護が期待できます。 さらにエジプトは多国間投資保証機関(MIGA)やイスラム開発銀行グループの保証機関などとも連携しており、投資保険の利用も可能です。
以上、エジプトには税制上の優遇から行政手続きの簡素化策、国際協定まで、さまざまな投資誘致制度が整備されています。 日本人投資家としては、進出検討時にJETROやエジプト投資・フリーゾーン庁の公開情報を調査し、自社プロジェクトが享受できる優遇策を洗い出すことが重要です。 例えば、「製造業であれば特別優遇措置の対象になるか」「この不動産プロジェクトはセクターB事業に該当するか」「フリーゾーンへの入居メリットはあるか」「租税条約の適用で配当課税はどうなるか」といった点を事前に検討します。
2025年最新の政策としては上述のワンストップ化や投資最高評議会による制度改善、外国人向け不動産販売戦略が進んでおり、新たなインセンティブが生まれる可能性もあります。 現地専門家の助言を仰ぎつつ、使える優遇策は最大限に活用していきましょう。
エジプト主要優遇策一覧表
優遇策名称 | 適用条件 | 税率・期間 | メリットの概要 |
---|---|---|---|
フリーゾーン優遇 | 輸出型産業や再輸出関連事業をフリーゾーン内で行う場合 | 売上高の 1〜2% (法人税免除) | 法人税が課されず、 大幅な税負担軽減 |
特別優遇措置 (50% or 30%控除) | 指定された地域・業種の新規投資プロジェクト かつ一定の投資額を満たす場合 | 投資開始から 最大 7 年間 | 投資コストの 50% あるいは 30% を法人税額から控除 |
スタンプ税・ 関税免除制度 | 新投資法 (Law No.72/2017) が適用される全投資プロジェクト | 設立後 5 年間 (スタンプ税免除) | 会社設立時の印紙税・公証人手数料が免除 機械設備の関税を 2% に軽減 |
ゴールデンライセンス | 国家的に重要な戦略プロジェクト 内閣の認定が必要 | 取得後 プロジェクト期間内 | 用地取得や環境・建設許可などを一括処理 政府の集中的支援を受けられる |
設立時に押さえるべき実務ポイント:資本金・送金ルール・監査体制
エジプトで法人を設立し運営する際には、日本との制度違いや実務上の注意点を踏まえておく必要があります。 特に資本金の扱い、送金(外貨)ルール、会計監査体制の3つは重要な論点です。 ここでは設立時に押さえておくべき実務ポイントを具体的に解説します。
資本金:要件と活用法
前述のとおり、エジプトでは会社形態によって最低資本金要件が異なります(株式会社25万ポンド、有限責任会社は規定なし、単独株主会社1000ポンド等)。 そのため、設立時にいくら資本金を払い込むかは事業計画と形態に応じて決めることになります。
注意すべきは、資本金額が人事・労務面にも影響する点です。 エジプトの会社法では、会社の資本金額に応じて雇用できる外国人管理職の人数上限が規定されています。 一般に資本金が大きいほど外国人スタッフ(エクスパッツ)を多く採用でき、逆に小規模資本の会社は外国人比率に制限がかかります。 このため、日本人駐在員を多く送り込む予定がある場合は、資本金を一定額以上に設定することが望ましいでしょう。 例えば資本金10万ポンド未満の会社では外国人マネージャーは2名まで、といった具合です(具体的な数値は法令による規定を参照)。
また、エジプトでは資本金額が25万ポンド以上になると前述のように従業員への利益配分義務が生じますが、逆に言えば25万ポンド未満で設立すれば当面は利益配分を気にせず内部留保を厚くできる利点もあります。 したがって、中小規模でスタートする場合は敢えて資本金を低めに設定し、成長に応じ増資する戦略も考えられます。
一方、不動産取得のための会社では、物件購入代金を資本金(または資本準備金)として計上し、その資金で土地建物を取得する方法が一般的です。 将来的に海外への配当送金を考えるなら、出資金として入れた額は元本送金として自由に返済・送金できますので、資本金と借入金のバランスも戦略的に決めることが大切です。
送金ルール:外貨持込と利益還元
外国投資家にとって最も気になるのが、投下資金や利益を円滑に本国へ送金できるかという点です。 エジプトは以前は外貨不足から企業の利益送金が滞る問題が指摘されていましたが、2017年の通貨改革以降、外為環境は改善傾向にあります。 新投資法72号でも「外国からの資金は無制限かつ自由に外国通貨で持ち込み可能」であり、「海外への送金も自由かつ遅滞なく行うことができる」と明記されています。
さらに同法に基づくプロジェクトで働く外国人もその報酬を自由に本国送金できると保障されています。 要するに法制上は資本・利益の本国送金の自由が約束されています。
ただし実務的には、エジプトポンドを外貨(米ドル等)に交換して実際に送金する段階で時間を要するケースがある点に注意が必要です。 近年、エジプトは慢性的なドル不足に陥り、2022~2023年には企業が利益をドル転・送金するのに数ヶ月待たされる例も報告されています。 エジプト中銀は対策として、外国企業向けに証券取引経由の資金ルートを確保するなどの措置を講じていますが、為替市場の状況によっては送金遅延リスクを織り込む必要があります。
日本人投資家は、エジプトからの資金エクジットに関して、以下のポイントを留意してください。
- 外貨建て口座の活用: 現地銀行に外貨(USDやEUR)建ての口座を開設し、できるだけ現地通貨ではなく外貨で資金を保有することで、為替交換のタイミングを分散できます。
- 送金計画の前倒し: 配当金や売却益の送金が必要な場合、直前ではなく時間に余裕をもって申請し、複数回に分けて送るなどリスク分散を図ります。
- 現地再投資の検討: 直ちに本国送金せず、エジプト国内で再投資(例えば追加の不動産取得や増資)することで、為替状況が好転するまで内部留保する戦略も有効です。
また、為替レート変動も大きなリスクです。 エジプトポンドは2022年以降急激な切り下げがあり、対米ドルで半分以下の価値になるなど変動しました。 したがって円貨ベースで見た投資リターンが目減りしないよう、為替ヘッジの手段(フォワード契約等)が利用できる場合は検討しましょう。
幸いエジプトではIMF支援の下で為替の弾力性向上が図られており、将来的には安定が期待されていますが、「送金の自由は法律で保障されているが、現実のタイミングと為替には十分注意」というのが教訓です。
会計・監査体制:コンプライアンスの確保
エジプトで法人を設立すると、日本企業の海外子会社として現地会計・監査に対応する必要があります。 エジプトの会計年度は任意に設定できますが、多くは暦年(1月~12月)もしくは7月~6月の年度を採用します。 年度終了後、各企業は4ヶ月以内に法人税の確定申告を行う必要があります。 例えば12月決算なら翌年4月末までに申告書提出が期限です。 この申告には公認会計士(監査人)が作成または監査した財務諸表が必要となります。
エジプト会社法では、一定の規模以上の企業は公認会計士による年次監査を受ける義務があります。 特に株式会社は必須で、有限責任会社でも株主や当局の要求により監査を実施するのが一般的です。 設立時に提出する書類にも「監査人に関する資料」を含める必要があり、最初から監査人(会計士)を選任しておくことが求められます。 現地で信頼できる会計事務所と契約し、帳簿の記帳や月次・年次決算のサポートを受ける体制を整えましょう。
エジプト会計基準は国際会計基準(IFRS)にかなり近い内容ですが、税法上の減価償却ルールなど細部でローカルルールがあります。 例えば不動産の減価償却は建物で年5%定率などの定めがあるため、日本基準との差異を調整する必要があります。 また、エジプトの税務当局による税務調査も3~5年に一度の頻度で行われますので、領収書の保管や正確な申告が重要です。
コンプライアンス面でもう一点重要なのが、対外直接投資の報告義務です。 エジプト政府は統計把握と資本規制のため、2020年首相令第2731号により、全ての企業に対し海外からの出資に関する報告を義務付けました。
具体的には、四半期ごとの外国投資受入額の報告書および年次報告書を提出し、資本金や株主構成、取締役に変更があった場合も随時報告する必要があります。 未報告や遅延に対しては5万エジプトポンドの罰金が科される可能性があります。 このため、設立後はGAFIや中銀が定めるフォーマットに従って適時に報告を行いましょう。 実務上は監査人や顧問弁護士が代行してくれる場合もありますが、自社でも提出状況を把握しておくことが肝要です。
最後に、エジプト法人では取締役会や株主総会の議事録作成・保管も法律上の義務です。 総会は年1回開催(書面またはオンライン開催可)し、配当決定や役員選任など重要事項を承認します。 議事録は将来当局から求められることもあるので、正確に作成し、公証人認証が必要な場合は取得しておきます。
また商業登記情報(会社の定款事項)に変更があれば、変更登記も怠らないようにします。 例えば本店住所や取締役の交代、増資・減資などは所定の手続きを経て登記変更しなければなりません。 これら手続きを確実に行うことで、現地法人のガバナンスと信用を維持できます。
以上、資本金の設定から送金実務、会計監査・報告義務まで、設立時に押さえるべきポイントを述べました。 日本本社と現地法人で情報を共有し、現地専門家のサポートも受けながら、エジプトの法令遵守と健全経営を図ることが重要です。 特に外為規制と税務コンプライアンスは投資収益に直結しますので、最新情報をアップデートし続けましょう。