【最新版】ベトナム不動産の市場動向を徹底解説|変化する投資環境と成功のポイント

2025年、ベトナムの不動産投資市場は大きな転換期を迎えようとしています。コロナ禍後の景気回復や政策改革の進展により、投資環境が急速に変化しており、日本人投資家にとっても新たなチャンスと課題が生まれています。
本記事では、最新の市場動向を踏まえてベトナム不動産投資の環境を徹底解説します。経済成長や法律改正といったマクロ要因から、都市開発プロジェクトや主要セグメント別のリスク・リターン分析、さらには成功のポイントまで網羅し、変化する市場で成功するための知見を提供します
なぜ2025年が不動産投資のターニングポイントになるのか
2025年はベトナム不動産市場にとってターニングポイント(転換期)と位置付けられます。その背景には、ここ数年の市場の調整局面とそこからの回復の兆しがあります。まず、2022~2023年にかけてベトナムの不動産取引件数は大幅減少し、市場は低迷しました。
実際、政府の金融引き締めや不動産企業の不祥事への取り締まりなども重なり、一時は前年比90%以上取引が減少するほどの急ブレーキがかかったのです。この低迷の主因は10年前のバブル期とは異なり、「住宅不足」と「法的手続きの遅れ」によるもので、高級物件過多に対して手頃な価格の住宅供給が追いつかず、需要層とのミスマッチが起きていました。
しかし2024年後半から状況が変わり始めました。政府は住宅市場安定化のための融資パッケージ(例えば社会住宅向けの約120兆ドンの支援策)を打ち出し、中央銀行であるベトナム国家銀行(SBV)は景気下支えのために政策金利を段階的に引き下げています。2023年には政策金利を合計2%ポイントも引き下げ、商業銀行の貸出金利低減を促しました。
その結果、市場には徐々に資金が流れ込み、不動産需要が下支えされる環境が整いつつあります。金利低下は投資家の購買意欲を刺激し、不動産購入が再び検討され始めました。
加えて、政府高官や専門家の予測でも「不動産市場は2024年後半から回復軌道に乗り、2025年に本格的な反転が期待できる」との見解が増えています。2024年第3四半期まで低迷が続くとの見方もありましたが、それを底に徐々に持ち直し、2025年は本格回復の元年になるというシナリオです。
こうした期待感から、国内外のデベロッパーや投資ファンドも2025年前後に焦点を合わせ、新規プロジェクトやM&Aに積極的に乗り出す動きが見られます。
まとめると、市場調整からの脱却と金融・政策両面のテコ入れによって、2025年はベトナム不動産市場が上昇軌道に転じる重要な節目になると考えられます。停滞期に蓄積した需給ギャップが解消へ向かい、投資環境が改善することで、日本人投資家にとっても参入・追加投資の好機となるでしょう。
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ベトナムのマクロ経済と不動産市場の関係性
ベトナム不動産市場を語る上で、国全体のマクロ経済動向との密接な関係は無視できません。まず経済成長率を見てみると、ベトナムの実質GDP成長率は近年高水準を維持しています。直近の2024年の成長率は約7.1%と政府目標(6.5~7.0%)を上回り、四半期ごとに加速する堅調ぶりでした。1人当たりGDPも4,700ドル規模に達し、中所得国として着実に所得水準が向上しています。
この力強い経済成長が、不動産への需要を底支えしています。工業団地の用地需要や都市部のオフィス拡張、新規住宅購入ニーズなど、経済成長による企業進出・雇用増加が不動産需要を喚起しているのです。
また、人口動態と都市化も重要です。ベトナムは約9,800万人の人口を抱え、若年層が多く将来的な購買力の増大が見込まれます(※2025年時点での推定人口を約9,800万人と修正)。都市化率はまだ40%弱と発展途上であり、政府は2030年までに都市化率45%超を目指しています。
毎年地方から都市への人口流入が続き、ハノイやホーチミン市など大都市では住宅需要が継続的に増加しています。経済成長による中間所得層の台頭も相まって、都市住民のマイホーム志向や高品質住宅へのニーズが高まっています。
マクロ経済と不動産の関係は、景気変動時に顕著になります。例えば、輸出産業の動向が不動産市況に影響を与えるケースがあります。2023年前半は世界経済の減速で製造業が低迷し、それに伴い工業団地への新規投資が一時減速しました。
また金利上昇期には不動産開発業者が資金調達に苦労し、新規供給が滞る一方で、金利低下期には住宅購入者のローン負担が軽くなり需要が伸びるといった具合に、金利・インフレなどのマクロ指標と不動産需要は連動します。現在、ベトナムのインフレ率は2024年通年で約3.6%と安定的で、政府目標(上限4.5%)内に収まっています。物価が安定しているおかげで中央銀行は金融緩和余地を得ており、不動産市場にプラスの効果を及ぼしています。
さらに、海外からの直接投資(FDI)も不動産市場と密接です。ベトナムは東南アジア有数のFDI受入国であり、2024年の対内直接投資認可額は約337億ドルと前年から10%増加して過去最高水準となりました。その中で不動産分野は業種別認可額の第2位(約50億ドル)を占め、前年の2.4倍に急増しています。
製造業向け投資が引き続き最大ですが、不動産がそれに次ぐ位置にあることは、外国資本がベトナムの不動産市場に強い関心を寄せている証拠と言えます。こうした海外マネーの流入もまた、マクロの視点から不動産需要を押し上げる要因です。
要するに、高成長・人口ボーナスによる需要増+安定したマクロ経済指標+旺盛な海外投資という三拍子が揃うことで、ベトナム不動産市場は強固な土台の上に成り立っています。投資家は経済成長率や金利動向、FDIのトレンドといったマクロ指標を常にウォッチし、それらが不動産市場に与える影響を読み解くことが重要です。


政策・規制の変化がもたらすチャンスと課題
近年、ベトナム政府は不動産業界に関連する法制度の大幅な見直しを進めており、政策・規制の変化が市場環境に新たなチャンスと課題をもたらしています。2024年から2025年にかけて施行される新法の数々は、投資家に追い風となる部分もあれば、対応すべき変更点も含んでいます。ここでは主な動きを整理します。
外資投資規制の見直しや優遇策の最新動向
まず、外国資本に対する投資規制や優遇策です。ベトナムは元々、外資企業に対してほぼ全業種で100%外資出資を認める開放的な投資法制(2021年施行の改正投資法など)を整えています。不動産分野でも、外国企業が現地法人を設立してプロジェクト開発を行うことが可能であり、外資参入ハードルは年々下がっています。
最近の動向としては、海外在住ベトナム人(越僑)への規制緩和が挙げられます。2024年改正の新土地法により、これまで「国内在住のベトナム人」に限られていた土地取得権が、海外在住のベトナム人にも拡大されました。
約550万人とも言われる越僑が正式に土地購入できるようになったことで、新たな資金流入が期待されます。これは外国人投資家(非ベトナム人)そのものではないものの、準ずる存在として市場にプラスの影響を与えるでしょう。
純粋な外国人投資家に関する規制も大枠では緩和方向です。2015年の住宅法改正で外国人個人の住宅購入(コンドミニアム)解禁以降、現在も外国人はコンドミニアム全体戸数の30%までという上限のもとで住宅ユニットを購入可能です。今回の新住宅法(2024年改正)でもこの枠組み自体は維持されましたが、外国人が物件を賃貸運用する際の行政手続き簡素化など、実務的な改善が図られています。
また、政府は優良な外国投資誘致のため、経済特区やハイテクパークなど特定エリアで法人税の減免措置を講じています。不動産開発プロジェクトでも、社会住宅を手掛ける投資家に対する優遇(土地使用料の免除・減額や利益率上限の緩和など)が拡充されました。
例えば新住宅法では、社会住宅プロジェクトの開発業者は建設費総額の最大10%を利益として享受できるよう利幅が引き上げられています(従来は低く抑制)。このような優遇策は、間接的に低所得者向け住宅の供給を促し、市場全体の健全化に資するものです。
投資家にとってチャンスとなる規制緩和がある一方で、留意すべき課題(難しさ)も残ります。例えば、外国人が住宅を購入できるとはいえ土地そのものの所有権は認められない(あくまで建物部分の所有と土地使用権の間接的取得のみ)点や、住宅購入後の転売時にも外国人枠の制限が付いて回る点は注意が必要です。優遇措置も適用要件が細かく定められており、実際に恩恵を受けるには現地法令の細部まで理解しておく必要があります。
今後さらに外資誘致を進める中で、外国人の土地利用期間延長や取得枠拡大などが議論される可能性もありますが、現時点では制度の範囲内で巧みに投資機会を探ることが肝要です。
不動産取引に関わる法律改正や行政手続きのポイント
次に、不動産取引関連の法律改正について見てみましょう。ベトナム国会は2023~2024年にかけて、「土地法」「住宅法」「不動産業法」の3つの重要法令の改正を相次いで可決し、2024年8月1日より順次施行しています。
これらは不動産ビジネスに直接影響するルールであり、その主な改正ポイントは以下の通りです。
改正土地法(2024年法)
約10年ぶりの抜本改正で、市場の長年の課題解決を目指しています。土地価格枠の廃止が最大のトピックです。従来、政府が5年ごとに地域ごとの土地価格の上限・下限を定める「価格枠制度」がありましたが、これが撤廃されました。
代わりに各省(市)の人民委員会が毎年、市場実勢を反映した土地価格表を作成・公表する仕組みに移行します。これにより、用地買収時の補償額算定や税金評価額が迅速かつ柔軟に見直され、市場価格とかい離した不透明さが是正される見込みです。また、土地利用証明書(いわゆる「赤本」「ピンクブック」)の発行プロセスも改善されます。
長年、役所の許認可遅れにより正式な土地権利証を取得できないケースが問題でしたが、新法では所定の許可を得た者には確実に証明書を発行する規定が盛り込まれました。そのほか、農地利用権の譲受制限緩和(上限面積の拡大)や、小規模アパート(ミニアパート)規制の明確化など、多岐にわたる改正が行われています。
改正住宅法(2023年法)
住宅分野の開発・取引ルールを定める法律で、今回の改正では集合住宅の所有期間に関する規定が注目されました。施行前の草案では「コンドミニアムの区分所有権に期間(例えば50年など)を設ける」提案があったものの、最終的に所有期間は設けず従来通りとすることが決定しています。
これは区分所有者(購入者)の権利が従前通り保護されるという点で安心材料です。
また前述の社会住宅促進策(投資家へのインセンティブ強化)や、火災事故を受けたミニアパートの防災基準強化なども盛り込まれました。さらに、オフプラン物件(将来完成する住宅)の購入に関して手付金(デポジット)の上限5%や、中間支払総額の制限強化(引渡し前は代金の70%までしか受領不可など)といった消費者保護策も定められ、買い手にとって安全性が向上しています。これらの改正は市場の信頼性向上につながり、中長期的には健全な取引拡大が期待できます。
改正不動産事業法(2023年法)
不動産ブローカーや取引手続を規律する法律で、改正によりブローカーへの資格要件が強化されました。具体的には、個人ブローカーは国家試験による資格取得を義務付けられ、未資格者の営業は禁止されます。これにより、玉石混交だった仲介業界の質向上が図られ、外国人投資家にとっても信頼できる仲介者を見つけやすくなるでしょう。
また不動産取引プラットフォームの登録義務なども設けられ、情報開示が進む見通しです。行政手続面では、取引に必要な書類の簡素化や電子化も推進されており、以前に比べ物件購入・登記のプロセスがスムーズになりつつあります。
以上のように、法改正は投資環境を大きく変える両刃の剣です。良い方向としては、市場の透明性や安全性が増し、中長期で海外投資家にも参加しやすいルール作りが進んだ点が挙げられます。例えば土地価格枠撤廃で時価に近い取引が可能になることや、契約時の消費者保護強化で購入リスクが減ることなどは、投資判断をしやすくします。
一方で課題としては、新法が細部にわたり複雑で実務への浸透に時間がかかる点です。法律間の整合性やガイドライン策定はこれから進む部分もあり、過渡期には行政解釈の不統一が起こる可能性もあります。投資家は信頼できる法律事務所やコンサルタントから最新情報を得つつ、変化に対応した戦略を練る必要があります。
法改正名 | 施行年 | 主要改正点 | 投資家への影響 |
---|---|---|---|
土地法(2024年法) | 2024 | 土地価格枠の廃止、 土地利用証明書発行プロセスの迅速化、 農地利用権の譲受制限緩和など | 土地の取引価格が市場実勢に近づき、 補償や税評価の不透明さが改善。 投資家は用地取得リスクを軽減しつつ、 開発手続きの遅延リスクにも留意が必要 |
住宅法(2023年法) | 2023 | コンドミニアムの所有期間導入案を撤回、 社会住宅向けインセンティブ拡充、 オフプラン物件の手付金上限(5%)設定など | 区分所有者の権利保護が強化され、 オフプラン購入の安全性が向上。 社会住宅プロジェクトへの投資妙味も増え、 買い手・開発業者双方のリスクが軽減 |
不動産事業法(2023年法) | 2023 | 不動産ブローカー資格要件の強化、 未資格者の営業禁止、 取引プラットフォームの登録義務など | 仲介業界の質向上で、 海外投資家が信頼できるブローカーを選びやすく。 一方で過渡期は行政解釈の相違が起こり得るため、 専門家のフォローが重要 |
都市開発・インフラ整備で加速する不動産需要
ベトナムでは国家規模でのインフラ投資と都市開発プロジェクトが進展しており、それが各地の不動産需要を力強く押し上げています。特に主要都市であるハノイとホーチミン市では、大型再開発や交通インフラ整備が相次ぎ、都市の姿を大きく変貌させつつあります。これらの動きは不動産価値にも直結するため、投資家はウォッチ必須です。
ハノイやホーチミン市を中心に進む再開発プロジェクト
ハノイでは旧市街地の再開発や郊外のニュータウン開発が並行して進んでいます。代表的なのが、西部のタイホータイ(西湖西)エリアで進行中の「スターレイク・シティ」などの新都市プロジェクトです。
韓国系デベロッパーが中心となり、大規模な複合都市(住宅・オフィス・商業)を造成しており、完成すれば外交団地区や高級住宅街としてハノイの新たな中心地になると期待されています。
また北部郊外のドンアン地域では、日本の大手企業連合(住友商事など)がスマートシティ開発を手掛けており、こちらも数万人規模が居住可能な近未来都市を目指しています。ハノイ都心部でも老朽集合住宅の建替えや公共施設跡地の再開発が増えつつあり、都市機能の更新が活発化しています。
ホーチミン市ではさらに目覚ましい再開発が展開中です。最大の注目はサイゴン川東岸の「トゥーティエム新都市区」です。ここはホーチミン市中心(1区)の対岸に位置し、数十年前から計画されていた一大プロジェクトが本格化しています。
広大な未開発地に金融センターや高級住宅街、文化施設を誘致する計画で、既に一部では高層オフィスビル群やコンドミニアムが建設され始めています。2023年には新たな歌劇場建設もスタートし、シンボルとなる超高層ビルも計画されています。
今後数年でトゥーティエム地区は“東洋のプドゥッチ(上海浦東)”とも言うべきスカイラインを形成し、ホーチミン市の新都心として台頭するでしょう。こうした再開発エリアの地価・物件価格はプロジェクトの進行に伴って上昇が見込まれ、早期参入した投資家には大きなキャピタルゲインの機会となります。
ホーチミン市では他にも、2021年に誕生したトゥードゥック市(Thu Duc City)の動向が見逃せません。ホーチミン市の東側に位置する第2区・第9区・トゥードゥック区を統合して設立された特別市で、「イノベーション都市」としてIT産業や大学、ハイテク工業団地が集積する計画です。
既にサイゴン・ハイテクパーク(ハイテク工業団地)には大手IT企業や製造業が多数進出しており、周辺には住宅開発も活発です。例えば国内最大手Vingroupが手掛ける巨大住宅タウン「ビンホームズ・グランドパーク」では数万人規模の居住区が整備され、近代的なタワーマンション群が林立しています。
トゥードゥック市全体が発展することで、ホーチミンの不動産マーケットは中心部から郊外まで裾野が広がり、多極分散型の需要が生まれています。
交通インフラや新興都市計画が不動産価値に与える影響
再開発と並び、交通インフラ整備も不動産価値を左右する重要ファクターです。特に待望されていた都市鉄道(メトロ)の開業が現実のものとなり、不動産市場にもポジティブな影響を与えています。
ホーチミン市では都市鉄道1号線(ベンタイン~スオイティエン線)が遂に完成し、2024年12月に正式開業しました。これは市中心部と東部郊外を結ぶ全長約20kmの路線で、日本のODA支援で建設されたものです。開業初日から多くの市民が乗車し話題となりましたが、不動産面でも沿線地域の注目度が一気に高まっています。
駅周辺では商業施設や高層コンドミニアムの開発計画が相次ぎ、駅近物件の価格上昇やテナント需要増が予想されます。いわゆる「駅近プレミアム」が本格的に認識され始め、郊外でも利便性が高まる地区には投資マネーが向かう流れができています。
ホーチミン市では続いて2号線の建設も進行中で、将来的には7路線の地下鉄網が整備される計画です。東京や大阪のように鉄道網が街の形を変え、不動産価値の地図を塗り替えていく可能性があります。
空港や高速道路といった国家インフラも見逃せません。特にビッグプロジェクトとして挙げられるのが、ホーチミン市近郊に建設中のロンタイン新国際空港です。現在のタンソンニャット空港の容量限界を補うべく、ドンナイ省で建設が進められているこの新空港は、2025年末までの第1期完成を政府が厳命しています。
開港すれば年間2,500万人の旅客を捌くハブ空港となり、ホーチミン都市圏のみならず南部全体の発展を飛躍させると期待されています。新空港予定地周辺では既に不動産価格が高騰しており、将来的な空港関連都市の形成を見越した投資が活発です。
また空港アクセスを支える高速道路(ロンタイン~ダウザー高速など)の整備、ホーチミン市と周辺省を結ぶ環状高速道路3号線・4号線の建設決定など、大規模交通網の拡充が次々と動き出しています。道路網の整備により郊外工業団地や新都市へのアクセス時間が短縮されると、そのエリアの地価が上昇し、工場用地や住宅地としての価値が向上します。
ハノイでも都市鉄道2路線(カットリン~ハドン線、ニョン~ハノイ駅線)が部分開業・建設中であり、郊外から都心への通勤利便性が改善されつつあります。加えて、ハノイ市域を取り囲む環状道路4号線のプロジェクトが動き出し、2023年に着工しました。
これが完成すればハノイ都市圏の広域連携が強まり、周辺省との経済一体化が進むでしょう。例えば隣接するフンイエン省やバックニン省といった衛星都市での住宅開発、工業団地開発に拍車がかかり、首都圏全体で不動産需要が底上げされる効果が見込まれます。
これらのインフラ・都市計画による波及効果は、投資家にとってチャンスです。「交通インフラ×不動産」は高い相関性があり、新駅予定地周辺や高速道路IC付近、空港新設地域などは投資妙味が大きいと言えます。
もちろん計画の遅延や期待先行で価格が上がりすぎるリスクもありますが、中長期的視点に立てばインフラ整備は地域価値を底上げする確実な要素です。日本人投資家としても、こうした都市開発トレンドに乗ったエリア選定を行うことで、高い成長ポテンシャルを取り込むことができるでしょう。
投資家が押さえるべき主要セグメント:住宅・オフィス・工業用地
ベトナム不動産市場には様々なセグメント(用途別市場)が存在しますが、中でも住宅(レジデンシャル)、オフィス(商業用オフィス)、工業用地(産業不動産)の3つは投資家にとって主要な関心領域です。それぞれ需要動向や収益性、リスク・リターンの特徴が異なるため、セグメントごとの知識を押さえておく必要があります。
住宅セグメント
住宅市場は一般消費者の購買力や金融環境に影響されやすい分野です。ベトナムでは都市人口の増加と中間層の拡大により、マンションや戸建て住宅への根強い需要があります。
特にホーチミン市では年間約5万戸とも言われる住宅需要がある一方で、近年は法手続き停滞や開発業者の資金難により供給不足が生じ、高級物件中心の市場構造になっていました。そのため手頃な価格帯(中間所得者向け)の住宅が慢性的に不足し、潜在需要が積み残されている状態です。
こうした背景から、中級~大衆向けの新築分譲マンションは今後有望な分野と言えます。需要に対して供給が追いついていないため、売出し時に即日完売するケースも珍しくなく、値崩れリスクが低めです。また住宅は賃貸運用によるインカムゲイン(家賃収入)も期待できます。
ホーチミンやハノイの中心部マンションでは表面利回りで年5~6%程度の賃貸利回りが見込める物件もあり、日本の住宅投資に比べ高収益です。
一方でリスクとしては、価格変動が景気に左右されやすいこと、外国人が購入できる物件には制限があること、流動性(売却のしやすさ)が市場環境によって変動しうることが挙げられます。特に投機的な過熱期に買った物件は、調整局面で値下がりする可能性もあるため、立地・価格帯の見極めが重要です。
オフィスセグメント
オフィスビル市場は都市の経済活動の活発さと深く連動します。ホーチミン市とハノイ市は国内最大のビジネス拠点であり、近年多国籍企業の進出増加に伴ってグレードAオフィスの需要が高まってきました。
ホーチミン市では2022~2023年頃に空室率が一時上昇したものの、2024年後半から需要が急回復しオフィス賃料は直近5年で最高水準に達しています。賃貸需要の内訳を見ると、日本企業が全体の約19%と最大となっており、次いでベトナム企業16%、韓国・米国企業各15%というデータがあります。これは日本企業の進出意欲が旺盛であり、質の高いオフィス空間への需要を牽引していることを示しています。
結果、ホーチミン中心部のグレードAオフィス月額賃料は1平米あたり50ドル台半ばに達するとされ、地域他国と比べても遜色のない水準です。オフィス投資のリターンは長期契約による安定賃料収入と、都心部の土地値上がりによる資産価値向上にあります。一棟まるごと投資は大企業向けですが、個人投資家でもオフィスビルの区分区画を購入したり、リート(REIT)や不動産ファンドを通じて間接投資する道があります。
リスク面では、新規供給過多による空室率上昇や賃料下落が挙げられます。例えばハノイでは2024年時点で空室率18%超とやや供給余り感があり、今後の新規ビル完成で一時的に競合が激化する可能性があります。また景気後退期には企業が縮小して解約・フロア縮小が起こりやすいため、立地とビルグレードの選別がカギとなるでしょう。
工業用地セグメント
工業用地や物流倉庫といった産業用不動産は、ベトナムが「世界の生産拠点」として存在感を増す中で非常にホットなセグメントです。世界的なサプライチェーン再編(中国+1戦略)により、多くの製造業企業がベトナムに生産移転・新工場設立を進めています。
その結果、各地の工業団地(インダストリアルパーク)にはテナント需要が殺到し、入居率は常に80~90%台と高止まりしています。特に南部キーエリア(ホーチミン市周辺のビンズオン省・ドンナイ省など)では工業団地の賃貸料が年々上昇しており、2023年時点で南部の工業用地賃料は北部より約4割高いとの報告もあります。具体的には、工業用地のリース単価はリース期間全体(例えば50年)で平米170ドル超といった水準感です。
こうした背景から、工業団地開発・運営に投資する海外資本も増加しています。直近では2023年にアジア最大級の物流ファンドであるESRがベトナム大手工業団地運営会社(BW Industrial)に4億5千万ドルを投じるなど、大型投資案件が相次ぎました。
産業不動産投資の魅力は、製造業の長期安定稼働による確実な賃料収入と、産業発展に伴う用地価値の上昇です。テナントである工場企業は一度立地を決めると長期間操業する傾向が強く、安定したキャッシュフローが見込めます。
さらに、周辺インフラ整備や経済成長に伴い土地価格自体も上がる二重のメリットがあります。ただし、個人が直接投資するにはハードルが高いため、工業団地開発企業の株式取得や、不動産ファンド経由の投資が現実的な選択肢になるでしょう。
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外資参入の最新動向と業界内競争の激化
上述の通り、ベトナム不動産市場には海外から巨額の投資資金が流入していますが、それが市場競争環境を大きく変化させています。外国資本の参入動向と、それに伴う競争激化の様相について整理しましょう。
世界的な投資資金の流入状況とベトナム市場の位置づけ
まず世界的視点で見ると、ベトナムは近年、グローバル投資家にとって有望なフロンティア市場としての地位を確立しています。アジア新興国の中でも政治的安定性や経済成長率の高さ、投資収益率の魅力から、各国の不動産ファンド・デベロッパーがこぞってベトナムに注目しています。先述のFDI統計でも、不動産分野への投資額はシンガポール・韓国・香港といった投資大国から大きく流れ込んでいることが確認できます。
特にシンガポール資本の存在感は群を抜いており、2024年の国別FDIではシンガポールが約90億ドルで首位、韓国約68億ドル、香港約42億ドルが続きます。日本は約26億ドルで5位にとどまりましたが、これは日本勢がやや慎重だった一方、シンガポールや韓国が攻勢を強めたことを意味します。
具体例として、シンガポール系ではCapitaLandやKeppel Land、Frasers Propertyなどがベトナム国内で住宅・商業開発を積極展開しています。高級コンドミニアムからオフィスビル、大型タウンシップ開発まで、そのポートフォリオは多岐にわたります。
また韓国系ではデベロッパーのGSやLotteが大型プロジェクトに参画し、ホーチミン市のランドマーク72タワー建設やハノイのスマートシティ開発などに深く関与しています。香港、中国本土、台湾などの投資家もM&Aを通じてホテルやオフィスビル取得を進めており、市場のグローバル化が急速に進んでいます。
こうした世界資本の視点から見ると、ベトナム市場はASEAN内でもタイやマレーシアに続く「次の市場」として魅力が高まっていると言えます。成長余地が大きく、かつインカム・キャピタル双方のリターンが期待できる点で、すでに成熟したシンガポールやバンコクより高い利回りを求める投資家にフィットします。
さらに中国本土の不動産市場が減速する中、その代替先としてベトナムを選ぶ動きもあるようです。つまり世界の余剰資金がベトナム不動産に向かいやすいマクロ環境が整っているのです。
海外投資家が増加することで予想される競争環境
海外資金の流入増大は、市場にポジティブな流動性をもたらす一方で、競争環境の激化という側面も孕みます。具体的には、優良な物件・土地の争奪戦が熾烈になり、価格が高騰するケースが増えています。例えばホーチミン市のトゥーティエム新都市区では、2021年末に行われた公有地売却入札で地場不動産企業が破格の高値を付けて落札した(後に支払い不能で白紙化)という出来事がありましたが、その背景には外資を含む市場全体の地価上昇期待がありました。
現在も一等地の取得には数多くのデベロッパーが名乗りを上げ、入札価格が想定を上回る事例が散見されます。資本力で勝る外資勢が加わることで、地場デベロッパーとの競合も激しくなり、結果として用地取得コストや物件価格の上昇圧力となって表れます。
また、既存不動産のM&A市場でも海外投資家が席巻しています。2023年のある調査によれば、ベトナム国内の不動産M&A案件における買い手の92%が外国人投資家だったとの報告があります。台湾・シンガポール・韓国などが主導する大型買収が相次ぎ、経営難に陥った地場不動産会社の資産(開発プロジェクトや保有不動産)を外国勢が次々と買い取っている状況です。
これは市場の再編・整理を促す点で良い面もありますが、一方で有望案件は外国勢に押さえられてしまう傾向とも言えます。日本企業もこのM&Aの波に遅れまいと、野村不動産や三菱商事などが現地デベロッパーへの出資や合弁事業を進めていますが、全体から見れば存在感はまだ限定的です。
競争激化のもう一つの側面は、品質・サービス競争です。外資デベロッパーの参入により、建築デザインの洗練や施工品質、アメニティサービスの充実など、市場全体の水準が引き上げられています。例えばシンガポール系CapitaLandのマンションはモダンな設計と高品質な管理サービスで富裕層に人気ですし、日本企業が関与した物件は耐久性や細部の仕上げで評価が高いです。
こうしたハイクオリティ物件が増えることで、ローカル企業も追随せざるを得なくなり、結果としてエンドユーザーにとって良質な選択肢が増えるという利点があります。ただし投資家目線では、品質向上=コスト増にもつながるため、開発利益率の確保は容易ではなくなります。高度化する市場で勝ち残るには、単に土地を確保して建てれば売れるという時代から、差別化戦略やブランディングが不可欠な時代へと移行しているのです。
このような競争環境下、日本人投資家にとっては「出遅れないこと」と「得意分野を活かすこと」がポイントです。出遅れないというのは、市場が活況な今のうちに有望案件に参画することです。好条件の土地・物件情報は国籍問わず投資家間で奪い合いになるため、現地に精通したパートナーと提携して情報網を築き、スピーディーに意思決定することが求められます。
また、日本人の強みとしては品質管理や長期視点の運営ノウハウが挙げられます。短期利ざやを狙う投資家が多い中で、日本勢は比較的長期安定志向で信頼を勝ち得ている面があります。現地デベロッパーとの協働でも信頼関係を築きやすく、ウィンウィンのパートナーシップを構築できるでしょう。
競争が激しい市場だからこそ、日本企業・投資家ならではの堅実性や技術力を武器に差異化し、市場での存在感を高めていくことが成功のカギとなります。