【完全版】日本人向け エジプトの不動産購入マニュアル:手順&注意点を徹底解説

目次

エジプト不動産市場の基礎知識:主要エリアと物件タイプ

エジプトの不動産市場は国土の特性と人口動態に強く影響されています。国土面積は日本の約2.7倍ですが、その大半(95%)が砂漠で居住可能地域が限られています。その結果、人口の多くは首都カイロ周辺など特定エリアに集中し、不動産需要も主要都市圏に偏っています。まずは外国人投資家に人気の主要エリアと代表的な物件タイプを紹介します。

指標数値(目安)備考
人口(2023年時点)約1億1000万人超若年層多く、労働力人口が増加傾向
GDP成長率約5%(近年)政府の改革・投資誘致により安定成長
1人当たりGDP約3,800USD地域差大きい、都市圏と地方で格差あり
物価上昇率(概算)10%~30%程度燃料・食料価格変動の影響を受けやすい

カイロ首都圏(大カイロ)

エジプト最大の都市圏で、政治・経済の中心地です。超高密度の都心部(旧市街やナイル川中洲のザマレク地区など)から、新興高級住宅地まで多彩なエリアがあります。富裕層向けのニューカイロはカイロ東部に造成された計画都市で、高級ヴィラやマンションが立ち並び、不動産需要が非常に旺盛です。

またカイロ西部の6thオクトバー市やシェイク・ザイード市もゲーテッドコミュニティ(塀や門で囲まれた住宅開発地)形式の住宅地が多く、治安やインフラが整っています。カイロ圏の物件タイプは、市内中心部の中古アパートメント(集合住宅)から郊外の新築ヴィラ(一戸建て)まで様々ですが、投資目的であれば賃貸需要の高い都心のマンションや、将来的な値上がりが見込める郊外の開発地区が人気です。

新首都(ニューキャピタル)

カイロ東方約45kmに位置する建設中の巨大都市で、政府機能の移転先として開発が進められています。ニューキャピタルは行政・金融の新中心地となる計画で、大規模プロジェクトが進行中です。政府は外国人からの投資誘致を重視し、この地域では規制緩和により海外投資家も不動産取得がしやすくなっています。

多くの商業施設や人口流入が見込まれ、地価・不動産価格の上昇が期待されるホットスポットです。物件タイプは大規模複合開発の高層マンションやサービスアパート、商業用オフィスなど幅広く、オフプラン(建設前販売)の投資案件も豊富で、早期に購入して開発とともに大きなキャピタルゲインを狙う投資家もいます。

最新情報(2025年4月現在): 新首都の第一期開発がほぼ完了し、複数の政府機関が既に移転を完了しました。中央ビジネス地区(CBD)の高層ビル群も大部分が完成し、国内外の企業が入居を開始しています。2024年に開業した新国際空港により、アクセス性も大幅に向上しています。初期移転が進んだことで実需が確認され、価格上昇率は年率15%前後で安定しています。

アレクサンドリア

地中海沿岸の第2の都市で古くからの港湾都市です。人口約520万人を抱え、都市再開発も進行中です。カイロほど外国人投資は盛んではありませんが、地中海沿いのリゾート物件や歴史地区の建物再生プロジェクトなど、一部に投資機会があります。物件は中古のフラットやシービューのマンションが中心です。

紅海・シナイ半島のリゾート

外国人が関心を持つエリアとして、紅海沿岸のフルガダ(Hurghada)やシャルム・エル・シェイク(Sharm El Sheikh)などのリゾート都市が挙げられます。美しい海岸と欧州からの観光客需要で保養用コンドミニアムや別荘が人気です。

ただし注意すべきはシナイ半島(シャルム等)における外国人の不動産所有制限です。安全保障上の政策により、外国人はシナイ半島で土地を直接所有することはできず、最長99年間のリース(使用権)のみ認められています。例えばシャルムでは、政府当局の許可を得て99年リース契約を結ぶ形で別荘などを取得します。このように地域によって取得形態が異なる点も事前に把握しておきましょう。

その他新興エリア

エジプト北岸の「ニューアラメイン(New Alamein)」や、新たな経済特区・観光開発地域も注目です。ニューアラメインは地中海沿いに計画された近未来都市で、高級リゾートホテルや住宅が建設中です。またスエズ運河経済圏や工業都市でも不動産需要が期待されています。ただ、これらの地域は開発の実績が未知数なため、上級者向けと言えます。

最新情報(2025年4月現在): ニューアラメインは夏期リゾート需要が順調に推移し、年間を通した定住人口も増加傾向にあります。また「エルアラメイン国際空港」の運用開始により、国際的なアクセシビリティが向上し、外国人投資家の関心も高まっています。不動産価格は過去3年間で約30%上昇しており、リゾート開発の成功事例として注目されています。

物件タイプとしては、大別すると以下があります。

中古物件(現物不動産)

既存のマンションや一戸建て等を売買するもの。現物を直接確認でき、賃貸運用をすぐ開始できる利点があります。ただしエジプトでは古い物件だと権利関係が複雑だったり、建物管理状態にばらつきがあるため、購入前に徹底調査が必要です。

新築・オフプラン物件

デベロッパーが新規開発するプロジェクトを購入するもの。建設中または計画段階で購入契約を結ぶケース(オフプラン)が多く、少額の頭金と分割払いで投資可能という特徴があります。建設が進むにつれて価格が上昇する傾向があり、短期の価格上昇益(キャピタルゲイン)を狙えます。反面、開発遅延リスクやデベロッパー倒産リスクもあるため、後述の注意点を踏まえて慎重に検討しましょう。

商業用物件

オフィスビル、商業施設、店舗用不動産などもあります。一般投資家にはハードルが高いものの、現地で事業展開を考える企業オーナーなら検討対象です。エジプトでは外国企業が事業目的で必要な不動産(土地や建物)を所有することも法律上認められています。

以上がエジプト不動産市場の概観です。主要エリアは首都圏と新都市を中心に広がっており、物件タイプも住宅系を中心にバリエーションがあります。続いて、実際の購入プロセスの各段階とその進め方を詳しく見ていきましょう。

不動産購入手順①:物件探しと現地調査の進め方

エジプトで理想の物件を見つけるには、日本国内の物件探し以上に入念な情報収集と現地確認が求められます。物件探しのステップを適切に踏むことで、後々のトラブルを大幅に回避できます。ここでは、物件探しの方法と現地での調査(デューデリジェンス)のポイントを解説します。

オンライン検索
仲介業者リサーチ
現地訪問
デューデリジェンス
購入判断

情報収集と物件リサーチ

まず投資目的(賃貸収入狙いか、値上がり益狙いか、自らの利用か)と予算を明確にし、それに合致する地域・物件の条件をリストアップします。エジプトでは近年インターネット上の不動産プラットフォームが充実しつつあります。従来は小規模仲介業者やオーナーを一軒一軒訪ね歩く必要がありましたが、現在ではオンラインで多数の物件情報を閲覧し、直接売主に連絡できる仕組みが整いつつあります。

例えばエジプト国内の有名な不動産検索サイト(AqarmapやProperty Finderなど)を活用すれば、地域・価格帯・物件タイプで絞り込んで効率的に候補を探せます。ただし掲載情報の信頼性は玉石混交のため、気になる物件が見つかったら詳細資料の入手や直接問い合わせを行いましょう。

最新情報(2025年4月現在): 近年はSakneen、Nawy、Rexプラットフォームなどの新興ポータルサイトも成長し、AI機能を活用した物件検索や360°バーチャルツアーなどのサービスが拡充されています。また、日本語対応したプロフェッショナルなバイヤーズエージェント(購入代行サービス)も登場し、現地に渡航できない投資家にとってのハードルが下がっています。

現地専門家への相談

オンライン検索に加え、信頼できる現地の不動産仲介業者(リアルター)に希望条件を伝えて探してもらう方法も有効です。日本人コミュニティやJETROの現地事務所などから評判の良い仲介業者を紹介してもらうと安心です。また投資用不動産に強いコンサルタント会社を利用する手もあります。複数の情報源を活用することで、相場観を養うとともに有望な未公開物件の情報を得られる可能性も高まります。

現地訪問と内見(インスペクション)

候補物件が絞れたら、必ず現地を自分の目で確認することを強くお勧めします。エジプト国外からオンラインだけで購入手続を進めることも不可能ではありませんが、現地視察なしでは把握できない情報が多いためです。現地調査では以下の点をチェックしましょう。

物件の現況

部屋の間取りや日当たり、共有施設の状況、建物の品質(設備や内装の劣化具合)などを確認します。可能であれば専門家に依頼して建物検査(インスペクション)を実施し、大規模修繕の必要がないか調べると安心です。

法的ステータス

売主が提示する権利書類を確認します。エジプトでは「契約書の公証(登記)」が所有権主張に重要です。物件によっては正式な登記が未完了の場合もあるため、弁護士等に依頼して登記簿(Land Registry)で権利関係を調査してもらいます。前所有者の名義や抵当権・差押えなどの有無、物件に関する条件や制限がないかを事前に把握してください。

周辺環境

現地を訪れることで街の雰囲気やインフラ整備状況、交通アクセス、近隣の商業施設・医療機関・学校など生活環境を肌で感じ取れます。特に賃貸運用を考えるなら、借り手に好まれる立地条件かどうか(職場への通勤利便性や治安など)を確認します。

開発計画

周囲で進行中または計画中の開発プロジェクトも調査しましょう。今後の大型開発により値上がりが期待できるエリアか、逆に競合が増えて需給バランスが崩れる懸念がないか評価します。例えばニューキャピタル周辺では多数のプロジェクトが林立しているため、どの区域がより優位か見極めることが重要です。

現地調査の際には信頼できる通訳や現地パートナーが同行すると心強いです。公用語はアラビア語ですが都市部では英語も通じる場合があります。交渉や契約段階を見据えて、ここで現地の弁護士や仲介業者とも直接顔合わせして信頼関係を築いておくと良いでしょう。

デューデリジェンスの徹底

投資判断前にデューデリジェンス(詳細査定)を行います。具体的には、当該物件の市場価格妥当性を類似物件の取引事例や賃料相場から分析します。また年間の維持コスト(管理費や固定資産税)、想定利回り、将来の売却時にかかる税金などファイナンス面も試算しておきます。エジプトの固定資産税は評価賃料に対し約10%(一定額控除後)という仕組みで、総じて日本に比べれば負担は軽い水準です。

また不動産売買益への課税は一律2.5%と低く抑えられています。こうした制度面も踏まえ、投資シナリオごとにリスクと収益のバランスを検討しましょう。

最新情報(2025年4月現在): 2024年の税制改革により、固定資産税の評価基準が変更され、一部の高級物件では税負担が増加しています。具体的には、40,000EGP/年以上の賃料相当評価額を持つ物件については、基礎控除の縮小と超過累進税率(最大15%)の適用が始まっています。一方で、中低価格帯の物件については従来通りの税率が維持されています。この変更は特に高級住宅地区やリゾート物件の投資判断に影響するため、最新の税制を確認することが重要です。

以上が物件探しと現地調査の流れです。「百聞は一見に如かず」で、現地で得られる情報量は多大です。物件選定の段階で焦らず時間をかけることが、その後の手順すべての成功確率を高める鍵となります。

不動産購入手順②:仲介業者・弁護士の選定と契約時の注意点

エジプトで不動産を購入する際、優秀な仲介業者(リアルター)と弁護士のサポートは不可欠です。ここでは、これら専門家の選び方と、売買契約時に押さえるべき注意事項を解説します。

仲介業者の選定

エジプトには大小さまざまな不動産仲介会社があります。良質な物件情報を得たり、売主との交渉をスムーズに行うには、信頼できる仲介業者をパートナーにすることが重要です。選定時のポイントは以下のとおりです。

実績と評判

外国人投資家の取引実績が豊富で、評判の良いエージェントを選びます。日本人コミュニティでの口コミや、JETROの現地ネットワークからの紹介情報が参考になります。

ライセンス

正式な不動産仲介業の免許を持っていることを確認します。エジプトでも仲介手数料は最大5%までなど規定があり、信頼できる業者ほど契約や手数料条件を公正に開示します。

コミュニケーション

担当者が英語でしっかりコミュニケーションできるかは重要です(可能なら日本語対応スタッフがいるのが理想ですが、稀です)。意思疎通に不安がある場合は通訳を介したり、メールで記録を残すなど工夫しましょう。

手数料の取り決め

一般にエジプトでは売買仲介手数料は2〜3%程度で、売主が負担する慣行が多いようです。とはいえ契約前に「誰が何%支払うか」を明確に合意し、書面化しておきます。悪質な業者は買主にも二重に手数料を請求する恐れがあるため注意が必要です。

仲介業者は物件の紹介から価格交渉、契約手続きの調整までサポートします。しかしあくまで売買の当事者ではないため、最終的な判断や責任は投資家自身にあることを念頭に置きましょう。

弁護士の選定

次に、現地の不動産法務に詳しい弁護士を雇います。外国人がエジプトで不動産を購入する場合、弁護士の関与なしで進めるのは極めて危険です。適切な弁護士選びのポイントは以下です。

不動産取引の専門性

エジプトの不動産法や登記実務に通じ、過去に外国人購入者を担当した経験がある弁護士を選びます。複雑な登記手続きや許認可(必要に応じて国防省の許可取得等)にも対応できる専門家が望ましいです。

独立性

仲介業者や売主から紹介された弁護士は避け、自分で独立した弁護士を探す方が無難です。利害関係がない弁護士であれば、買主の利益を最優先に契約内容をチェックしてくれます。紹介の場合も、複数候補から面談して信頼できる人物か見極めましょう。

言語対応

英語でのコミュニケーションが可能か確認します。契約書や法律文書はアラビア語が正式ですが、英語で内容を説明できる弁護士であれば安心です。日本語対応は極めて少ないため、重要事項は日本語翻訳してもらうか、日本人コンサルタントと連携して理解を深めます。

費用

弁護士費用の見積もりを事前に取り、何にいくらかかるのか透明性を確保します。通常、物件価格の1〜2%程度が報酬相場ですが、業務範囲(権利調査、契約書ドラフト、登記代行など)に応じて調整されます。高額な買い物だけに安かろう悪かろうでは困りますが、過度な高額請求にも注意しましょう。

適任の弁護士が見つかったら、契約前の段階から関与してもらいます。物件の権利調査結果のレビュー、契約条件の交渉支援、手付金支払いのエスクロー管理など、守備範囲は広範です。とりわけ外国人購入者にとって不利な契約条項がないかを精査してもらうことが重要です。

最新情報(2025年4月現在)

エジプトの大手法律事務所では外国人投資家向けの専門部門を設置するところが増え、英語に加えて中国語・日本語などアジア言語にも対応するケースが出てきています。また、デジタル契約書と電子署名の法的有効性が2024年の法改正で強化され、遠隔地からの契約締結もよりスムーズになりました。購入手続きの一部をオンラインで完結できる環境が整いつつありますが、重要書類の確認や最終決済には依然として現地訪問が推奨されています。

売買契約時のチェックポイント

物件と相手(売主)が決まり、価格交渉もまとまったら、いよいよ売買契約(Sale and Purchase Agreement)の締結です。契約書を作成する段階で以下の点に注意してください。

契約言語と法的有効性

契約書は通常アラビア語で作成され、公証(Notary)されます。ただし買主が内容を理解できるよう、英語または日本語の対訳を付けたバイリンガル契約書にしてもらうのが望ましいです。エジプトではアラビア語以外の契約は登記時に法的効力が不十分な可能性があるため、正式版はアラビア語でも、自身が署名する以上内容を完全に把握する必要があります。理解できない契約書には絶対に署名しないでください。

物件の特定と権利保証

契約書には物件の所在地、登記簿上の地番・面積、付帯設備や権利範囲(土地の利用権を含むかなど)を正確に記載します。売主は当該不動産の合法的な所有者であり、第三者権利が存在しないことを保証する条項を入れます。万一、契約後に隠れた瑕疵や権利トラブルが発覚した場合の保証責任も明記させましょう。

代金支払い条件

売買代金と支払いスケジュールを定めます。既存物件の一括購入の場合、契約時に手付金(通常価格の5〜10%程度)を支払い、残金は一定期間内(例:契約後30日以内)に決済するといった形です。オフプラン物件では引渡しまで分割払いが一般的で、工事進捗や時間経過に合わせて複数回の支払いが発生します。

重要なのは全額前払いを避けることです。未完成物件では必ず引渡し時まで一部代金を留保し、完成保証のプレッシャーをかけるようにします。支払い通貨は原則エジプト・ポンド(EGP)ですが、実務上は米ドルでの送金→現地でEGP転換というケースもあります(詳細は後述の送金プロセス参照)。

条件付き条項(Contingencies)

契約書に特約を入れることも検討します。例えば、買主によるローン審査が通らない場合の契約解除(もっとも、エジプトでは外国人向け住宅ローンは普及していないため現金決済が主流です)、登記不可の場合の解除、物件引渡し前の重大な損壊発生時の取り扱いなど、不測の事態への取り決めを明文化しておきます。

ペナルティと違約

買主・売主いずれかが契約に違反した場合の取り決めも重要です。例えば買主が期限までに残金を支払わなければ手付金没収、売主が契約を破った場合は手付金の倍額を償還(違約金)する、といった手付金流用の約定を入れることも考えられます。またオフプラン契約なら、デベロッパーの工期遅延に対する遅延賠償金や、一定期間を過ぎたら買主が無条件解約できる条項なども検討します。

引渡しと占有

決済完了後の物件引渡し方法を定めます。既存物件の場合、残金支払いと同時に物件の鍵や所有権証書を受け取り占有権を移転させます。賃貸中物件なら賃借人の契約も引き継ぐことになるため、その条件を書面で確認し添付します。新築物件の場合は完成時に行う設備検収の手続や、内装仕様が契約通りか確認するプロセスも取り決めておきます。

契約書は細部まで弁護士とともに詰め、納得した上で署名します。不明点や不利な条項が残ったまま署名してしまうと、後で法的に争うのは困難です。**現地の契約実務に不慣れな日本人ほど、慎重すぎるくらいで丁度良い**と言えます。

契約時の留意点

実務上、契約締結は売主・買主・双方代理人(仲介業者や弁護士)が集まり行われます。署名時にはパスポートなど本人確認書類や契約物件の書類一式が必要です。その場で手付金支払いを行うケースもありますが、できれば弁護士を通じたエスクロー(一時預かり)にして、登記申請と同時に支払う形が安全です。

また署名後には速やかに契約書を公証人役場で認証手続きを行い、法的に強固なものとします。公証を経て初めて契約が第三者に対抗可能となり、法的効力を持つ点を忘れないでください。

不動産購入手順③:売買契約から決済までの流れ

契約書に署名し公証を終えたら、いよいよ決済(クロージング)に向けた最終段階です。ここでは売買契約成立後から物件引渡し・名義移転完了までの一連の流れを説明します。

1. 手付金支払いと公証完了

契約締結時に取り決めた手付金(デポジット)を支払います。すでに支払い済みの場合は領収証を確認します。公証人役場で契約書が正式に認証されると、契約内容が法的に有効となり第三者にも主張可能な権利となります。この公証済み契約書は非常に重要な書類なので大切に保管してください。

2. 決済準備期間

契約から最終決済まで、通常数週間から1〜2か月程度の準備期間があります(契約内容による)。買主側では残代金の送金準備を進め、売主側では必要書類の用意や物件明け渡しの準備を行います。この間、弁護士は再度登記簿の最終チェックを行い、新たな差押えや権利変動が発生していないことを確認します。

また売主に固定資産税や光熱費の滞納がないか証明する書類を提出してもらいましょう。売主の側でも、外国人である買主が合法的に購入資格を有すること(エジプトの外国人不動産取得規制に抵触しないこと)を確認します。通常2件までの物件なら問題ありませんが、それ以上購入済みの場合は特別な許可が必要になります(後述)。

3. 残代金の支払い(クロージング)

約定の日までに買主は残りの購入代金を用意します。一般的にはエジプト現地の銀行で預金小切手(キャッシャーズチェック)を発行し、それを売主に手交する形で支払います。

日本から直接送金する場合は、事前にエジプトの自分名義口座へ資金を移しておき、当日は銀行振込で売主口座へ送金確認する方法もあります。金額が大きいため、現金手渡しは絶対に避け、銀行経路を利用した記録の残る支払いを徹底してください。支払いと同時に、売主から物件の鍵や関連書類(物件の権利証や公証済契約書の原本など)を受け取ります。

4. 所有権移転の登記申請

残金決済が完了したら、弁護士が買主代理として不動産登記の申請手続きを行います。具体的には、公証済みの売買契約書、売主・買主の身分証明(パスポート等)、既存の登記記録(権利証)、税金納付証明など必要書類一式を不動産登記所(Real Estate Public Authority)に提出します。登記官は書類を審査し、問題なければ買主名義への所有権移転登録を行います。

エジプトではこの最終登記によって公式に所有権が認められ、「グリーン契約」と呼ばれる緑色の権利証書が発行されます(紙の色に由来する通称)。登記申請から完了までの日数は地域や案件によりますが、政府が投資促進のため手続きを迅速化する方針を示しており、処理の遅れ解消に努めています。

5. 登記費用・税金の支払い

登記に伴い必要な税・手数料を納付します。主なものは不動産売買税(譲渡所得税に相当)で売却益の2.5%ですが、通常これは売主側の納税義務です。買主としては登記料や契約印紙税などが数万〜十数万円程度発生します。なお外国人が購入した不動産についても基本的にはエジプト人と同様の税制が適用されます。税負担は低めとはいえ、税務コンプライアンスのため弁護士と相談の上で確実に手続きを行ってください。

6. 物件引渡しとアフター対応

名義が正式に移転した後は、晴れて物件の引渡し完了です。新築物件ならデベロッパーとの間で最終立会検査を行い、不備がないか確認します。中古物件の場合は引渡し当日に物件の状態確認を再度行い、契約後に持ち出されてはいけない設備が残っているかチェックします。鍵を受け取り、水道・電気の名義変更や必要に応じて火災保険加入なども速やかに行いましょう。

さらに、賃貸運用する場合は管理会社と契約して賃貸募集を開始するか、自ら入居する場合は内装工事や家具搬入などの準備に移ります。

7. (参考)法人名義での取得

個人ではなく法人を設立して物件を取得した場合、上記手順に加えて法人設立登記や投資認可などが事前に必要です。ただしエジプトでは外資系企業でも事業運営上必要な不動産を所有する権利が認められているため、投資スキームによっては現地法人を活用して不動産を複数保有することも可能です。法人名義取得の場合は会社法や投資法の規定も関係するため、専門家に相談してください。

以上が契約から決済・引渡しに至る一連の流れです。重要なのは、支払いと所有権登記の完了をもって取引は完遂するという点です。決済日には多額の資金移動がありますので、弁護士・仲介業者と綿密に段取りを打ち合わせ、トラブルなくクロージングを迎えられるよう準備しましょう。

登記手続きと名義管理:エジプトで所有権を確保する方法

エジプトで不動産を取得したら、確実に所有権を確保するための適切な登記手続きと名義管理が不可欠です。他国と比べてもエジプトの不動産登記制度は独特で、過去には多くの不動産が未登記のまま取引されてきた経緯があります。しかし外国人投資家にとって登記を怠ることは大きなリスクです。ここでは、登記・名義に関するポイントを整理します。

公証と登記の違い

エジプトでは売買契約書を公証人により認証(公証)してもらうこと自体が、登記とほぼ同等の効力を持ちます。公証によって契約の存在が公的記録となり、第三者への対抗要件を備えるからです。ただし、それだけでは国の不動産登記簿に名義を書き換えたことにはならないケースもあります。

真の意味での登記(Registration)とは、不動産登記所で名義変更を登録し、正式な権利証(通称グリーン契約)を取得することです。外国人の場合、この最終登記まで完了させ、自分の名前が公簿に載るようにしてください。登記完了後5年間は転売できないというルールも、この正式登記を起点にカウントされます。逆に言えば、未登記のままでは法的に不安定な状態であり、トラブルの温床となりえます。

外国人所有に関する規制遵守

先述の通り、エジプトには外国人の不動産所有に関する制限が存在します。1996年法律第230号によれば、「外国人は4,000㎡以上の不動産を2物件を超えて所有できず、親族含め自ら居住する目的でのみ取得可能。また登記後5年間は処分(売却)できない」と規定されています。これは長年エジプトにおける外国人規制の基本でした。

しかし近年、この規制緩和の動きが進んでいます。政府は2023年5月、外国人による不動産所有を制限なく認める方針を発表し、同年7月には2件までの制限撤廃を含む法改正案が閣議承認されています。最終的な施行状況は最新情報を確認する必要がありますが、今後は外国人でも物件数無制限で所有できるようになる見込みです。ただし規制が残っている間は、2件を超える物件を購入・登記しないことが大前提です。

もし複数物件を取得したい場合、過去には家族名義を利用する迂回策が取られることもありました。例えば夫婦や子供の各名義で2件ずつ取得する、といった手法です。しかし名義を分散すると管理や将来的な相続で問題が生じる可能性があります。

また今後規制撤廃されれば不要なテクニックとなるため、現時点では無理に複数取得を急がず、規制緩和の状況を見守ることをおすすめします。どうしてもという場合は、前述のようにエジプト現地法人を設立して法人所有とする方法もありますが、初期コストや運用負荷を考慮して判断しましょう。

登記名義人の管理

物件の登記名義は購入者本人(個人)が原則ですが、日本と異なりエジプトでは共有名義の登記も可能です。夫婦で共同出資した場合などは、双方の名義で持分割合を定めて登記できます。ただし共有者間での後々の処分や相続を考えると、できるだけシンプルな名義構成が望ましいです。また、名義人情報(氏名スペルやパスポート番号等)に誤りがないよう、登記完了後に発行される証書を必ず確認しましょう。万一間違いがあれば早期に訂正手続きを取ります。

権利証書と保管

登記完了後に受け取る権利証(グリーン契約書)は、所有権の法的証拠ですので厳重に保管してください。デジタル化が進む昨今でも、紙の証書が原本として扱われます。盗難・紛失すると悪用されるリスクもゼロではないため、安全な場所に保管し、コピーを取って別途保管しておくと安心です。

将来の譲渡や相続への備え

名義管理に関連して留意すべきは、将来物件を売却する場合や所有者が亡くなった場合の扱いです。エジプトでは前述の通り登記後5年以内の売却は禁止ですが、首相許可を得れば例外的に可能ともされています。いずれにせよ短期転売は制約があるため、中長期保有を前提に計画を立てましょう。

相続に関しては、エジプトはイスラム法の影響で強制相続分の概念がありますが、外国人が国外にいる相続人に遺贈する場合などは事情が異なる可能性があります。投資物件が増えてきたら、日本の公証役場で英文併記の遺言書を作成し、エジプト資産の分配方法を明記しておくことも検討すべきです。万一の際に現地で予期せぬ法適用を避けるためにも、事前の法的手当ては上級者として怠らないようにしましょう。

継続的な名義管理

購入後は毎年の固定資産税の支払いや、賃貸運用しているなら確定申告(所得税申告)を現地で行う必要があります。不動産税当局から納税通知が届く際にも、正しい登記名義で登録されていれば確実にオーナーに通知が届きます。逆に未登記だと通知が前所有者宛てに行ってしまい、税滞納に気づかないリスクもあります。名義が適切に管理されていることは、そうした面でも重要なのです。

以上、エジプトで所有権を万全に確保するための登記・名義管理のポイントを述べました。正式登記の完了と規制順守、そして書類保管と将来への備え——この三点を押さえておけば、所有資産を安心して守り育てていくことができるでしょう。

資金計画と送金プロセス:日本からエジプトへの安全な資金移動

海外不動産投資では資金計画と送金方法も重要な検討事項です。特にエジプトは為替変動が大きい新興国市場であり、資金移動の手続きにも注意が必要です。ここでは、日本からエジプトへ安全かつ効率的に資金を送るプロセスと留意点を解説します。

資金計画と為替リスク管理

エジプト・ポンド(EGP)は過去数年間で大きく変動しており、2022年前後には経済改革や世界情勢の影響で大幅な通貨安が進みました。2023年にはインフレ率が30%を超え、EGPの対ドル価値も下落傾向が続いています。このように為替リスクが高いため、資金計画には為替変動シナリオを織り込んでおく必要があります。具体的には:

両替タイミングの工夫

購入資金をすぐ円からエジプトポンドに全額両替するのではなく、必要なタイミングで段階的に両替する方法を検討します。たとえば頭金や初回支払い分のみ先に両替し、残額は支払い直前に両替すれば、余分な為替損失を抑えられます。もっとも、為替が急回復する局面では先にまとめて換えておいた方が得なこともありえますので、動向を注視しましょう。

米ドル活用

米ドル建てで資金をプールする選択肢もあります。エジプトでは不動産価格の表示や契約は原則EGPですが、実質的に米ドルで価格を決めるケースもあります。日本円→米ドルのタイミングを見計らい、米ドル口座で保持しておき、支払い時にエジプト側でEGPへ換えるという2段構えの管理です。エジプト政府は外貨確保に注力しており、外国人からの米ドル持ち込みには比較的寛容です。

資金余裕とコスト

物件購入費用に加えて諸費用(税金・手数料・渡航費等)も見込んで、総額の1割程度は余裕を持った資金計画を立てましょう。また送金手数料や為替手数料も馬鹿になりません。銀行間の電信送金(SWIFT送金)は1回あたり数千円〜1万円ほどのコストがかかるので、送金回数を減らす工夫も大事です。

日本からエジプトへの送金方法

資金の海外送金には主に銀行送金を利用します。以下は一般的な手順とポイントです。

1. 現地銀行口座の開設

可能であればエジプト国内に自身の銀行口座(外貨預金口座とEGP普通口座)を開設します。外国人でもパスポートと購入契約書などを提示すれば銀行口座開設は可能です。現地口座があれば日本から自分の口座に送金し、そこから売主に振込む形を取れるため、安全で記録も残ります。短期滞在では口座開設が間に合わない場合、弁護士の口座やエスクロー口座を利用することも検討します。

2. 送金手段の選択

日本の銀行からエジプトの銀行へSWIFT電信送金するのが一般的です。送金先は自分名義の現地口座か、直接相手方(デベロッパーや売主)の口座です。送金前に相手の銀行名・支店名・口座番号・SWIFTコード等を正確に確認します。大口送金では銀行送金が安心ですが、金額が小さい場合や分割送金の場合にオンライン送金サービスを検討することもあります。ただし上限や時間の問題があるため、高額であれば銀行送金の利用が一般的です。

3. 必要書類と届出

日本から一定額以上(例えば1回300万円超など)を海外送金する場合、日本の銀行で異動報告書の提出などが求められることがあります。資金用途(海外不動産購入)を正直に申告し、必要な手続きを踏みましょう。また、マネーロンダリング対策上、エジプト側銀行で資金の出所確認を求められる場合もあります。その際は日本の送金元口座の残高証明や契約書コピーを提示すれば足ります。

4. 為替レートと送金タイミング

送金額が大きい場合、為替レートのわずかな違いで受取額が変動します。送金当日のレートを確認し、可能ならレート事前予約(為替先渡し)等を銀行に相談しても良いでしょう。分割送金する際は、日程と金額を事前に計画しておきます。一度にまとめて送った方が手数料は節約できますが、為替リスク分散のため数回に分ける判断もあります。

5. 現地受取り

送金してから通常2〜5営業日でエジプト側に着金します。送金明細をもって銀行に行き、着金の確認をします。自分の口座に受け取った場合は、そこから必要額を引き出すか相手に振込みます。直接相手口座に送った場合も、相手に到着確認を依頼してください。エジプトは外貨不足の際に外貨送金受取に遅延が起こることもありましたが、基本的に入金は問題なく行われます。

安全な資金移動のための注意点

不自然な経路を避ける

第三国の口座を経由したり、現金を持ち込んで両替商で交換する、といった方法はトラブルのもとです。必ず正規の銀行ルートを使い、送金記録を残すことが大切です。後々、資金の出入り証明が必要になった際にも役立ちます。

口座情報の厳重管理

送金先の口座情報はメール等でやり取りする際、セキュリティに注意します。フィッシング詐欺で偽の口座情報を掴まされる事件も海外ではあり得ます。必ず電話などで直接相手に確認するなど二重チェックしましょう。

資金洗浄に注意

エジプト当局は資金洗浄対策のため、大口取引には目を光らせています。正当な購入であれば問題ありませんが、もし売主が代金の一部を国内で現金受領したいなどと言ってきたら断固拒否してください。全額を公式経路で支払わないと、後で登記時に「支払証明」が示せず揉める原因になります。

出国時の現金申告

日本からエジプトに現金を持ち込む場合、100万円相当額を超えると税関申告が必要です(エジプト側でも1万ドル超は申告義務)。基本は銀行送金で対応し、現金持参は最小限にしましょう。

融資利用の可否

日本の投資用ローンを使ってエジプト物件を買うことは、担保評価などの問題で現実的ではありません。エジプト国内でも外国人への住宅ローン提供は限定的で、現金購入が前提となります。ただしデベロッパーが提供する割賦払い(ローンではなく販売条件としての分割払い)は実質的な信用供与と言えます。

例えば2年間無利息で分割、あるいは5年払いで若干の上乗せ利息、というようなオプションが新築プロジェクトでは用意されていることもあります。この場合、将来の支払い計画を立てておく必要があります。日本から年に〇〇万円ずつ送金して賄うなど、キャッシュフローをシミュレーションし、途中で支払い不能とならないよう注意しましょう。

収益送金と為替管理

購入後に賃貸収入が発生した場合、その収益を日本に送金することも考えられます。エジプトは現在、経常収支改善のため外貨準備の流出管理を行っている状況です。賃料収入を円やドルに換金して日本に送る際、送金制限が厳しくなるリスクもゼロではありません(2022年頃に一時輸入代金のドル送金規制などがありました)。

将来的に売却益を国外に持ち出す場合も含め、資金の出入りに関する政策リスクは頭に入れておきましょう。安全策としては、現地で得た収益は現地で再投資するか、必要な範囲内でこまめに送金しておくといった対策が考えられます。

以上、資金面の計画と送金プロセスについて解説しました。為替リスクの管理と適切な送金手段の選択がポイントです。日本とエジプトの金融慣行や通貨事情の違いを踏まえ、資金移動は計画的かつ慎重に行いましょう。ことは可能です。冷静なリスク管理こそ上級投資家の真骨頂と言えるでしょう。

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